方法51-1︰仲間がなに考えてるか解らん件について(溜め込みすぎないように)
ワタシは泥沼のような精神状態だったけど、むりやりヘゲちゃんへ笑いかけた。
「ひ、久しぶり。もう、その、いいの?」
「ええ、すっかり。ここに来るまでは」
ヤバい。なんか怒ってる。“これまでのあらすじ”ふうに言うと“ワタシの献身によって元気になったサロエ。二人で喜び戯れてると、(おそらく、たぶんきっと)ヤンデレと化したヘゲちゃんが現場に踏み込んできた”。
……絶体絶命じゃんかこれ!
「サロエさ、うごっ!? ゲッホゲホゲホ」
ドアを開けて中へ入ろうとしたローザリーンドが盛大にむせる。その隣でヤニスがワタシ、サロエ、ヘゲちゃんの順に視線を巡らせて──。
「どうぞごゆっくり。終わったら呼んでください」
そしてドアを閉めた。その冷静さ、嫌いじゃないぜ。
「ヘゲ様。ようこそお戻りくださいました。こうなった以上、私は通常の配置に戻るべきですね。それではみなさま、いずれまた。楽しい時間を過ごさせていただきました」
メフメトも華麗に部屋を抜け出す。
「おう。ライネケか。どうした? 念話なんて。え? なんだって? すまん。よく聞こえない。呪いが干渉して……。ん? いやちょっと移動する」
念話のはずなのに、なぜか声を出しながらベルトラさんも部屋を出て行く。
こうして、あっという間に部屋の中はワタシたち三人だけになった。
「それで、これはどういうこと?」
「え? あ! これ? これはその、どうもこうもなくて」
とりあえず、まだワタシにくっついてるサロエを引き剥がす。いやあ、生存本能ってスゴイね。ヘゲちゃん見てギョッとしたら負のオーラの影響が薄れたもん。
「サロエの快復を祝ってちょっとはしゃいでた」
「快復?」
ヘゲちゃんが眉をひそめた。どうやらワタシを監視してたりはしなかったみたい。
「廃人になるかどうかって瀬戸際だったんだよ」
ワタシは学会からさっきまでのことを簡単に説明した。ベルトラさんなら詳しい代わりに大長編になってたとこだけど、要点だけならそんなに時間はかからない。
「そう。そんなことが……」
ヘゲちゃんの体から力が抜ける。どうやら危険は去ったらしい。
「メフメトにはすごい助けてもらったけどさ。やっぱヘゲちゃんが居てくれてたらあの使い魔だって秒で倒せてたよ。秒で」
ヘゲちゃんの顔がこわばる。
「それは、私が帰ってたことへの当てつけかしら?」
あれぇ? なんでそうなるの? ヘゲちゃんそんな地雷原みたいな娘だったっけ?
「ワタシとしては、ヘゲちゃん帰ってきてくれてよかったって気持ちなんだけど。ヘゲちゃんいないと、なんか張り合いないし。あとその……ちょっと寂しかったかな。うん。戻ってこなかったらどうしよう、とも思ったし」
これは本当だった。いない間は頭の片隅でモヤモヤしてたり怒る気持ちもあったけど、こうやってヘゲちゃんが目の前に戻ってくると、そうしたことが全部、なくなりはしなくても些細なことに感じられた。
それでつい、思ったこと素直に言っちゃったんだけどこれ……。ヘゲちゃん、嫌がるタイプのセリフだよね。
予想どおりヘゲちゃんは喜びも感動もせずワタシのことじっと見てたけど──。
「そう」
それだけ言って、サロエに目を向けた。
「ところでサロエ」
「ハイッ! 私です!」
手を挙げるサロエ。めちゃ緊張してる。
「嬉しかったとしてもあなたのその態度、従者としては少し馴れ馴れしすぎるんじゃないかしら?」
「はい。すみません。でも、ガネ様も前に、あんまりよそよそしいのは居心地悪いって」
ワタシそんなこと言ったっけ? そんな態度じゃ居心地悪いのはたしかだから、言ったのかもしれないけど。
「それにしても、主人にじゃれつくのは感心しないわ」
「ええっと、でも……」
そこでなぜか、決心したような顔になるサロエ。ちょっと、なに決意しちゃったの!?
「主人と従者の関係は主従ごとにいろいろです。決まった正解なんてありません。それに、ガネ様は私のことを二度も救ってくれたんです! つまり私たちはそう。契約上の主従を超えて、ただの悪魔同士では不可能な強い絆と信頼で結ばれた仲なんです!」
サロエよ……。その気持ちは嬉しいけど、今このタイミングで言うことじゃないでしょうに……。
ヘゲちゃん、メンタル病み上がりだしなんならまだ完治してないまであるし、戻ったばかりだし機嫌悪そうだし、なんでか地雷をいっぱい抱えてるみたいだし……。
「強い絆と、信頼……!?」
どういうわけかショックを受けるヘゲちゃん。いやホント、ヘゲちゃんこんなだっけなあ。帰ってるあいだに何があったんだ。
「そうです。私は悪魔と言ってもむしろ妖精。ガネ様は……アレです。アレ。だから憎しみと不信、利害と力関係が基本になってる悪魔じゃ、こんな関係にはなれません」
さらに挑発するサロエ。そういやサロエもなんでこんな好戦的なんだ。ひょっとしてあれか? ワタシのこと好きなんか?
いやいや。強い絆と信頼とか言ってくれてたじゃん。恋愛的なことじゃないにしても、ワタシのことをかなり好いてくれてるのはそうなんだと思う。だからヘゲちゃんに口出しされてムッとしたんだ。
ただまあ、“悪魔とは違うんです私たち”って点を推してるけど、ヘゲちゃんだって百頭宮の精なんだから純粋な悪魔とはちょっと違うんだけどね。
にしても今そんな挑発しなくても。こりゃあ血の雨が降るんじゃないか。“教育が必要ね”とかなんとか。
ところがヘゲちゃんはサロエを血祭りにする代わりに、ワタシに意見を尋ねてきた。
「アガネアはサロエの振る舞いに問題があるとは思わないの?」
「へ? いや、特には……」
さすがにここで制裁覚悟のサロエを突き放したりはできないし、実際そんなこと思ってない。
「なら、好きにして。もっと変わった主従だっているんだし」
あっさり引き下がるヘゲちゃん。なら最初から絡んでくるなと。
「とにかく、急にいなくなったことは悪かったわ。これからは副支配人として、護衛としての職務に専念するから、安心してちょうだい」
「うん。えっと、なんて言ったらいいんだろ。お願いします? ありがとう?」
ヘゲちゃんは何か言おうとしたみたいだったけど、結局ただうなずいただけだった。
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