第1章

プロローグ

『あなたにとって見えないもの、といえば何か?』と聞かれて君たちはなんと答えるだろうか。


ある船乗りは「海の向こうに果てしなく広がるこの世界」と答え大海原へ飛び出し、ある天文学者は「空の向こうの、地球を飛び出し、銀河系をこえ・・・その先の未知なる宇宙」と答え望遠鏡をのぞき込むのだろう。

思春期真っ只中の少年は「気になるあの子の絶対領域と俗に呼ばれるようなその奥」と答え、青春を謳歌する少女は「気になるあの人が思いを寄せている人」と答え、それぞれの恋心に揺れる日々を送るのだろう。


じゃあ僕はどう答えようか?そうだね,ではこう答えよう,「幽霊、妖怪、神様で『あった』」と。


何を言い始めるのか、そんなものは見える見えないとかいう問題ではなく,存在しないものではないか、と君たちは僕を笑うかもしれない。そう、幽霊なんていない、妖怪なんてお話の中のものだ、神様なんて信じるだけ無駄だ、そう思うのが君たちの『日常』なのだ。笑うのも当然のことだろう。


しかしそうやって今笑った君たちを、そしてあの時までは同じように笑っていた僕を,まるで笑い飛ばすかのように『日常』と呼ばれるものは『日常に非ざるもの』へと一瞬の内に変化する。

突然目に入った光景、ふと耳に入った音楽、一口食べた食べ物・・・。日常が変わってしまう可能性はそこら中に落ちているものだったりする。それは奇妙であり,奇怪であり,貴重であり,奇跡であると僕は思う。


ということは君たちが今僕の話を聞いているのもまた一つの奇跡,といったところなのかもしれない。

そう思えると少し面白く思えたりはしないかい?

さぁどうだ,この奇跡のついでにもう少し僕の話を聞いていかないか?


別に嫌ならここで引き返したっていい。

でも聞いてくれるなら僕は拙いながらも伝えようと思う。

時に笑い,時に泣き,時に怒り,時に恋に悩んだあの日常の,あの非日常のお話を。

この,『幽凪町の非日常な日常」のお話を。

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