雪村旺花という女
出し物は異世界ハーレムカフェ - 第118話
うちのクラスの出し物は、異世界迷い込み最強ハーレムカフェということで企画が決定したようだ。
文化祭実行委員の松原と、桂。それと木田に女子一名を含めた四人で企画を考えて、昨日その案を生徒会に提出したようだ。
桂と木田が企画を立案する係って、だいじょうぶかよ。うちのクラスは。準備前の段階からすでにぐだぐだになる結果が見えてるんだが。
それにどうして異世界迷い込み最強ハーレムカフェという企画になったのか、あとで木田に聞いてみたところ、「昔から異世界迷い込みやハーレム系って人気あるだろう?」という、ただの受け狙いであったことも発覚した。
文化祭って、いい出し物をやったクラスは表彰されたり豪華な品物をもらえたりするはずだけど、うちのクラスはもう絶望的だな。
うちの生徒会が考える豪華な品物なんて、どうせちょっと高いボールペンと大学ノートがセットでついてくるだけだろうけど、やるからには少しでもいい成績を残したいよな。
「ふっ、ライトくん。きみは毎日エロゲーをやっているくせに、何もわかっていないんだな」
次の日。体操着とジャージに着替えた木田が伸びをしながら言ってきた。
「うるせえ。っていうか、毎日エロゲーなんてやってねえよ。エロゲーなんてそもそも持ってねえし」
エロゲーを持っていないというのはうそだが、毎日はやっていないぞ。やってもせいぜい三日おきだ。
今学期からうちのクラスはバスケットボールをやるみたいだ。女子も同じだが、使用するコートはもちろん別々だ。
俺は運動が苦手なので、体育は全般的にできないが、球技などの団体競技は自分の運動音痴がチームの連帯責任になるから、特に嫌なんだよな。
この間はゲームの下手な上月に呆れたけど、運動が得意なあいつがうらやましいぜ。
ちなみに体育はとなりのクラスと常に合同だ。だからとなりのクラスにいる同中の友達と会話できて、それだけは少し嬉しい。
木田が「ふっ」と勝ち誇った目で体育館の天井を見上げた。
「きみのことなんて、別にどうでもいい。いいか? 今回の企画で大事なのは、ハーレムという要素があることなのだよ」
「はあ? ハーレム? そりゃ、どういう意味だよ」
こいつが何を企んでいるのか、意味が全然わからねえ。
「よく考えてみたまえ。ハーレムということは、男が女子に囲まれてうはうはになれるということだ」
「そんなの知ってるよ。けどうはうはになれるのは、模擬店に来店した客だけだろ? そんなの見ても俺たちは何も嬉しくねえぞ」
「ちっちっち。だから詰めが甘いのだ、きみは」
木田が偉そうにひと指し指を立てた。
「ハーレムということは、ウェイターのほとんどが女子にならざるを得ないということだ。そして、そのウェイターの服装はなんだ?」
うおっ、そういうことか。お前はそこまで先を見越していたのか。すげえな。
こいつの漫画やアニメにかける情熱は、実は桂よりもマニアックで鋭い。お前のそういう無駄にこだわるところ、ほんと敬服するよ。
「なるほどな。じゃあ異議なしだ」
「そうだろう? うまくいけば、妹原や上月のコスプレが拝めるかもしれないぞ」
おお、それはすばらしい。上月はどうでもいいけど、妹原がコスプレしているところは見てみたい。なんとしても。
妹原が猫耳のついたカチューシャをつけて、右目には眼帯をつけて、さらに丈のかなり短いスカートを穿いて、極めつけに尻にふわふわの白い毛がついたしっぽをつける。
そんでもって、右手を顔の近くに添えて、可愛らしく「にゃー」って――ぐはっ、ダメだ! これ以上は十八禁になってしまうから、とても想像できないぜ。
木田は俺を見て、にやりとエロさ全開の顔つきで笑った。
「妹原氏って、私はかなりいい線をいっていると思うんだよな。それと幼なじみのきみには悪いが、上月氏もうちのクラスの中でかなり人気が高いんだぞ」
そうなのか? あの極悪高圧的嫌みったらし女のどこが魅力的なのか、俺にはこれっぽっちも理解できないぞ。
あいつのどの辺がいいのか、クラスの男子たちにぜひアンケートをとってみたいな。
「純朴清純派の妹原氏に、ツンデレ界の新星上月氏。ああ、うちのクラスの女子は、なんでこんなにもレベルが高いのか。うちのクラスに生まれてよかったぁ」
「っていうか、お前の本当の狙いは弓坂だろ?」
木田がわざとらしく弓坂を避けるので、俺がびしっと言い切ってやると、木田の澄ました顔が途端に赤くなった。
「バッ! 急に何を言い出すかと思えば、ゆ、弓坂なんて、別にっ、どうでもいいに決まってるだろぉ! あ、あはは、あははぁ!」
木田は奇抜な高笑いをしながらバスケットボールを取りに行った。どうでもいいけど、声が裏返ってるぞ。
あいつは下らないことに頭がよくまわるくせに、本命の弓坂には一切アプローチできないんだよな。だからあいつはもてないんだろうな。
「ライトっちゃん。トップとなにこそこそ話してんのぉ?」
やっとひとりになれたかと思ったら、次は桂が俺に後ろから抱きついてきた。次から次へと変なやつらがやってくるな。
「なんか、弓坂の名前が聞こえた気がするけど、気のせぇ?」
「さあな。そうじゃねえのか」
準備運動のストレッチが終わったので、俺もボールを取りにいく。試合の前にふたりでペアを組んでパスの練習をするのだ。
「ヅラ、俺とペアでいいよな?」
「いんよー。早くボール持ってきてぇ」
桂がその場でくるくるとまわりながら右手を意味もなく振り上げる。返事もなんだか意味不明だったが、お前は日が経つごとにキャラがどんどん崩壊していくな。
山野みたいにストイックな純愛を貫くやつがいるかと思えば、こいつみたいに意味不明でシュールなアホもいるし、木田みたいなどうしようもない変態もいるし。うちのクラスのやつらって個性的だよな。
ボールを取って、そわそわとパスを待っている桂にボールを投げる。パスの基本であるチェストパスの練習だ。
「ライトっちゃん。模擬店の企画、聞いた聞いた!?」
「ああ、聞いたよ。異世界ハーレムカフェだってな」
「そうそう! あれ考えたの、俺なんだぜ。すごいすごい!?」
その企画の真の立案者は木田なんだろうけど、桂には言わないでおいた方がいいか。
「ああ、すごいんじゃねえの」
「そうだろそうだろっ。異世界ハーレムだから、勇者や魔王の衣装が着れるんだぜ! んもう、今から楽しみだぜぇ」
桂がまたその場でくるくるとまわり出した。体育の先生が見てるから、早くパスを出せ。
上月といい、弓坂といい、うちのクラスのやつらは変なやつらばっかりだけど、心底嫌いになるようなやつはいない。
だからまあ、みんながそれぞれの想いで行動しているのを眺めているのは、悪くないか。
桂が勢いよく投げてきたパスを胸で受け取った。
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