方法29-2︰アソコは家に含まれますか?(探索は計画的に)
荷造りを終えたワタシたちは、ネドヤの街外れにある速カゴ飛行士の待機所へ来ていた。
“はやかご”と聞いて一瞬、まげを結ってふんどし一丁のたくましい悪魔二人が駕籠をかついでエッサラホイって絵面を思い浮かべたけど、もちろん違った。
いま目の前の広い空き地には、大は電車4両くらいから小は小指の先くらいまで、色々なサイズの檻みたいなものが並んでる。
それぞれに飛行士の悪魔が傍らにいて、こちらも姿、サイズ様々だ。
「速い籠ってことですね」
「ああ。速いカーゴ、略して速カゴだ」
いま、なんか食い違った気がするけどまあいいや。
3人乗りが見当たらなかったので、ワタシたちは4人乗りのカゴを選んだ。飛行士と値段交渉して、カゴの中へ。
カゴの中央にはシートが四つ。見るからに頑丈そうで、両肩と腰のところにベルトがある。
鉄格子にストラップで荷物をくくりつけると、ベルトラさんが抱えてた包を渡してきた。
さっき、空き地の端にある建物から持ってきてくれたのだ。
「ほら、これ着ろ」
中から出てきたのは裏起毛のジャンプスーツに裏地が毛皮のフード付きロングコート、目と口以外を覆うマスク、ゴーグル。
「それとこれな」
小さな袋を渡される。そういやここへ来る途中、なんか買ってたな。
中を見るとビー玉みたいなのがギッシリ入ってた。
「酸素の魔石だ。行きと帰りの分。使い方解るか?」
それって、ワタシを襲ってきた水中無敵の悪魔が持ってたやつか。使い方って、口に入れればいいんじゃないの? とりあえず首を横に振る。
「そいつを歯と頬の間に挟む。そしたら歯は食いしばっとけ。間違えて飲み込むと大変だ。あとは口閉じたまま息を吸うと呼吸できる。吸った息は鼻から出せ。効果はだいたい1時間。少し息苦しくなってきたらすぐに取り替えろ」
ワタシはとりあえず、渡されたものを服の上から着ていく。当然ながらここ、南国ミュルスではメッチャ暑い。着てる途中でもう汗だくだ。ゴーグルも汗で曇る。
「それで、なんでこんな格好するんです? 熱中症になりそうなんですけど」
「それはだな──」
「お客さん、そろそろいいすか」
飛行士に急かされ、話の途中でワタシたちはそれぞれシートに座る。
「じゃ、行きやすよ」
上から声が聞こえる。カゴの天井から伸びた太い鎖が飛行士の足首に繋がってるのだ。
フワリとカゴが浮く。そのままゆっくり上昇し、だいぶ離れたところでまた飛行士が言った。
「始めます」
その直後、カゴが猛烈に加速した。
「〜〜〜〜っ!?」
ヒドい加圧で内臓ぜんぶ潰れたかと思った。カゴが地面と水平になり、なおもスピードと高度が増していく。
ようやく理解した。高高度をスピードと力に優れた悪魔が全力で飛ぶ。それだけ。それが速カゴ。魔法とかビタイチない脳筋の賜物。
よく解らないけど、体感ジャンボジェットくらいのスピードが出てるんじゃないだろうか。
上空の空気は冷たく、フードをはためかせる強風はまともに浴びてたらアッという間に体温を奪い尽くしてるだろう。
ゴーグルがなければ目も開けられない。すでに吐く息の湿気で鼻の下が凍りはじめてる。
高山病にならないのは運が良かったのか、そこまで高くはないからなのか。
とにかく小さくなった地面がどんどん流れ去ってく。
途中でちょいちょい意識が遠くなってたけど、やがて徐々にスピードが落ちてきた。
それから10分くらいかけて減速しながら下降して、とうとうワタシたちはヌエボ=オルガンに到着した。
「帰りは決まってやすか? あ、まだ? じゃ、前日にでも連絡くれりゃ迎えに来やすから。それにしてもエラい向かい風でしたね。3時間ギリ切れやせんでした。こっち方面は山が多くていけねぇや」
ってことは、普通の三倍くらいのスピードだったのか。
飛行士の悪魔はベルトラさんに何やらカードを渡すと、あれほどの速度で飛んできたのに休みもせず、空のカゴをぶら下げて飛び去った。
アッという間に姿が見えなくなる。
「アガネア、大丈夫か?」
「はい。なんとか生きてます。ただですね。何するにしても明日にしましょう。今日はもう無理です」
ワタシはモタモタと借りた服を脱ぎ、ベルトラさんに返そうとして、致命的なミスに気づく。
「えっとこれ、どこから来たんですか?」
「空き地の脇に建物があっただろ。あの中にレンタル屋が入っててな、そこで借りた。悪魔の中には致命的に寒さに弱いのがいるからな。大きな速カゴの溜まり場の近くにはだいたいあるんだ」
「それでその、借り賃はいくらくらい……」
「それなら気にすることないわ」
ヘゲちゃんが会話に割って入る。
「速カゴで行こうと言い出したのは私。ここまでの移動経費は私が払うから」
信じられない。超然ぶってるけど意外とカネに汚いヘゲちゃんの言葉とは思えない。
「本当に? 本当にヘゲちゃんご本人ですか? 失礼ですが身分証などは」
思わず敬語になる。
「これ以上お店のツケにできないし、あなた貧乏なんだからしかたないでしょ。貸したところで返ってくるアテもないし。どうせそのうち……」
「そのうち?」
「いえ、なんでもないわ。せっかく早く着いたんだからほら、行くわよ」
ヘゲちゃんはさっさと歩きだした。そして20メートルほど離れたところでカクンとつんのめる。なぜならワタシが立ち止まってたから。
「何してるの!? 早く来なさいよ!」
そう言われても“そのうち”なんなのか解るまでは、このままここでこうしていたい。
だって歩いてるときっと、なんやかんやがありまして、けっきょく忘れちゃうと思うから。ワタシが。
いったいなんだろ。お金の話をしてたわけで。それがそのうちどう変わるのか。
……。あ、そうか。飛んできたときの衝撃ですっかり忘れてた。儲け話だ。
ほらね? いくらワタシでも、なんやかんやあると忘れちゃうわけですよ。
ワタシは待ってるヘゲちゃんに近づいた。
「ここ来る前に話してたお金儲けの話だけど、あれって詳しい収支報告とかしてくれるんだよね?」
まずは探りを入れてみる。
「またそんなムダなこ……、ええ、と。アガネア。あなたはそんなこと気にしなくていいの。大丈夫。悪いようにはしないから」
「いまムダなことって言った!?」
「無為な時を、って言ったの」
「それ普通、会話で使わないでしょ」
「私は使うのよ」
ワタシたちを見てたベルトラさんが140文字以内で呟く。
「二人とも仲いいなぁ」
「それはない」
「それありますね」
二人で同時に答える。なん、だと? ここは喧嘩してる二人がそこだけ息を合わせてベルトラさんの言葉を否定……しくじったのワタシか!
「それは、ないわ」
ゆっくりと強調するように言うヘゲちゃん。なんで2回言ったの。
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