方法11:通販で買ったあのメガネ(己を知りましょう)

 業務終了。ワタシとベルトラさんは遅めの夕飯を食べてスタッフホールでコーヒーを飲んでいた。一日で一番ゆったりできる好きな時間だ。

 スタッフホールには他にも休憩中の悪魔がチラホラ。


「だからですね。ここは魔界って言っても異世界なんですから、クエストもステータスもないのはいかがなものかと思うんですよ!」


ワタシはベルトラさん相手に熱弁をふるっていた。酔ってるわけではない。


「しかし、ないものはなぁ」

「諦めちゃダメです。そもそも異世界転生モノなんてまずは冒険者ギルドで安い報酬のクエストを受けてみるなり、自然な流れで自分のステータスを把握したりするのが正統。それがないなんて欠陥です」


 いや、あくまでワタシことアガネアの個人的な考えなんですがね?


「クエストはともかく、ステータスって言えば──」


 するとそこにヘゲちゃんがやって来た。さっきからベルトラさんに熱く語りつつ、

“眼鏡をかけてウロチョロしてるな。まえにアシェトがしてたみたいな、機能性のあるやつだろうか。ヘゲちゃんの冷たそうな顔に眼鏡とか反則でしょ。眼福だなあ。人間姿のロビンなんかも似合うと思うんだよな。今度かけさせてみよう。”

 なんて思ってたんだけど。


 ヘゲちゃんはワタシのそばに立つと眼鏡のフチに手を当て、じっと見てくる。


「どうしたの? そんな見られると照れちゃう。っていうか、そのメガネなに?」

「これは話題の新製品。ステータスモニタ」


ステータスって、あのステータス?


「この眼鏡をかけると相手のステータスが表示されるんだけど……。なるほどねぇ」


本当にあれなの!? 異世界なのにレベルだのステータスだのの話が全然出てこないから、おかしいと思ったんだよね。

 異世界ファンタジーっていえばもはやステータスが出てこないと違和感を覚えるレベル。


「借りてみたい?」

「え、貸してくれるの!? タダで?」

「うぐっ。ま、まあもちろん無料で」


 ワタシはヘゲちゃんから眼鏡を借りると装着してみた。ツルの部分がほんのり温かい。ああ、ヘゲちゃんの体温。はぁはぁ(言わされてる感)。

 さっそく目の前のヘゲちゃんを見る。


「少し集中して」


 言われたとおりにすると、ヘゲちゃんの隣にステータスウィンドウがひらいた。


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ティルティアオラノーレ=ヘゲネンシス

クラス:百頭宮の具現化、副支配人

レベル:189

HP:189,600/189,600

MP:16,500/16,500

体力:172,590

物理攻撃力:18,400

物理防御力:105,200

魔法攻撃力:9,420

魔法防御力:110,300

すばやさ:590

知力:120

幸運:19

状態異常:なし

スキル:空間転移(限定解除)、魔法(8種混合)Lv.13、超重量、聴覚補強Lv.20、視覚強化Lv.20、交渉Lv.24、痛覚無効Lv54、自動回復Lv82

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 HPとか防御力が10万超えてるのは本体が百頭宮そのものだからかな。なんだか景気のいい数字が並んでるけど、これって一般的にはどうなんだろう。ワタシは他の悪魔をみてみる。


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マーディオム

クラス:バーテンダー

レベル:52

HP:802/802

MP:3,040/3,040

体力:600

物理攻撃力:308

物理防御力:205

魔法攻撃力:610

魔法防御力:720

すばやさ:62

知力:90

幸運:16

状態異常:なし

スキル:基礎魔法Lv.20、水魔法Lv.7、風魔法Lv.7、幻術Lv.3、調理Lv.4

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 ふむ。もう一人。


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”焼野原ノ”ラペル

クラス:コンパニオン

レベル:47

HP:1,602/1,602

MP:840/840

体力:910

物理攻撃力:1,308

物理防御力:705

魔法攻撃力:107

魔法防御力:220

すばやさ:90

知力:80

幸運:17

状態異常:なし

スキル:基礎魔法Lv.16、自動回復Lv.19、物功強化Lv.24、物防強化Lv.19、属性耐性(4種混合)Lv.19

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 うーん。少なくともヘゲちゃんが飛び抜けて強いのは判った。

