第7話 「守護(まも)って、祟り神」

・7・「守護(まも)って、祟り神」


「ああ、みんなそんな風に解釈してたんだぁ」

 空き教室に移動した朱音は、賢太から先程の騒ぎの理由を訊いていた。


 殆どの者が、彼女の一言を愛の告白だと勘違いしていた、と。和馬はその典型的な例で、これにより精神的ダメージを深く負ってしまった。


「まさか、君と付き合う訳ないじゃん。女の子みたいな男子は全然好みじゃない」

 あっけらかんとした口調で朱音は言う。

「ストレートに言わないで下さいよ」

 賢太は項垂れる。

 自分でも気にしてるんだから。


「じゃあ、本題に入ろうか?」

 賢太の心情など露ほども知らず、朱音は切り出す。

「花子さん騒ぎを終わらせるから、手伝って」

「またしても直球ですね」

 賢太はそう言ってからしばらく考える。


 待てよ。もしかすると、あのまがのい様なら……。

「……あの、僕の友達もその騒ぎを確かめようと計画しているんです」

 そう言って、賢太は三好の身に降りかかった出来事を朱音に話した。

「だから、乗ります。協力します。心強い人がいると気が楽だし」

「心強いだってさ。やったじゃん」

 朱音は誰にともなく声を掛ける。

「今、誰に向かって言ったんですか?」

「あいつに言ってるのよ」

 あいつ? ああ、まがのい様か。でも今は――


「……いませんよ」

「え?」


「見えないんですよ、まがのい様が」

 賢太は辺りを見渡したが、まがのい様はどこにもいなかった。

 影も形もない。正に言葉通り。

「じゃあ、どこに?」

「さて? でも憑りついてるんでしたら、多分またどこかで現れるかと」

 それを聞いた朱音は寂しそうに俯く。

「何だかそれを聞くと寂しいな。ずっと傍にいると思ったのに……」


「憑りつかれる理由とかって心当たりありますか?」

 賢太の問いに、朱音は首を左右に振る。

「家とかで祀っているとか?」

「多分、そういうのも無いかも。ああ、でも……」

 朱音は何か思い出したようだ。


「いつから始めたんだっけな? 今も週一で神社に御賽銭入れてるよ」

「どこの神社?」

「山奥の小さな神社。もう潰れちゃってるみたいだけどさ。何だかもう習慣になっていて、ずっと続けてるんだ。これからも健康でいられますようにって」


 賢太は考えを巡らせる。

 彼女の後ろで見守っている理由は、その神社に欠かさず通い続けているから?

 だとしたら、後ろにいる理由も頷ける。

「でも、まがのい様だとしたら、祀っている神社が違うんですよね」


 何しろ、まがのい様の立派な社が、街の北東側にあるのだから。


「はて? じゃあ、こいつは何だろ? でも、守ってくれてるんなら、ちゃんと感謝しないと。いつもありがとうございます。という事で、花子さんからあたしを守ってください!」

「ノリが軽いなぁ……」

 そんな都合よく頼んでもいいのだろうか?

 賢太は不安になった。

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