第12話 不思議な破られた封印

 最強的に融合した私にもはや敵はいない、と思う。試しに川原の小石を拾って投げてみる。するとお城の最上階に当たって、屋根が弾けとんだ。やっぱりこの力は本物みたいだ。

「私がこの姿でいられるのは、山々の木々が紅く色付く季節までなんだ」

「なによそれ、アンタずるいわよ」

「いくらなんでもやり過ぎじゃないかしら」

「うるさい」

 文句を言ってきたオカマを力でねじ伏せてやる。移り行く季節を感じる事の出来ない奴は嫌いだ。

 ルビーかサファイアかどっちかわからないけど片方を蹴る。すると、お城まで飛んでいって石垣にめり込んだ。石垣に人形の穴が空いている。我ながら自分の力が恐ろしくなる。

 そう言えば昔の偉い人は「人は石垣、人は城、人は堀」と言う言葉を残したそうだ。そんな発想が出来るなんて、きっととんでもなく残忍な人だったんだろう。


「そろそろ石垣から出て来てよ。せっかくの二対二なんだよ」

 二対一になると弱い者いじめみたいになってしまう。だから二人同時に倒さないといけない。


「言われなくたって出てくるわよ。いくわよルビー」

 二人のオカマが向かってくる。実に見事な内股で。そこから繰り出される二人の拳。私は郷土歴史資料館で貰ったパンフレットを読み返しながら、二人の拳を避けていった。


「当たらないわ、私達の攻撃」

「なんて素早い身の回り」

 オカマ達が息を上げ始める。

「どうしたの、もう終わり。コンビネーションはどうしたの。本当にオカマなの」

 少し挑発してみた。


「おい、あんまりオカマを怒らせるんじゃねぇぞ」

「これは好きじゃなかったんだけどな」

 どういう事だろう。二人の筋肉が隆起していき、まるで金剛力士のような姿に。

「マッスルタワーマンション」

「筋力はさっきの三倍だぜ」

 そんな凄い技を何故はじめから使わないのか。大体理由は分かる。

 私は筋肉の大樹をすり抜け、背後から一人突き飛ばす。するともう一人とぶつかり、二人まとめて石垣に激突した。


「オカマ的に美しくないから嫌なんでしょそれ」

「普通に肉体に負荷がかかりすぎるから……」

「ぐわっ」

 二人は石垣にぶつかった拍子に、風船みたいに身体がしぼんでいく。やっぱり無理をしてはいけない。そして、何度も石垣を壊されてショックを受けたお城にも限界が訪れた。

「お城が爆発を始めた。綺麗だね」


 二人のオカマ達は爆発から逃げる様に川に飛び込んだ。

「ぎゃぁ助けてぇ」

「私達泳げないのよぉ」

 オカマ達はどこかに流されて行った。何者にも縛られず、自由に流れていくような人生こそ美しい。二人は救われた。


 さて、この勢いでブラック白雪姫とやらも倒してしまいたい。と思った時に身体に違和感を感じた。

「ぐっ」

 強烈な疲労感と眠気が私を襲い、その場に倒れこむ。私はそのまま意識を失ってしまった。



 次に起きた時、私は私に戻っていました。隣ではクマーさんが寝ています。とんでもなく身体がだるいです。融合で消費されるエネルギーはすさまじい様ですね。


「それにしてもおかしい、融合が解除されるタイミングが早すぎる」

「それは徹夜で麻雀をしてたから肉体に負荷がかかり過ぎたんじゃないかしら」

 魔女のおばさんの考察、当たってる気がします。


「まだブラック白雪姫復活まで時間があるわ。今は身を休めなさい」

 その時、お城が大きく爆発して、屋根の瓦が飛び、私達の頭上を越えて、異世界へ通じるゲートに命中しました。するとそこからゲートにひびが入り、ゲートを閉じていた南京錠の部分が取れてしまいました。

「そんな、封印が解けた。ブラック白雪姫が復活するわ」

「まだ動けないぐらいしんどいんですけどぉぉ」


 ついに軽はずみに異世界のゲートが開かれました。扉の隙間から姿を覗かせたのは黒髪の女性。等身大パネルで見たのと同じ、あのブラック白雪姫でした。

「あっあぁ」

 と言ってブラック白雪姫は扉の前に倒れてしまいました。よく見たら姿もぼろぼろで今にも死にそうな感じです。


「すでに死にかけてるわ、中で一体何が」

 その時、その場にいた全員が絶望的なまでの威圧感を感じました。

「これは」

 異世界へ通じるゲートからもう一人、女性が出てきました。それは私がずっと待ち望んでいたはずの人。

「ヒンデレラッ」

 魔女のおばさんが叫びました。

 その姿は昔と何一つ変わらず、時が止まっていたかの様です。


「久しぶりね、オミシア。それにリンデレラも大きくなったわね」

 今確かにオミシアと、そう呼びました。郷土歴史資料館で見た通りなら、お母さんを封印したのは魔女のおばさん。

「オミシアも昔と変わらないのね」

「お前を封印したあの日から、私の時間は止まったままなのよ」

 魔女のおばさんの年齢がいまいちよくわからないのは、意図的に老化を止めていたからなんだと、この時知りました。


「とりあえずヒンデレラ殿が無事で何よりじゃ」

 普段から険しい表情のノブ・ナーガ様も安堵した様子。

「待ってッヒンデレラに近づいてはいけないッ」

 魔女のおばさんの忠告よりも早く、ノブ・ナーガ様は崩れ落ちました。あまりに速く見落としそうでしたが、確かにノブ・ナーガ様が間合いに入った瞬間、お母さんの蹴りが顎を捉えていました。


「やっぱり様子がおかしいわ。一体異世界で何があったの」

「フフフ、よくぞ聞いてくれたな」

 さっきからその辺に転がっていたブラック白雪姫が反応しました。

「お母さんに何をしたんですか」

 私も疲れていたのでその辺に転がりながら聞きました。


「私は瞳術が得意でね。この眼で睨んだ者の悪の心を引き出し、操る事が出来るのさ」

「そんな、じゃあお母さんも」

「その通り、悪の心を引き出す事に成功した。しかし、この女があまりにも強すぎたんだ。私にはもはや制御不能。異世界でひたすらトレーニングに付き合わされ、この女は暴走殺戮マシーンになってしまったぁぁぁッ」


 ブラック白雪姫はお母さんに蹴飛ばされ、どこか遠くへ転がって行きました。

「この私にもヒンデレラを壊してしまった責任はある。ここは私が何とかするわ」

 魔女のおばさんはお母さんと向き合いました。

「魔女のおばさん、お母さんを元に戻せるの」

「洗脳系の魔術は大体後頭部をいい感じの角度で叩けば治るわ」

「私の後頭部を叩けるかな、オミシアに」


 なんかもう色々不安しかありません。

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