 さて、お次はベルトラさんを……。

 ワタシの視線を感じて、さりげなく姿勢を正すベルトラさん不器用カワイイ。


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ベルトラ

クラス:調理師

称号︰聖女

レベル:284

HP:13,800/13,800

MP:103/103

体力:2,2110

物理攻撃力:26,030

物理防御力:19,700

魔法攻撃力:80

魔法防御力:130

すばやさ:300

知力:160

幸運:20

状態異常:なし

スキル:基礎魔法Lv.8、自動回復Lv.49、物功強化Lv.54、物防強化Lv.69、属性耐性(9種混合)Lv.64、調理Lv.62、聖女補正Lv.51

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 かなり強い。聖女補正とかどういうスキルなんだろ。

 残念ながらスキルの説明までは出てこない。


 他にもそこらの悪魔を見てみると、だいたい平均レベルが50前後。100を超えると強いってことらしい。

 そして幸運や知力は他のステータスほど上がっていったりはしないみたい。


「おい。ヘゲ。新しいメガネはどうだ?」


アシェトが来た。さて、さっそくステータスを拝ませてもらいましょうかね。


------

アシェト

クラス:総支配人

レベル:hafvhi34iuhty45

HP:+*tsokjaR4dk#/+*tsokjaR4dk#

MP:ioerguiASRGKIP$%ahy/ioerguiASRGKIP$%ahy

体力:DRKHOW&hoajkg%WrgYuk@

物理攻撃力:ladjg;jie4:3Fe

物理防御力:AFJGT%gfsjgq4

魔法攻撃力:bhgjkn#$AFRaqio3j2

魔法防御力:klrhjetq3QFRDa234tjK’%KJ

すばやさ:JY’MUKoghiuo6tkoius6WERto

知力:4

幸運:15

状態異常:なし

スキル:魔法(10種混合)Lv.kjsdfhgwDSF3af、全属性耐性Lv.jrhtui#$Rfef、以下略

------


 数値が大きすぎてバグってるのか、メガネの解析が無効化されているのか、数値がすべて変な感じに化けている。

 その中で知力が4って。この短時間で見た悪魔の中でもダントツで低い。


 そっかー。ワタシたちの主人は馬鹿なのかー。困るなあ。薄々知ってたけど。

 あと、スキルは実際には巻物かってくらい長々と続いていた。

 宴会芸とか性技とかかなり気になる。


 アシェトに感想を述べていたヘゲちゃんがどこからか手鏡を取り出した。


「鏡で見れば自分も、ほら」


ワタシへ向ける。


------

アガネア

クラス:人間、調理補助、給仕

レベル:2

HP:13/15

MP:0/0

体力:14

物理攻撃力:6

物理防御力:4

魔法攻撃力:0

魔法防御力:0

すばやさ:10

知力:5

幸運:17

状態異常:なし

スキル:調理Lv.1

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 ステータスがとにかく低い。人間だとこんなもの、だと思いたい。

 あと地味に知力がアシェトを上回っている。けど、それよりなにより──。


「あの、ちょ、これマズっ」


 大きい声が出た。だってクラスのとこに”人間”って書いてあるよ?

 ヤバイ。これは本当に。いますぐメーカーに連絡して回収してもらわないと危険が危ない。


 ワタシは思わず眼鏡を外す。けど自分に見えなくなるだけで意味はない。

 こうしている間にも他の悪魔がこれを使って私を見たら……。


「あひぃ。み、見ないで」


 物陰に隠れようとする。

 どこだ。どこへ隠れれば。そうだ! 部屋に隠れてもう二度と外へは出ないぞ!


「驚いた?」


 慌てふためきアバアバするワタシを見て、ヘゲちゃんがご満悦な顔をしているのに気づく。

 アシェトから無限に仕事を丸投げされすぎて、さしもの社畜Lv.100も壊れちゃったんだろうか。

 いやいやいや、それどころじゃない。


「騙されるとは思ってたけど、ここまで見事にひっかかるなんて」

「あぇ?」


 しまった。アホの子みたいなリアクションしちゃった。


「これ、新発売のジョークグッズなの。このメガネを通して見ると、かけてる本人が相手に対して知ってることや抱いている印象からステータスを生成してみせる、ね」

「けっこう流行ってるからな。客がスタッフにかけさせて”俺のことどう出てる?”とかな。

 んなもん、正直に答えるわけねえっつうの」


 あ、な、なんだ。なるほどね。ふーん。知ってましたよ。


「ベルトラさん、知ってました?」

「ん。まあ、な」


 気まずそう。


「そんなステータスなんて、少なくともこの世界で現実にあるわけないじゃない。馬鹿ねぇ。

 あ、ちなみに私から見たあなたのステータス、知力1だったから。スキルは調理とゲロ。

 自分で調理したもの食べてマズさに吐くのかしらね」


 くっ。この女。いくらワタシを慕い、甘えているからこその暴言とはいえ、言っていいことには限度がある。泣いたり笑ったりできなくしてやろうかしら。


「そっちこそスキルに超重量、称号に人界処女ってあったけど?」

「じんかっ!? 人が気にしてることを。それに私はそんなに重くない。それ絶対いま適当に考えたでしょ?」

「はぁ? ちゃんと出てましたー」

「そっちこそクラスに尿漏れってあったんだからね!」

「ちょっ? 漏らしてなんかないっつーの。何月何日何時何分地球が何回まわったときのどこソースよ?」


 ギャーギャー言うワタシたちの隣で


「なるほど、盛り上がるもんだな」

「そうですね」


 大人なアシェトとベルトラさんが二人してうなずき合っていた。

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