方法17-4:百頭宮の地下深くに謎の巨大生物を見た!(安請け合いはやめましょう)

 連れてこられたのは、四本の腕を生やしたいかついデーモン。

 名前は知らないけど、ここのスタッフだ。


「どーもどーも。アガネアさんと、あなたは確か、ええと、ティルさん。ボクはここのアトラクション部門の責任者で、ブライトンの六つ脚ジャックっていいます。ブッさんとかブッちゃんとか呼んでください。

 いやもう大娯楽祭でお披露目する新アトラクションの準備で忙しくて。ここでさらに追加のアトラクション行っとく? なんてヘゲさんに言われちゃ、行くしかないでしょ的な感じで」


 見た目に似合わず、やたらテンション高いし軽いノリだ。ワタシはブッちゃんにアイデアを話す。


「うーん。サーペントですか。ティルさんが。で、頭にねぇ」


 四本の腕を器用に組んで考え込むブッちゃん。意外と気乗りしなさそうだ。ティルもそんな気配を感じたのか、言う。


「あの、実際に変身解いてみせましょうか」

「そうですねー。それ見せてもらったうえで持ち帰って検討ってことで」


 あ、これ断る気だ。けど、実物を見ても果たしてそう言えるかな?


 ワタシたちはプールサイドに移動する。

 ティルは服を脱ぐと水に入った。

 潜ることしばし──。


 ザパン!


 水面を割ってティルが姿をあらわす。


「ボオォォオオンンン」


 太い声で吼えると、口を開けてブッちゃんに迫った。

 驚いたブッちゃんが下がろうとして壁に背中をぶつける。


 ティルは水中へ姿を消すと、今度はプール中央で天井へ向けてジャンプ。

 天井すれすれでターンして、尻尾が出て来る前に頭から着水。ものすごい水しぶき。


 他にもティルは高速で泳いでプールサイドすれすれで方向転換したり、頭を振って見えない敵と戦ってみせたりと、いろいろなデモを披露した。


「どう、でした?」


 人型に変身したティルが戻ってくる。ブッちゃんはその手を四本の腕でがっしりつかむ。


「いやー、素晴らしい。いいですね。正直、話だけ聞いたときは微妙だと思ったんですけど、いけますよこれ。殺害、重傷なしでゲームバランス取って、プールは全面、いや半分か三分の二くらいで。名前は“期間限定! 幻の魔獣、地下サーペント襲来!!” とかですかねー。あ、身バレしちゃだめですよ。

 そうだ、擬人アガネア プロデュースってのも入れちゃいましょう。フレッシュゴーレムの次は地下サーペントだ! なんつって。細かいトコはこれから詰めて、明日プレオープン、明後日正式スタートにしましょう。期間も短いし宣伝はあえて派手にやらないで店内告知と口コミだけで」


 大興奮だ。


「じゃあ、ティルとブッちゃんは先に戻って話を詰めてちょうだい。詳細を回してくれたら、アシェト様の決済は私が取る。それとアガネア。あなたはここに残って」

「企画原案費の話ね?」

「まあ、そんなところよ」


 にこやかに答えるヘゲちゃん。


「あの、本当にありがとうございます。私、アガネアさんの期待に応えられるようがんばりますから」

「あー、うん。上手くいくといいね」


 よし、これでティルもワタシを見直すだろう。

 恩を売っとけば、あとあと現金なり便宜なりで返ってくるかもしれないし。

 というか、いつか取り立てよう。



 そしてワタシとヘゲちゃんの二人きりになった。


「企画原案費はもちろんもらうけど、本当はなんの話?」

「そこのガラスドアの鍵、私が掛けたの。これで解ったでしょ? 解ったら言うことがあるんじゃない?」


 ふむ。よくわからない。ヘゲちゃんの説明下手は絶望的だからな。


「つまり、どういうこと?」


 ヘゲちゃんはため息をついた。


「今回の件、どうせ私が助けると思って、自分から引き受けたでしょ?」

「いや、それはその」

「たしかにあなたが危ない目に遭えば、私は助けるしかない。けど、自分から危険に飛び込むのはフザケた態度なんじゃないかしら? 今回は違うけど、本当に通信が途絶する可能性だってあるんだし」

「ごめんなさい」

「それで、どうするの?」

「え?」

「まさか人を使い魔みたいに扱おうとして、謝罪の一言で済ませる気じゃないでしょ。私は百頭宮の副支配人。それなりの誠意を見せてもらわないと」


 返事に詰まる。困った。どうしよう。これかなり怒ってるよね。


「どうしたの? 黙ってるけど」

「どうしたら、誠意を示せるかなって」


 言いながらうつむいてしまうのを止められない。


「お金でも、と言いたいところだけど、あなたに支払い能力がないことはよく知ってる。そうね。まず企画原案費なんてナメた話はなし。あと、私にふさわしい敬意を払って」

「ナメてるとか敬意を払ってないとか、そういうつもりじゃあ」

「私も解りやすく、怒鳴ったりテーブルの一つ二つ蹴り壊してみようかしら」


 ドーム全体が不穏な音を立てる。


「じゃあ、敬語を使ってヘゲさんて呼んで、距離を取ってなるべく関わらないようにする」


 言ってて辛くなってくる。さっきまでの浮ついた気分は消え、みじめで、痛い。

 ワタシは勇気を振り絞って顔を上げた。


「ヘゲちゃんは、本当にそっちのほうがいいの?」


 ヘゲちゃんはなぜか、一度大きく息を吸って、吐いた。


「もちろんじゃないの」


 その顔はいつものように無表情で、なにを考えてるのか読めない。

 これまでだってずっとそうだった。

 ワタシがそこから、怒ってるとか楽しんでるとか、ただ勝手に思い込んでただけ。

 そう、思い知らされた。


「解りました。ヘゲさん。すみませんでした」


 ワタシは頭を下げる。そして顔を上げると、ヘゲちゃんの姿はもうなかった。

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