弱気シンデレラと不思議物語
コウベヤ
第1話 不思議な魔女
シンデレラの物語って知ってますか。子供の頃に何度もお母さんに読んで貰った大好きな物語。輝く女の子に素敵な王子様、何もかもがまぶしい世界ですよね。
それから、物語を読み終わった後にお母さんがいつも言っていた事
「あなたはシンデレラの血を引く女の子なのよ」
って。
でもそんなのあり得ないよね。だってあのシンデレラと違って私はこんなにもみすぼらしいのに。
「ぐわぁぁぁ」
私はゴミ置き場に突っ込んだ。生ゴミが派手に舞い上がる。そして、私を投げ飛ばした意地悪な継母は
「いいかいリンデレラ、さっさとゴミを片付けて料理をしておくんだよ」
と言って西へ行きました。
お母さんがいなくなって七年。十四歳の私は見ての通りゴミの様な日常をこの継母ハウスで過ごしていました。
意地悪なのは継母だけではありません。継母には三人の娘がいたのです。
「リンデレラ、掃除をしなさい」
「リンデレラ、肩を揉みなさい」
「リンデレラ、洗濯しなさい」
意地悪な三人の姉は継母と一緒になって私に仕事を押し付けて来ます。ライフワークバランスってなんだろう。
ライフワークバランスはともかく私にとって心に引っかかる事がひとつ。実は今度の祝日にお城で王子様主催のパーティーが開催されるのですが、私だけは留守番。あぁお城で王子様とパーティーだなんて、まるでシンデレラみたいで憧れるじゃないですか。それなのに継母は私の分の参加券を売ってしまうなんて。
そんな私の唯一の楽しみは街に買い出しに行く時、安売りで浮いたお金でやる賭博です。
「おぉ、お使い姫の登場だぜぇ」
「今日は勝たせてもらうからな」
「さぁサイコロをとりなすって」
いけないと思いながらも、何もかもを忘れてサイコロを振るう瞬間だけは生を感じられます。
今日はおかずが一品増えるくらいには勝てたのでセーフです。
夕暮れ、大満足で賭博場から出たところ、右腕に熱を感じました。知らないおばさんが私の右腕をつかんでいたのでした。黒いローブに長い髪、そして何より怖いのは鋭い目。
「細い腕ね、トレーニングはしているのかしら」
「やめてください。民兵を呼びますよ」
「あなた、いいのかしら。シンデレラの血を引くあなたがこんな所で腐っていても」
「えっどうしてそれを」
おばさんは耳元で
「知りたい?」
と。
知りたい。けど知ってしまえばもう何かが後戻り出来ない気がするのです。
「そう、知りたいのね」
それから、おばさんは駆けつけた民兵に連行されました。
民兵に職務質問を受け、すっかり帰り道は暗くなってしまいました。闇にサウンドする虫の音がどこか不気味に感じた時、再び右腕に熱を感じました。
「知りたいんでしょ。ならば教えてあげなくもないわ。私について来て」
またおばさんか。
「頭大丈夫ですか」
その時、おばさんの回りの空気が変わった気がしました。
「すいません言い過ぎました」
「私は実は魔女なのよ。だからあなたの事は何でも知ってる。本当はあなたが強いって事も」
私が強いだなんて、意地悪な姉達にいじめられ、お城のパーティーにも行けない私が。そもそも魔女ってなんなの。どういうこと。
「頭大丈夫ですか」
と同時に魔女のおばさんの正拳突き。私はそれをかわしていました。
「その身のこなし。やっぱりあなたがデレラ拳の継承者ね」
デレラ拳っていうのはお母さんに教えて貰った武術。一子相伝のはずのそれを知ってるなんてやっぱりこの人は危ない人かも。
「デレラ拳の継承者があんなザコ一家にすら勝てないなんて。私はその理由も知ってる。勝ちたくない?私ならあなたを勝たせてあげられる。そうしたら、お城のパーティーにだって」
「お城のパーティーに」
割と気持ち悪い雰囲気のおばさんでしたが、憧れのお城のパーティーに行けるなら、そんな軽い気持ちでおばさんについて行ってしまいました。
町外れの小屋がおばさんの家でした。魔女らしく得体の知れない瓶や沢山の宝石、古びた本などが散乱していました。
「湿度の高い部屋ですね」
「えっ。まあそれよりあなたが弱いのはその気の弱さと実戦経験の少なさよ。特に心の輝きを武力に変換するデレラ拳にとって弱気は致命的なの。今日からそれを鍛え治してあげるわ」
それから一週間、主にシャドーボクシングやランニングなど絵的に地味な修行を続け、最後に向精神剤を投与されて私の修行は修了しました。
「さあ帰りなさい、今のあなたならもう絶対に負けないわよ」
確かに今の私は誰にも負ける気がしない。そんな気持ちが全身を駆け巡って体が煮えたぎるかの様です。
別に走らなくていいのになんとなく走って帰りました。
「ただいっあれっ」
すぐに自分の変化を実感したのは家のドアを開けようとして破壊してしまった時でした。
壊れたドアの向こうからは早速意地悪な姉達がやって来ました。
「あっリンデレラ、てめぇどこを一週間もうろついてやがった」
「おぅおぅアンタがご飯作ってくれなかったから一週間ずっと干し肉食べてたのよ」
「これは制裁が必要だなァァァッ」
と姉その①が木の棒を降り下ろしたので、思わず突き飛ばしてしまいました。驚いた事に姉その①は壁を突き破り、隣の部屋に飛び込み営業です。
「これが私……」
私の強さをその場の全員が理解した時、これまでの関係は全てひっくり返ったのです。
「三人まとめてかかって来た方がいいですよ。死にたくなければね」
「舐めやがってリンデレラの癖にぃ」
激昂した三人の姉が私に立ち向かって来ましたが、私は冷静に一人目をゴミ置き場に殴り飛ばし、二人目を飛び越して背後を取っての回し蹴り、怯んだ三人目を正拳付きで倒しました。
多分一人二秒ほどでしょうか。デレラ拳の本来の力に我ながら恐ろしくなりました。
「おやおやなんだいこれは」
意地悪な継母がヨガ教室から帰って来たみたいです。
「お母様、言い付け通りゴミを片付けておきましたよ。さあ次は料理ですね。今日はちょうどいい豚が目の前にいますからご馳走ですね」
「おもしれぇ」
継母の殺気が私をますます興奮させるのでした。
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