方法12-7:牧場クエスト(クエストは禁止)
ワタシは一人、見晴らしのいい岩場に取り残される。
さて、ここからが重要。ミニチュア百頭宮からヘゲちゃんが呼び出せるかどうかテストしよう。
『へいへいよー』
ワタシはあらかじめ決めておいた呼び出しコールを念じる。
『どうしたの?』
すぐさま返事があった。引くほど早い。なにこの娘。ずっと呼ばれるの全裸待機してたとか?
『あー。なんかぁー。ベルトラさんが一狩り行っちゃったんでぇ、ワタシ一人なんだけどぉ』
『いますぐそのウザい喋り方をやめない場合』
『ごめんごめん。とにかくそういうわけだから、来てくれない?』
「しょうがないわね」
いきなり背後から声がした。ヘゲちゃんだ。
「お。呼び出し成功」
「そうね」
ヘゲちゃんは興味深そうにあたりを眺めている。その姿を見てワタシは驚愕した。
「なん、だと? ちびキャラじゃないなんて」
そこに立っていたのはいつもと変わらないヘゲちゃんだった。
「ちびキャラ?」
「二頭身とかにデフォルメされたキャラのこと!」
普通こういうのってちびキャラになって、弱体化してることを可愛く、そしてわかりやすく表現されるものなんじゃないの?
それで私の肩に座ったり、頭撫でられて「ちょっとやめてよ」とかちんまりした手を振り回して抗議して、でも「こんなふうに頭をなでてもらったりしたの、初めて」なんてまんざらでもなさそうだったり。
「そんな姿じゃ近接戦で不利じゃない。やっぱり馬鹿ね」
馬鹿とか言いましたね、この女。しかしここで喧嘩しててもしょうがない。ワタシは話題を変えることにした。
「初めて百頭宮の敷地から出た感想は?」
ヘゲちゃんはあたりを見回す。
「意外と普通ね」
少し残念そうだ。
「期待が膨らみすぎてたんじゃないの?」
「それはない」
くそう。あくまでクールぶるか。
そうこうしてるうちに、森から追い立てられた肉羊の群れが飛び出してきた。50頭くらいいる。他の魔獣まで混ざってるみたいだ。
魔界の獣は牛とか羊とか呼ばれてても、野菜と同じで人界のそれとは全然違う。
肉羊がどんなものかはベルトラさんから聞いてたし、ここの牧場のパンフにも写真入りで載ってたから知ってたんだけど、実物を目にするとけっこうな迫力だ。
“ランパートハートフルファーム自慢の肉羊!
肉羊は馬くらいの大きさの8本脚の地龍です。高い繁殖力があり、鋭い爪と牙に堅牢なウロコ。高い敏捷性とほぼ全ての状態異常に対する高耐性を持っています。
当ファームでは「羊に独特の臭みを香りにまで高めた」と評されるアウグストハートフルファームの羊を分けてもらい、繁殖させています。
ただし生育環境の違いから、当ファームの肉羊はヴェルガモットを思わせるスモーキーなフレーバーがほのかに加わっており、本家とは違った風味をお楽しみいただけます。
広い大自然の中でのびのびと育った肉羊たちは健康そのもの。
ほどよい柔らかさに、噛めば噛むほど味の出る、しっかりとした肉質です”
つまり今、向こうでは50頭を超える地竜の群れやその他の魔獣たちが突進してきているという状況なわけで、遠目にもかなりの迫力だ。
ちなみに毛羊というのもいる。羊みたいな毛の生えたカメの魔獣らしい。主に西の沿海部で養殖されてるという。
誘い手たちが大声をあげ、広がった群れの幅を狭めつつ仕留め手の待つ方向へ誘導しようと突進する。
もちろん、そんな簡単にはいかない。肉羊たちは好戦的で、誘い手の悪魔たちに襲いかかる。
思いどおり誘導するには力で押し込むしかない。それでいて商品になる肉羊を傷つけることは厳禁。
たちまちあたりは高速で移動する混戦場と化した。
誘い手の悪魔たちは基本的に肉羊を抑え込み、投げ飛ばすというスタイルだ。棍棒や尻尾でぶっ叩いてる悪魔もいる。
そうやって全体の流れを狙った方に向かわせるのだ。
他の魔獣もいるけれど、こちらは殺されたり走り去るのに任されたりしていた。
ベルトラさんもその中にいるはずなんだけど、遠いし混沌としてるのでよく判らない。
進む先では仕留め手たちが待ち構えていた。地龍の群れが猛スピードで突進してくるってどんな気分だろ。
バン! バン! バン!
あちこちで高圧電気が放たれる音。先頭の肉羊たちが倒れていく。
すかさずそれを、悪魔の基準からしてもガタイのいい連中が回収して後方の荷台へ積み上げていく。
早くしないと後続に踏まれて商品がズタズタになってしまう。
それにしてもこれ、ムチャすぎだろ。
すぐそばを電撃がかすめ、あとから地龍の奔流が押し寄せてくる中、地面に倒れたぶんを回収してる。
当然のようにめっちゃ踏まれてるし爪や牙で襲われてるし、仕留め手の電撃もちょいちょい当たってる。
勇壮なバカ騒ぎを眺めていると、ふと気づいた。
遠くの夜空にロープみたいなものが浮かんでる。
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