方法8-1︰突然ですが、クイズです(質問はよく考えて)

「フレッシュゴーレムが入荷したそうだ。ラズロフんところまで取りに行くぞ」


 アシェト、いまワタシがゆで卵の殻むきで忙しいの見てわかんないのかな。これだからブラック経営者は。


「はぁ。行ってらっしゃい」

「バカ。おまえも来るんだよ」


 解ってるから流そうとしたんだよ。追加の仕事をいきなりぶっ込まないでほしい。


「……まさかおまえ、丸薬飲み残して余らしてるんじゃねぇだろうな?」


 ああ、なるほど。そういえば残り1個しかない。

 けどあれはラズロフさんが持ってきてくれるから、わざわざ取りに行かなくてもいい。


「じゃ、ついでにもらってきてください。ワタシいま手が離せないんで」


 むきむきむきむき。殻をむくペースをアップしてみせる。


「どこの世界に主人を使いっ走りにするスタッフがいるんだよ。いいから来い。ベルトラ、悪りぃな」


 ベルトラさんは次から次へと魚をさばきながらうなずく。

 その手並みは鮮やか。軽く包丁で撫でるようにすると、最初からそうだったみたいに魚は三枚におろされる。

 ゆで卵の殻もこの人の場合は、ちょっと指でつまんで軽くスライドするだけでキレイにむけてしまう。

 純粋に技らしいんだけど、何度見てもどうやってるのかよく判らない。


「あらみなさん、もうお揃い? お待たせしてゴメンナサイね」


 やって来たのはイカばあさんとワタシが呼んでる悪魔だった。

 人間サイズのイカの前面に、おばあさんの前半分が張り付いた姿をしている。

 どういう構造なのか、ばあさん部分はちゃんと服を着ている。


「気にすんな。私が早く来ただけだ。時間が惜しい。行くぞ」



 こうしてワタシ、アシェト、イカばあさんの3人は馬車でラズロフの店へ向かった。

 アシェトは何かラズロフに用があるらしい。

 ベルトラさんもヘゲちゃんも居ないけど、アシェトは本物の甲種擬人。わざわざ護衛は不要ってことみたいだ。


「なんだかこの前ね、フレッシュゴーレムが入荷したって話だったのよ。けど届けに来るって言われた時間に私の都合が悪くって。

 ヘゲさんが代わりに受け取ってくれるって言ってくれたんだけど、なんだか手違いで粗悪品だったみたいでねぇ」


 イカばあさんはフレッシュゴーレムの整備担当もしてるんだそうで、それでこうして一緒に来ている。

 というか、ワタシとアシェトがイカばあさんについて来てるって形になるのか。


「また届けに来てもらっても良かったんだけど、この前のことがあったでしょう? 念のため向こうで検品して、そのまま引き取ってきたほうがいいんじゃないかってヘゲさんが言うから。

 私はそこまでしなくてもいいって思うんだけど、ヘゲさんが言うから。

 ラズロフさんの所の品物が粗悪品だったなんて、今までなかったのよ」


 そう粗悪品粗悪品いわれると、なんだがワタシが粗悪品みたいな気がしてくる。


 ところで、ワタシはフレッシュゴーレムのことをよく知らない。

 ここは一つ、最近編みだした“あの手”を使うことにしよう。


「フレッシュゴーレムも、昔とはずいぶん違うんでしょう?」


そう。これこそ奥義“ワタシ、ブランクありますから”。

 かなり長いあいだ人里離れた大秘境帯で暮らしてたっていう設定を活かした技だ。

 こう言えばさりげなく一般的な知識について教えてもらうことができる。ドヤァ。


「いいえ。今でも職人さんの一点ものばかりで、値段も高くて。ほら、アレって魂がなくて人工的に作られてるってだけで人間の肉体と同じものでしょう? 手がかかるし寿命があるしで大変よぉ」

「ということは、相変わらず?」

「そうねぇ。知能くらいは改善されてもいいと思うのにねぇ。魔法で植え付けてるだけなんだから。そしたらお世話ももっと楽になるのに」


 本人が話好きってこともあるけど、狙いどおりフレッシュゴーレムについて知ることができた。大満足。


「ときどき、私ったらなんでこんなこと引き受けちゃったんだろって思うこともあるの。

 死にやすいし、難しいし神経使うし。でもウチみたいな所で置きませんってわけにもいかないでしょ? フレッシュゴーレムがフロアにいると、それは華やかですものねえ。

 酔ったお客様がちょっと触るとか軽くピシャリとするとか、それくらいはまあ何も言わないけど、けっこうヒヤヒヤするのよ。だから私、この仕事はじめてから3キロも痩せちゃって。

 でもね。毎日お世話してると、なんかそれぞれ個性があるような気がしてくるのよ。あれ不思議ねぇ」


 なるほど。動く置物みたいな感じなのか。やっぱ悪魔って人間が好きなんだな。

 それで加虐心が煽られるってあたりがマズいわけだけど。



 やがてラズロフの店に到着した。5階建てでかなり大きい。

 店というよりは倉庫みたいだ。ワタシたちが馬車から降りると、入り口の扉が開いて見知らぬ二人がラズロフと出てきた。


 一人はここがファンタジー世界ならエルフ一択という若い男。

 背が高く痩せていて、絹糸みたいな白に近い金髪を長く伸ばしている。やけに整った顔と先の尖った耳。現代的なスーツ姿だ。


 もう一人は同じくらいの背の高い男装の女。眠たそうなトロンとした目をした美人。

 口の両端がほんの少し吊り上がってて、なにか面白がってるように見える。

 黒く短めの癖っ毛はボサボサだけど、手入れしてないというよりも、ワザとだらしなく見えるようにしてる感じだ。

 その上にはシルクハットが載っている。手足が普通の人間よりは長いけれど、そのバランスがこの人には似合っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る