大嶋君はマントヒヒ

風車

【プロローグ】 大嶋君はマントヒヒである

 ~2020年4月5日 大嶋蓮弥~


 俺、大嶋蓮弥おおしま れんやはマントヒヒである。


 より正確にいうなればマントヒヒから進化した人類種である。


 現在の人類種はチンパンジーなどと共通の祖先から進化したモノだが俺はマントヒヒから進化した特殊な人類種である。


 と、いっても現在の人類種とたいした違いはなくご先祖様が違うのと、髪が白みがかっている程度だ。


 そんなマントヒヒ人な俺だが、ある大きな野望を抱いている。

 マントヒヒ人類種が、チンパンジー人類種に代わってこの地球の生態系の頂点にすることだ。


 現在のマントヒヒ人には、チンパンジー人類種の方が自分達より優れているという考え方が広まっている。


 このような考え方は改めなければならない。俺達マントヒヒ人類種こそが優れた人類種なのである。

 そのためには、俺はもっと奴ら、チンパンジー人類種について知る必要がある……







 ~2019年3月24日 安藤政春~


 世界で初めてマントヒヒ人が発見されたのは、1990年ごろ、社会主義国と民主主義国とが対立し世界が二つに分かれて睨み合いをしていた時代。イラクがクウェートを占領したのに対しアメリカがサウジアラビアに派兵したのがきっかけだ。


 現在、マントヒヒ人のルーツはアフリカ大陸北東部といわれている。

 出現したばかりのマントヒヒ人は、その多くがライオンやヒョウなどの動物に襲われてその数を大きく減らした。

 生き残った個体たちは進化によって手に入れた知能を使い、海を渡り外敵のいないアラビア半島にたどりいついた。


 そこは彼等を襲う外敵もなく、ただただ平和な地だった。かつての人類がそうだったように彼等もまた平和な地を手に入れると武力や力などではなく知恵を求めた。


 道具を生み出し、火を見つけ出し、通貨さえ彼らの間で流通するようになった。


 だが、平和に暮らしてきた彼らの住処に戦争がやってきた。

 彼等は元々洞窟を住処とし、少数でひっそりと暮らしていたので、自分達の他に高い知能を持つ生物がいることを知らなかった。


 

 当時のアメリカ兵はマントヒヒ人が持つ白い髪に驚き、同時にその美しさに酔いしれた。

 人間の恐ろしいところは、自分達と異なるものを排斥や利用しようとするところにある。

 アメリカ兵達は見世物にするためにマントヒヒ人をアメリカに連れ帰った。


 現在マントヒヒ人の存在について知っている人間はほんの一握り、各国政府のお偉い様方やマントヒヒ人の発見者ぐらいだろう。

 


 彼等のもつDNAは人間がもつそれと異なっていた。

 ――自分達以外の知識を持つ生物の存在――

 アメリカ政府はマントヒヒ人の存在を隠しつづけていた。

 各国政府もその存在を知ったのはつい最近のこと。


「わが国では我々以外の知的生命を保護している」


 ――その言葉が俺、安藤政晴あんどうまさはるの苦労のはじまりだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る