方法31-3︰秋の全国仁義なき戦い(傍観してましょう)

 ケムシャがダンタリオンって、どういうことなんだろう。

 困惑するワタシを見て、ヘゲちゃんが言った。


「恐れながら発言をお許しください。ダンタリオン氏に複数の肉体があることは存じております。ですがそれはみなダンタリオンを名乗り、擬人並の人型のなのでは? ケムシャ氏は人型ですが腕が四本ありましたし、変身してたわけでもなさそうですが」


 ナイスアシスト、ヘゲちゃん。そういやベルトラさんがそんな話してたわ。


「公的にダンタリオンを名乗っているのはそうだね。ただ、他にも隠れダンタリオンみたいなのがいるんだよ。そういうのは名前も身分も偽ってるし、人型とは限らない。その数は十とも百とも、数千とも。正確には誰にも解らないけれど、とにかくかなり多いんじゃないかと見てる」

「そんな話、聞いたこともねぇぞ。だいたい、そんなことしたって魔界人別局に……。あ、そうか。あそこダンタリオンのとこか」

「そういうことだよ。彼なら自分の分体の身元を偽るくらい簡単だ。それに、僕らが隠れダンタリオンの存在に気づいたのはここ数十年くらいのこと。おまけにこのことは一部の悪魔でしか共有してない」


 沈黙が続く。しばらくして──


「どうやって知った?」

「最初は偶然だ。ルシファーに仕えるある悪魔が間違ってダンタリオンしか知らないはずのことを話したら、話された方が自分のことみたいに受け応えしたとか。それから怪しんで調べていくうちに、どうも実際より多くのダンタリオンが隠れて存在してるらしいって結論になった」


 今でもダンタリオンと自分しか知らないはずのことを話して反応を見るのは、唯一の判別方法なんだとか。

 そして、ケムシャもその方法に引っかかったらしい。


「それが本当なら、なんだってあいつそんなことしてやがるんだ?」

「さあ」


 肩をすくめるベルゼブブ。


「人別局のダンタリオン締め上げて聞き出すってわけにゃいかねえのか?」

「ダンタリオンはお互いに、すべての知識と情報を共有してるだろ。彼にそんなことを尋ねれば、すべてのダンタリオンにそのことが知られる」

「なにか企んでんなら警戒されるだけ、か」

「そういうこと。だから泳がしておくしかない。普通なら怪しければ滅ぼすって手があるけどダンタリオンの場合、隠れも含めたすべての肉体を把握して一斉に滅ぼすなんて現状では無理だ。案外なにも企んでなんていなくて、ただ滅ぼされにくくするために隠れがいるだけかもしれないけどね」


 アシェトはベルゼブブを睨んだ。


「おまえひょっとして、最初っからこのこと話しに来たんじゃねぇか?」

「そういうことにしてもいいけど、理由がない」

「だってよ、大会中止しろなんて言われて、私がそうするわきゃねえことくらい解ってたろ」

「ダメ元だって解ってても、言えるなら言っておきたいってことがあるんだよ。それに、久しぶりで素のキミに会いたかったんだ。明日はどうせ、気味の悪い猫なで声でクネクネ喋るんだろ」


 バカっぽく体をくねらせるベルゼブブ。微妙に似てるのは絶対わざとだ。

 アシェトの顔が怒りに表情を失う。


「おまえ。魔界のトップで命拾いしたな」

「そうだね。けど、怒るキミはやっぱり美しいよ、アシュタロト」


 それが言い間違いなのかわざとなのか、ワタシには判らなかった。



 ベルゼブブが帰ったあと、ワタシたちの間には重苦しい空気が流れていた。

 ケムシャはワタシにやたら執着してる。そしてダンタリオンはワタシが悪魔じゃないって気づいてる。もし本当にケムシャがダンタリオンなら、どう考えても嫌な予感しかしない。

 調査結果は何も出てこなかったらしいけど、こうなるとケムシャのところでワタシが人間用の毒を盛られたのも怪しくなってくる。


「並列支部は参加させない方がいいんじゃないですか?」

「逆だ。なにか企んでんなら、参加させておびき出した方がいい。……って、ベルゼブブのやつ理由がないとか言ってたが、ひょっとしてこうなることを狙ってたんじゃねぇのか?」

「あり得ますね。あの方は策略の名手。ワタシたちを使ってダンタリオン氏が何を考えてるか探ろうとしてるのかもしれません」

「だとしても、それに乗るしかねぇってのが情けねぇな」

「ところで、争奪大会って何をさせるんです? ロクなことにならないだろとか言われてましたけど」

「ん? ああ。そうだな。おまえにゃ言っておいた方がいいか」


 そう言って、アシェトは企画の内容を教えてくれた。


………………。

…………。

……。


 ……えっとね。聞かなきゃよかった。

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