プール! 水着! - 第81話
着いたばかりの別荘で優雅なひとときを過ごしていると、すぐに昼食の時間になった。
都心からの長距離を移動してきたばかりだったので、昼食の用意は使用人の人たちにお願いすることにした。
昼飯なんて、どうせ
前菜はレタスの上に、細切りにした大根と生ハムが乗っかったサラダだ。ただのサラダに見えるが、採れ立ての生野菜が新鮮なので、すごくおいしかった。
生ハムに塩味が少し効いているので、ドレッシングをかける必要すらない。この一品だけでお金がきっちり取れるんじゃないか?
メインディッシュのパスタはアルフレッドという、食べたことがあるようでない謎の料理だった。
通常のスパゲッティの上に、豚肉や茸をからめたクリームソースを乗っけたパスタだ。小さく切ったトマトなども乗っかっているが、見た目は卵のないカルボナーラみたいな感じかもしれない。
しかし味は、カルボナーラとは全然違う。ソースにチーズが混ざっているのか、クリームとチーズが絶妙にマッチしたマイルドな味わいだった。
パスタなんて、カルボナーラとミートソースくらいしか知らなかったけど、こんなマイルドなパスタもあるんだな。
「すごい。パスタ料理にこんなレシピがあるんだ」
料理好きの上月も口をもごもごさせながら唸っている。初めて食べるおいしさにかなり感嘆しているようだ。
「腕利きの人に、つくってもらってるからねぇ」
弓坂がフォークにパスタを巻きつけながら微笑む。食べる早さは相変わらず遅い。
「あとでレシピを聞いてみてもいいかな?」
「いいよぅ」
おっ、上月がこのパスタに興味を示したみたいだ。あいつのつくるパスタは、かなりいいかもしれない。
こじゃれた野菜スープをいただいた後は、紅茶でまったりして、いよいよプールの時間だ。
去年に買ったサーフパンツに三秒で着替えてプールへと向かう。別荘の裏手にプールがあるみたいだ。
プールって言うから、俺は長方形の競泳プールを想像していたけど、ここのプールはまたしゃれたつくり方だった。
庭とプールは鉄柵などで仕切られていない。別荘の裏手の庭がそっくりそのままプールサイドになっていた。
プールサイドは池みたいにゆるやかな曲線を描いていて、大小様々なプールが三つもあるのだ。
ハワイとかのリゾート施設のプールをイメージしてつくられているのかもしれない。
「なんていうか、駅に着いてから驚きの連続だから、これを見てもあんまり驚かなくなってきたな」
手前のプールに足を入れて水温を調べてみる。入れて間もないせいか、水は少し冷たい。
「そうだな。弓坂のうちが金持ちなのは聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかったな」
俺の近くで腰掛ける山野はメガネをはずしている。メガネがないと顔の印象が若干だが変わるな。
「俺たちみたいな一般人が慣れるには、もう少し時間がかかるだろうな」
「そうだな」
プールサイドで大してはずまない会話をしていると、別荘から女子たちのクスクスと笑う声が聞こえてきた。俺の心臓がどきりと跳ね上がる。
向こうから楽しそうに談笑しながら歩いてくるのは、水着姿の妹原たちだ。しかも色気のないスクール水着なんかじゃなくて、三人とも魅惑的なビキニ姿だ。
妹原がつけているのは、ヒラヒラのパレオがついた花柄のビキニだった。布地の少ない水着の間から、普段見れない素肌があられもなく露出している。
腰にミニスカートっぽい布が巻きつけられているので、多少は露出が抑えられているが……やばい。刺激が強すぎるから、じっと見ていることができない。
弓坂のビキニは、ブラジャーを首から下げるタイプだ。生地は横長の円形で、意外とたわわな胸がはずむように揺れ動いている。
寄せるタイプのブラジャーの真ん中には、艶かしい胸の谷間までしっかりとつくられているぞ。
