方法8-2︰突然ですが、クイズです(質問はよく考えて)

「本当にもう、困りますよ。痛くもない腹を探られるのこっちなんですから」


 ラズロフが弱りきった声で言う。


「痛くないなら探らせればいいじゃあないか。ほら、噂をすれば」


 そこで女の人はこちらにむかってシルクハットを持ち上げてみせる。


「あっ。こ、これはこれは」


 ラズロフも慌ててワタシたちに頭を下げる。


「違うんですよ。その、あの、タニア様が急にいらっしゃって、今日は先約がありますからって言ったんですが、“この店はわざわざ来た客を追い返すのか。先約の相手が来るまででも相手をするのが商売人じゃないのかい?”なんておっしゃるものですから」


 目をグルグルさせながら弁解するラズロフ。


「やあアシェト、こんなところで会えて嬉しいよ」


 テンパったラズロフとは逆に、リラックスした雰囲気で親しげに話しかけてくるタニア。

 知り合いかな、と思って隣のアシェトを見る。


 はい、眉間にしわ寄せてめっちゃガンくれてるアシェトがいました。

 口も不愉快そうなへの字に曲がってる。そんな表情してるとシワになるよ?

 ともあれ、友好的な間柄じゃないみたい。よく見ればタニアの横のエルフ風青年も少し緊張してるみたいだ。


「てめぇこの腐れ女。ヒトのシマで何やってんだ?」


 まるっきりチンピラみたいな凄み方をするアシェト。

 それでもその迫力は凄まじく、ラズロフが口からダラリと舌を出して怯えている。


「互いの領内以外では営業や宣伝活動をしない。取り決めはそれだけだったじゃないか。なに、そう殺気立つことはないよ。ウチの店の新サービスについて相談に来てただけだ」

「そっちにも出入りの薬種商がいるだろうが」

「あそこは実際に普段使いそうなものしか置いてなくてね。合理的ではあるけれど、こういうときに少し困る。

 なにもウチがここで取引してはいけないという法はないだろ? 急に押しかけたような形になったことは認めよう。ラズロフを責めないでやってくれないか」


 アシェトは腹立たしそうに喰いしばった歯の間から言葉を絞りだした。


「とっとと帰れ」

「言われなくとも。では、お互いによい商いを」


 そしてタニアはなぜかワタシに目配せすると、エルフ君を従えて去っていった。



 中へ入るとアシェトはラズロフと打ち合わせだとかでどこかへ行き、イカばあさんもフレッシュゴーレムを見に行ってしまった。

 ワタシはひとり残される。


 1階は広い倉庫だった。

 天井まである高い棚にはいろいろなサイズの引き出しが並んでいて、それぞれラベルが貼ってある。

 そのあいだを大勢のカエル男たちが行き来していた。みんなラズロフそっくりだ。


 やっぱりワタシ、ここに来なくてもよかったんじゃないの?

 やることもなくぼんやりしてると、カエル男のひとりが近づいてきた。


「アガネアさんだね。私は二番目の兄のラズロフ。どうぞこちらへ」


 案内されたのは倉庫を抜けた奥の廊下にある扉の前だった。石造りの重たそうな扉で、取っ手の代わりに太い金属の輪がついている。


 ラズロフが輪を握ると薄く光った。おお、ファンタジーっぽい。

 この世界って悪魔以外はあんまりそんな感じしないからなあ。

 高度に発達した科学は魔術と見分けがつかない、って格言があるけど、あれの逆みたいな。


 中は狭い部屋だった。古いイスが2つと、さらに奥へつながる扉があるだけだ。

 ラズロフが入ってきた扉を閉めると、外の音が聞こえなくなる。


「それにしにてもアシェト様は抜け目がない」


 は? 最初っから幻聴とか、いよいよワタシも末期かしら。もしくは空耳アワーでジャンパーもらえるくらいのセンスに目覚めたとか。


 いや、たぶん疲れてるんだろうな。早く帰ろう。

 どうせコイツもあれでしょ? 一度ふたりきりでゆっくり話してみたかったとか、キミを吊るし切りにしたい(訳︰月がきれいですね)とか、そういうことなんでしょ?

 はいはい。そういうのもういいから。ハーレムエンドとか興味ないから。

 デッドエンド満載で人外ばっかの乙女ゲーとか、それなんてクソゲーオブザイヤー?


「正直に言って、最悪の場合はすべて一番上のの兄のラズロフが勝手にやったことで、当店はそんな人間のことなぞいっさい知りませんと、うまく行く保証はないがそれでもそう言って店を守ろうと、そんな話をしていたんだ。

 ところがここへお前さんが来た。となるともう、これはシラを切れるものじゃない」


 なるほど。たぶんそれヘゲちゃんの入れ知恵だと思うよ。ヘゲちゃんそういう糞細かいところ詰めるの好きそうだし。

 まあ、わざわざ教えてあげることでもないけど。


 にしても、なるほど。これたぶんワタシから、アシェトをホメてたって伝えてほしいってことね。

 それで好感度上げてアシェトルートに入りたい、と。へぇー、ふーん。はほーん。(心底どうでも良さそうに)


「おまえさん、いま変なこと考えてないか?」

「いいえ。ぜんぜん」

「そうか。まあいい。それで、ひとつ頼みがあるんだ」


 ラズロフの話は長かったけど、ワタシの明晰な頭脳で要約すると、つまりは──


“歴代ラズロフのクイズに答えて質問の答えをゲットしよう!”


ということだ。


……いやいや、ホントだって! マジで! 信じて! ワタシがポンコツとかトンコツとか、そういうんじゃないから!


 時間かかるからと水筒を渡され、さらに答えをメモるようにと手帳とペンを渡され、ワタシは奥の部屋へ送り出された。

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