方法1-2:なあこれどーすんだ?(まずは身バレを避けましょう)

「まずなによりも死なないように」


 ヘゲちゃんは最初にそう言った。

 なるほど。まずワタシは死んじゃダメ、と。

 なにその無茶な要求。というかそれってダメとかダメくないとかいうことじゃないよね。

 死んでもいいって言われたからって喜んで死んだりしないよ?


「そして人間だということは絶対バレないようにして。つまりラズロフ氏が戻ってきて上手くごまかせるようになったらその辺の隅にでも座って、生命維持に必要な最低限のこと以外は何もしないで。いい?」

「あー。わかりました」

「じゃあ、私が言うことは他に何もないわ」


 見ればヘゲちゃんの後ろでアシェトが“そうじゃないんだけどな”という顔をしていた。

 ですよねー。これ説明放棄してるよね。


「ヘゲの言うことは、うん。ギリギリまで言葉削って本質だけ言うとそういう説明の仕方もあるよな」


 そこでアシェトは後ろを向く。


「ベルトラ。おまえからも言うことあるだろ。ほら、な? 察しろよ」


 すると、それまで扉の隣にいたオーガがこちらへやって来た。


 うわっ、ワタシの知能レベル、低すぎ……? オーガが解説役とか史上初なんじゃないだろうか。

 オレサマオマエマルカジリとか言うんだろうか。


 オーガはワタシの目の前まで来ると床に座りこんだ。


「身長差ありすぎると話づらいからな。あたしはベルトラ。ここでスタッフエリアの警備と料理番をしてる。えーと、そうだな。ここはあんたらが言う魔界。あたしらは悪魔だ」


 前言撤回。ここに来て会ったなかで一番の常識人だわ。あと声でわかったけど、ベルトラさんは女だった。


 ベルトラさんの説明は丁寧でわかりやすかった。


 この魔界は天界に制圧されていて、どうにか自治を認められている。

 政治家たちは自主規制の法律を定め、警察を組織して取締をし、どうにか自治が奪われないようにしている。


 そうした規制の中でも大きいのが「人間の魂を奪わない」ということ。

 人間を魔界に連れ込むのも一緒にいるのも重罪で、バレれば極刑。釈明の機会すら与えられず有罪になる。それでさっきから騒いでたわけだ。


 ワタシが死ぬと魂が肉体から解放され、警察に発見アンド回収されてしまうらしい。

 そして魂から記憶やら何やらがすべて読み取られて全員アウト。

 ワタシが魂と引き換えに悪魔と契約を結べば死んでも魂は解放されないけれど、どのみち“魂のヌル化によるカルヴィニウム放射”とやらが察知されてダメらしい。


 じゃあワタシが警察に保護を求めて駆け込めばどうかというと、この場合も「魔界へ来た時点で人として手遅れ」とのことで読み取りのために魂を抜かれ、証拠物件にされてしまう。


 魔界から人界へワタシを送り返すのも不可で、そんなことをすれば人間のワタシでさえ天使たちの襲撃を受けて滅ぼされる。

 つまり何か名案がないかぎり、事態はかなり詰んでる。


 そこまで話を聞けばさすがにさっきのヘゲちゃんの言葉も理解できる。

 死ぬな、バレるな、生き延びろ。

 それは記憶を失って異世界へ放り込まれた私にとって、シンプルなぶん刺さるものがあった。

 解りやすさにすがっているだけかもしれないけど、何の指針もないままこの世界で放り出されるよりいい。


 そうやって生き延びても人間だからいつかは死ぬ。

 けど普通に寿命とかで死ぬのなら、後のことがどうなろうと知ったこっちゃない。

 天国には行けないだろうし、地獄に落ちるくらいなら証拠物件として死後を保管庫で過ごすほうがマシだろう。


「ワタシ、がんばります!」


 我ながら妙なスイッチが入ったのかやたら前向きな気分のまま力強く答えると、ベルトラさんは少し安心したように見えた。


「ベルトラ。じゃあおまえがコイツの面倒を見てやれ。手伝いが欲しいって言ってたし、ちょうどいいだろ。よかったな?」


 にこやかにアシェトが言う。

 ホントこの人、呼吸するくらい自然に面倒なことを他人へ丸投げするな。

 たぶん自覚もないんだろうなぁ。ナチュラルボーンブラック経営者ですか。

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