今まで気づかなかったけど、弓坂は意外と胸が、いやかなり大きいんだな。……ダメだ。こちらもこれ以上直視することができない。
「ちょっと、なに見てんのよ」
プールサイドで、さぞそわそわしているであろう俺を、上月がすかさず見つめ返してくる。
上月がつけている水着は定番の三角ビキニだが、決して侮ってはいけない。
無地のビキニは飾りや模様がないが、純白の生地は下着みたいな大きさしかない。ブラジャーやショーツを留める部分なんて紐みたいな幅だし。
日焼けしていないけど健康的な素肌で、胸も意外とふくよかに盛り上がっている。くっ、上月の分際でかなりいいスタイルしてるじゃないか。
このまま何も言い返さないと俺が立派なスケベ野郎だというのがばれてしまうので、強がって顔を背けるしかない。
「別に、見てねえよ」
「嘘ばっか。さっきから、あたしたちのこと、エッチな目でじろじろ見てたでしょ」
じろじろ見ていたのは否定できないが、エッチな目でなど断じて見ていない。というか、そんな刺激的な水着を着られて、男に見るなというのはかなり過酷な試練だ。
「まあまあ、麻友ちゃん。怒らないでぇ」
弓坂がすぐにフォローを入れてくれるが、弓坂の艶かしい姿も見上げられないから、自然と厚意を無視する形になってしまう。弓坂、すまない。
「あっ、ヤマノンはぁ、メガネはずしてるんだぁ」
そんな俺の気持ちを知らない弓坂が、ゆったりとした仕草で前屈みになる。
「まあ、メガネをかけてプールには入らないからな」
「ふふっ。メガネのないヤガミンって、変な感じぃ」
山野は裸眼で弓坂を見ているが、お前は少しも興奮しないのか? いつも以上に表情に変化が見られないぞ。
「わあっ、すごいプールだね!」
妹原がプールの全景を眺めて、はじけるような笑顔で言った。
「こんな広いプライベートプールがあるなんて、夢みたい。すっごくきれいだし」
「ふふっ。雫ちゃん、ありがとぅ」
「未玖ちゃんのうちって、やっぱりすごいなあ。羨ましくなっちゃう」
妹原の気持ちはすごくよくわかるぜ。山野や上月もきっと同じ気持ちだろうな。
けれど、弓坂は謙遜するように苦笑して、
「そんなことないよぅ。独りでいても、寂しいだけだし」
少し気後れする感じで言った。
独りでいたら寂しいという気持ちは、少しわかるかもしれない。
こんな豪華できれいなプライベートプールを堪能できても、独りでいたら虚しくなるよな。
広ければ広いほど、独りのときの孤独感も強くなるんだろうし。一般庶民の俺では決して感じられない贅沢だが。
プールの水面をしみじみと眺める妹原の手を上月がつかんだ。
「早く、プールに入ろっ」
「うん!」
「ああっ、あたしもぉ」
プールに飛び込むふたりに少し遅れて弓坂もプールに入る。
「あっ、お水冷たーいっ」
「気持ちいいよねぇ」
「しかもプライベートプールだもんね」
うちの学校のおそらく学年最上位だろうと思われる美女三人が、プールの真ん中で無邪気にはしゃいでいる。
「未玖、ほらほら!」
「もぉ、麻友ちゃんってばぁ、冷たいよぅ」
「わたしもっ!」
ときにビキニをつけた胸をはずませながら、水をかけ合ったり、ゆるやかに流れる水面をばたばたさせたりしている。
プライベートプールで、同じクラスの女子たちといっしょにいられるなんて、ああ。なんて幸せなんだ。
「まさに、楽園だな。ここは」
山野も妹原たちを見て嬉しそう――かはわからないがつぶやく。なんでもない風を装っているが、お前も何気に興奮してるんだな。
そんなことはともかく、少しはなれたところで見ているだけで、天国だよ。地球に生まれてよかったあ。
「じゃ、俺たちも水浴びするか」
「そうだな」
華麗にプールへと飛び込む山野に従って、俺は水面に頭を潜り込ませた。
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