方法38-3︰なにか金融道(責任は果たしましょう)

 部屋に戻っても、まだワタシはちょっとぼんやりしてた。


「ガネ様。おーい」


 サロエがワタシの前で手をひらひらさせる。


「あの変なヤギにこっぴどく叱られました?」

「どうしてそう思うのか、教えてもらおうじゃないの。ことと次第によっては、その呪われアクセまとめて解呪してあげよう」

「やめてくださいよ。今さらそんなことされたら、私まで一緒に消えちゃいそうです」

「それな。あんた異様に馴染んでるから、それあり得るで」


 むしろサロエ自身が装備したら外せない呪いのアイテムっぽい。呪われアクセより可愛いし。それにしても妖精の祝福はどこいったんだ。ないよりマシ、どころか何もないような気がする。


『へいへいよー。アガネア、ちょっと来てくれない?』

『へいへいよー。明日じゃだめ? もう寝るとこなんだけど。あ、衝撃の事実に辛い思いをしてるワタシを人間方式で物理的に慰めてくれるなら行く』


 にゅるんとベッドの下からヘゲちゃんが登場です。事情を知らないサロエだけが驚いてる。


「ヘゲさん、いつからいたんですか!?」


 さあ、どう出るヘゲちゃん!


「あなたは気にしなくていいのよ」


 ヘゲちゃんは優しく言うと、サロエのアゴの下をくすぐった。すがすがしいくらいの説明放棄だ。


「それで、あなたはつべこべ言わずに私と来なさい。さもないと」


 エアチョップを繰り出すヘゲちゃん。それ、なにげに気に入ってるよね?


「じゃあ、私もお供します!」


 立ち上がろうとするサロエ。


「あなたは先に寝てなさい。ね?」


 またサロエのアゴの下をくすぐるヘゲちゃん。

 あのー、さっきからそれ、サロエ全然ゴロゴロ言ってないからね? むしろびっくりするほど醒めた目してることに気づいてヘゲちゃん!



 ともあれ、そんなわけでワタシはヘゲちゃんの執務室へ連行された。相変わらずの惨状だ。


「これ」


 ヘゲちゃんはどこからか手紙を召喚する。


「ひょっとしてそれ、見つかったの?」

「なんのこと?」


 ヘゲちゃんは心底当惑したように眉をひそめた。


「アーシェートさーモガっ!?」


 ヘゲちゃんに口を押さえられる。関節からアゴが持ってかれそうだ。必死にタップして離してもらう。


「まったく。あなたってば、どうしてそういちいち……」

「とかいって、まんざらでもないくせに」


 ヘゲちゃんのまぶたがピクリとしたかと思うと、ワタシの周りに赤い光の輪が。次の瞬間。


「!?」


 ワタシは体の自由を奪われ、圧迫感のある闇に閉じ込められた。

 …………あ。ひょっとしてこれ、床にあったゴミ山ん中じゃないの? ヘゲちゃん、しまっちゃうおじさんなの!? 息が、息ができない!


「ぷはッ!」


 元の所に戻るワタシ。


「反省した?」

「はい。スミマセンでした」

「それで、真面目な話。今日届いたこの手紙、前回のことがあるから念のため今ここで、私が開封して読み聞かせてあげる」


“あんたの従者がすべて勝手にやったことだと信じて、もう一度だけこの手紙を書く。

 17日、14時から閉店まで、百頭宮の個室であんたを待つ。受付で“借財ノ”マルコの所へ案内を頼んでくれ。

 あんたの従者のことで、ぜひ耳に入れたい話がある。

 知らないかもしれないから書いておくが、サロエは俺をよそへ転移させる魔法を仕掛けてる。会いに来る前に必ず、それを解除させてくれ。

 妖精悪魔どもと違って、この話をまともに取り合ってくれることを願う”


 それで全部だった。封筒に差出人はなく、ただ“アガネア嬢へ”とだけ書いてある。


「これってつまり、あいつだよね?」


 サロエにつきまとう悪魔。


「そうね」

「どうしよう」

「それはあなたが判断することよ。ただひとつアドバイスするなら、サロエには余計なことさせない方がいいんじゃないかしら」


 ワタシもそう思う。

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