方法19-4:娯楽の終焉(ときには怒り狂いましょう)

 ワタシたちは2階の大ホールへ移動した。

 ここも軽食や飲み物が端のほうに並んでいる。またタニアとアシェトの挨拶があって、楽団が最初の曲を奏ではじめる。


 すぐにナウラの周りには一緒に踊りたいという悪魔が集まった。口々に自分と最初に踊ってほしいと言っている。


「私、こういうダンス得意じゃないんだけど……」


 困り顔になって、小指で耳の上あたりを掻くナウラ。

 なにそのあざといしぐさ。リアル姫ルックとのギャップで効果はさらに100万倍だ! 悪魔たちのボルテージも上がる。


 しばらく考えていたナウラは、ふとイタズラっぽい表情を浮かべる。


「そうだ。オークションでどう? 高い金額の人から順に踊る」


 そして挑戦的な目を向ける。


「10ソウルズ!」

「15ソウルズ!」

「16!」

「18だ!」


 一声ごとに万円単位で価格が釣り上がる。

 それだけ出しても踊りたいのか、競り負けたくないだけなのか。


 それにしても初対面の悪魔相手にオークションだなんて、自分によっぽど自信ないと言えないセリフだ。

 ワタシなら1ソウルチップスタートで自動再出品3回目でも入札ゼロ件で諦める自信がある。

 ……もしかしたらワタシは恐ろしい怪物を生み出してしまったのかもしれない。


 けどそんなワタシの周りにも、ナウラほどじゃないけど一緒に踊りたいという悪魔が集まっていた。

 なんやかや言ってワタシもまだまだ注目の悪魔なわけですよ。幸運にもヂャールズの姿は見えない。


「大秘境帯ぐらしが永かったので、踊り方なんてすっかり忘れてしまいました。誰と踊るのが礼儀にかなっているのかも……」


 そう言ってワタシは目を伏せる。さて、どうしたものか。


「キミが礼儀を重んじてくれるなら、僕は最初のパートナーになれそうだ」


振り向くとそこに立っていたのは──。


「やあ。みんな知ってるダンタリオンだよ。もちろん、キミと踊りたがっている他の悪魔たちのこともみんな知ってる」


 あいかわらず爽やかな笑顔だ。


「最初のダンスは僕と踊ってくれるかい?」


 ワタシは他の悪魔たちをチラリと見た。誰も異議を唱えない。それだけハッキリ格上ってことか。


「大丈夫。僕に任せてくれれば、きちんとエスコートするから」


 こうしてワタシはダンタリオンとダンスをすることになった。

 先に踊っていたナウラのパートナーは、ナウラの体格に合わせて人型になっている。

 その顔色が悪いのはもともとなのか、支払った金額のダメージで瀕死なのか、どっちだろう。


 そもそも総額でいくら稼いだのか。

 どうせ戻ったらイカばあさんから“将来のために貯金しておくわね”とか言われて全額巻き上げられ、どこかに消えるんだろうけど。

 そうなる前にワタシへ預けるよう、後で言っておこう。


 腰に片手を回され、もう片手はがっちりつなぎ合った状態で、ワタシとダンタリオンはホールを滑らかに動き回る。

 ワタシの顔や体をめっちゃ見てるのが気になったけれど、ダンタリオンは任せてと言っていただけあって巧みにリードしてくれた。


 ターンやステップ、ワタシの方はたぶん間違っているんだけど、それでもフラついたり転びそうになったりはしなかった。

 遠目にはなんとなく踊れてるように見えたと思う。


 何曲くらい踊ったんだろう。気づけばワタシはホールの隅に誘導されていた。


「なかなか楽しかったよ。それに興味深い。けれど、残念ながらそろそろ次のパートナーにキミを託した方がよさそうだ」


 あっさりとワタシから離れ、一礼すると去っていくダンタリオン。

 ああいうタイプの絵に描いたようなイケメンが好みなら、きっと惚れたりするんだろうな。


 体がほぐれたからか、慣れたのか。

 次の悪魔からもそれほどひどいことにはならず、どうにかワタシは晩餐会を最後まで無事に過ごすことができた。

 こればっかりはダンタリオンさんマジ感謝ってことで。


 舞踏会が終わって部屋へ戻ると、ワタシはベッドの上に倒れこんだ。


「シャワーどうする?」

「んー。ナウラさき入っていいよ」


 ちょっと休みたい。


『へいへいよー』


ヘゲちゃんの念話だ。


『へいへいよー。どうしたの?』

『特に用はないのだけれど、おかしなことはなかった? シャガリの件もあるし、食事中は知らない悪魔と話し込んでたみたいだし、いちおう、ね』


 心配してくれてんのか。ワタシのためだけじゃないといっても、ちょっと嬉しい。

 これはいよいよデレ期がはじまるんだろうか。つい先日、仲違いイベントも終えたことだし。


『あなたいま、変なこと考えてなかった?』

『いや、べつに』


 鋭い。ひょっとして念話って思考が少し漏れたりするんだろうか。


 ワタシは今日あったことをヘゲちゃんに面白おかしく話して聞かせる。

 いつもは隙あらばワタシを本気でディスってくるヘゲちゃんも、今日はそれほどじゃない。これはやはりあれか。デレ期来たか。


『いま、また変なこと考えてなかった?』

『気のせいだって』


 ワタシとヘゲちゃんのあいだで、珍しく穏やかな時間が過ぎる。たまにはこういうのも悪くないなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る