方法39-2︰言うたあかんて言われてるて言うたやろ(詮索はやめましょう)

 いよいよ作戦決行日。仕事を終えたワタシは一人、部屋で二つの画面を見ている。

 宙に浮いた画面はヘゲちゃんがなにやら魔法で出してくれたもので、片方は部屋を手前から奥に映したもの。もう片方は部屋を奥から手前に映したもの。どちらも天井辺りからの映像だ。

 これなら向かい合うヘゲちゃんたちとサロエの両方の顔が観られる。こういうとこヘゲちゃんてキッチリしてるんだよなぁ。


 少しして、部屋にサロエが入ってきた。


「わ! すごーい! ヘゲさんの部屋ってゴミでいっぱいなんですね!」


 出会い頭でいきなりド真ん中に豪速球放り込んでくるサロエ。珍しそうに周りを見回してる。

 なんかワクワクしてるみたいで、不安そうなとこなんて少しもない。これがワタシならどうせロクでもないことになるんだろうと思って、顔面にタテ線貼り付けて現れるわ。


「これは固定化と保存の魔法がかけてあって、ゴミじゃないのよ」


 ちょっとこわばってるけど、ヘゲちゃんは忍耐強く答える。

 なんかいつも思うんだけど、ヘゲちゃんサロエに甘くね? これがワタシだったら“ゴミじゃないわ。あなたが埋まってないもの”くらいのことは言ってくるはずなんだけど。


「この、カエルの置物みたいなのは何ですか?」


 サロエが足元を軽く蹴りながら尋ねる。


「カエルの置物よ」

「このフルートみたいなのは?」

「フルートよ」

「このヒビ入ったツボは」

「ヒビの入ったツボよ」


 ……ヘゲちゃんは認めないかもだけど、やっぱゴミかもわからん。


 そのとき、隣の部屋とつながってるドアが開いて、アシェトが顔を出した。


「お、珍しい組み合わせだな。ああ、あれか」


 アシェトは手にしてた懐中時計をヘゲちゃんに放る。ヘゲちゃんは難なくキャッチ。


「サロエ、どうだ最近は? 元気にやってるか?」


 ひさびさに会った近所のおっちゃんじゃないんだから。

 でも、ウチのサロエはそんなオッサン風の美女にも優しい。きっと知らないあいだにワタシの生き様を見て学んでるに違いない。


「楽しいですよ!」

「そうか。そりゃ良かった!」


 どうやって捕捉してるのか、画面越しにワタシへウインクして自分の部屋へ戻るアシェト。

 ヘゲちゃんが赤い光でできた小さな魔法陣を呼び出すと、魔法陣は懐中時計を包むようにして消えた。


「わ!? いくらなんでも勝手に消しちゃ怒られますよ!?」

「大丈夫よ。固定化と保存の魔法をかけて片付けただけだから」

「じゃ、ここにあるのって」

「そう。みんなこうして管理してるの。必要なときはまた召喚する」


 ちょっと自慢げなヘゲちゃん。魔法のアイデア活用術みたいなもんなんだろうな。


「それで、今のはどこに行ったんですか?」


 サロエはなんかスゴい手品を見せられた子供みたいな目をしてる。


「どこって……」


 ヘゲちゃんは言葉に詰まると、部屋の中を見渡した。そんなん適当に答えりゃいいのに。


「ええっと、た、たぶんあの辺りじゃないかしら」


 少し離れた床のあたりを漠然と指さすヘゲちゃん。しかも指先を微妙に揺らして、曖昧さをちょい足ししてる。


「あの、ヘゲさん。そろそろ本題に」

「そうね。どうもサロエと話してると調子が狂っていけないわね」


 いやなんか、ヘゲちゃんが自分から翻弄されすぎてるだけな気が。

 また話がそれるのを気にしてるのか、ベルトラさんが口を開いた。


「じつは、アガネアについて教えておきたいことがある」

「えっ!? なんですか!? 精神的優位に立てるようなことですか!?」


 メチャメチャ食いつきいいな。それだけワタシに興味持ってくれてるってことか。

 ってか、精神的優位なんて言葉よく知ってたなあ。そしてワタシに対して優位に立ちたいのか。なにが狙いなんだ。じつは今のポジションに屈辱を感じてるとか?


「相手がアガネアだから気持ちは解るけど、従者が主人の上に立ちたいなんて感心しないわね。主人が月なら自分はその光に照らされた死体を漁るウジだと思う。この気持ちが大事よ」


 さすが、生まれたときからアシェトの精神的奴隷。真顔で言うことが違う。


「アガネアをそんなふうに思うなんて相当困難だろうし、かなりの恥辱を伴うけど、がんばって」


 そこでなぜか、何も言ってないサロエを手で制してヘゲちゃんは続ける。


「待って。アガネアを月に例えるのが無理なのは解るわ。けどせめて地上の石ころだとでも思って、自分を地下深くのルビーの原石だと思うくらいは──」

「優位ってそういうんじゃないですよ。ガネ様の可愛いとこをこっそり知って、ニヤニヤしたいだけです」


 苦笑しながら猫耳とシッポをパタパタさせるサロエ。なんかわかりにくいけど、好かれてることは確からしい。


 ベルトラさんが咳払いをした。

 

「ヘゲさん」

「あら、また。ごめんなさい。で、何だったかしら」


 ……サロエ、ヘゲちゃんをポンコツにする周波数の何かでも放ってるんだろうか。

 それにしてもこのヘゲ、ワタシを小馬鹿にするときはノリノリである。


「まだ何も……。それで、サロエ」

「はい」

「これから話すことは誰にも言わないようにな。アガネアの奴がその、知られたくないと思って隠したがってることなんだ」

「じゃ、私も知らないほうがいいですよね。ガネ様の嫌がることしたくないんですよ」


 正論だ! ベルトラさんちょっと困ってるぞ!


「ああ、いや、その、なんだ。それはそうだが、おまえは従者だろ。アガネアには悪いが、もしものときに備えて知っておいてもらいたいんだ。主人のためなら時にその意思に背く。これがデキる従者の秘訣だ。ですよね? ヘゲさん」

「私はいつも絶対ふく」

「とにかく! だ!」


 いらんこと言いそうになったヘゲちゃんを大声で遮るベルトラさん。


「アガネアのためを思うならこれからする話を聞いたうえで、聞かなかったようにふるまってくれ」


 そしてベルトラさんはワタシの出生についてと、昨日ヘゲちゃんが追加した設定を語った。


「ガネ様にそんな悩みがあったなんて。それってどうにかならないんですか?」


 耳を伏せ、心配顔のサロエ。見ててちょっと胸が痛む。


「病気ならともかく、人工的に造られたことの歪みみたいなもんだからな」


 そこでふと、ベルトラさんは何かを思いついたようだった。

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