進藤玲羅物語

鐘辺完

進藤玲羅物語

 ここはとある王国。

 王城の城下町のはずれに小金持ちの中途半端に屋敷と呼べそうな家があった。

 その家は進藤しんどう家といって、別に由緒正しい家柄というわけでもないが、町内会で多少は名前が知れる程度の家だった。

 その家には三人の娘がいた。ふたりの姉は率直にいってぶさいくだった。だが、末娘の玲羅れいらはそこそこ以上にきれいな娘だった。それが玲羅の不幸だった。

 母親は玲羅の第二次性徴がそこそこ進むと、個人風俗業を営ませた。ぶさいくな姉ふたりは風俗に使えないぶさいくゆえに、逆に母親に大事にされていた。

 今日も進藤玲羅しんどうれいらは様々な技を駆使してお客を満足させていた。幸いなことに玲羅はセックス好きで、しかも上手だった。天職と言っても過言ではなかった。だが、彼女には少しだけ不満があった。職業病とも言うべき……、と言っても性病ではない。オ○コが黒くなってビラビラがのびることだった。この商売を始める前は、結構きれいなオ○コをしていたのだが、やはり回数を重ねるとメラニン色素が沈着し、無数のピストン運動がビラビラをのばしていた。

「ふたりの姉のオ○コはまだピンク色してるのに」

 玲羅は虫の居所が悪いと、そんな不満ももらした。しかしまあ、ふたりの姉はぶさいくゆえにセックスの回数が常人より少ないからオ○コが綺麗なだけなのだが、玲羅はそんなことまで考えが及ばないほど機嫌が悪いときにはそんな愚痴もこぼすのだった。

 実際のところ、セックス経験なんかなくても色素沈着している女性はいるものだが、彼女は経験的にそれを知らなかった。



 そんな頃、王城で年に一度の乱交パーティーが行なわれる日がやってきた。

 玲羅の母も姉もめかしこんでパーティーへの準備を始めた。母はもうそんなに若くないし、姉たちもぶさいくなのでいくらめかしこんでも知れていた。しかし、本人たちは結構自信をもって王子のタネもらって王族に入れてもらおうなどという邪(よこしま)な考えを持っていた。

 そして、そのパーティーに玲羅は出席させてもらえない。なぜなら母が風俗やってる娘を王城なんかにつれていけるもんかとつっぱねたのだ。

「あんたが風俗やらせたんだろうが」

 玲羅は心の中でそう訴えましたが、この十数年、理屈もなく家族で一番立場が弱いことになっているので、言い出すことができない。

 乱交パーティーの夜は風俗営業に客も来ないので、玲羅は家で留守番をする。母と姉たちが王城に出かけるのを見送ると、玲羅はTシャツにGパン姿で、録画したアニメを見ながらくさっていた。

「ああ、わたしも乱交パーティーに参加したい……」

 すると、玲羅の目の前の空間がねじくれるように歪み、そこにぽっかりと黒く丸い穴が空いた。その穴の向こうは良く見ると黒いのではなく、薄暗い部屋のようだった。そこから、黒いローブをはおり、ねじくれた杖をついた、へしぼったおばあさんが出てきた。

「な、なんですかあなたは……」

 テレビの前に立つおばあさんに玲羅は驚いて言った。

「お約束の魔法使いのおばあさんじゃ」

 へしぼったおばあさんは身も蓋もないことを言った。

「えっ? ということは、お約束で、わたしの望みをかなえてくれるのね?」

「そうじゃ。あんたの望みは王城の乱交パーティーに出席することじゃな」

「それと、オ○コをもっと綺麗にしてほしいの」

 うるうるした目つきで玲羅は言った。こういう肉体的コンプレックスは切実なのだ。

「ああ、わかっとるわかっとる」

 おばあさんがねじくれた杖を振るうと、杖から金粉のような光の粒が無数に飛び散り、玲羅の体を取り囲んだ。すると玲羅の体は綺麗なドレスに包まれた。

「うわあ、きれい……」

 と、ひとまず感動したところで、玲羅はいそいそとぱんつを脱いだ。そして手鏡を持って確認した。

「うわあ、きれい、きれいだわぁ……」

 玲羅は数倍感動した。なにしろ陰核がちゃんと包皮に包まれているし、陰唇のびらびらもなかった。なによりサーモンピンクのうつくしいオ○コだった。

「ありがとう。魔法使いのおばあさん」

 うんうん、と満足そうにうなずくと、おばあさんは次に、

「それじゃあ、次は王城へ向かう乗物じゃな。お約束通り、冷蔵庫から使えそうな物を持ってきなさい」

 冷蔵庫からというのはお約束じゃないけれど、玲羅はそそくさと台所へ向かった。

 冷蔵庫を開けると、マヨネーズやねりからし、パックのみそ、缶ビールが一本あるきりだった。

「使えそうなのがないわ……」

 そうおばあさんに伝えるとおばあさんは、笑顔で言う。

「心配することはない。野菜じゃなくっても代用できるのじゃ。馬車とそれを引く馬にできそうなものならなんでもいいわい」

「うーんと……」

 玲羅はしばらく考えたあと、ぽん、と手を叩いて、自分の部屋に走った。そのあと、出番のない父の部屋にも寄った。

 そして……。

「なるほど、熊ん子と電動シビレフグか。いいコーディネートじゃ。気に入った」

 ちなみに熊ん子とは、名器と呼ばれる電動バイブである。熊の親子を模した形で、親熊がメインの張型、子熊がクリ刺激用の部分である。

 シビレフグは男性用バイブの代表的なもので、フグの口の中につっこんで楽しむものである。

 シビレフグの馬車を引く熊ん子の馬。えらい形であったが、こんな馬車で出かけるなら、まあ国主催の乱交パーティーに向かうくらいかとは思える。

 進藤玲羅はシビレフグの馬車に乗った。意外と乗り心地は良かった。

「それじゃ、いってきます」

と、玲羅が熊ん子のスイッチを入れようとすると、おばあさんは言った。

「お約束じゃが、午前零時になったら、この魔法はとけるからな。今日いっぱいの夢じゃ。ちゃんと零時には帰るんじゃぞ」

「あ、やっぱりぃ……」

 玲羅は予想はしていたが、少し残念そうに言った。

 そして、熊ん子のスイッチを入れると親熊が首をぐもも~んぐもも~んとねじくらせながら、馬車は発進する。

「いざ、王子のタネもらいうけにまいる!」


 王城の前にシビレフグを横付けする。

 その異様な姿に衛兵がひいていた。できれば近づきたくないらしく、しばらく遠巻きに見ていた。あまりにも怪しい馬車なだけに尋問せざるを得ないので、結局イヤイヤ近付く。

「そ…、そこの気色悪い馬車の乗員! 出てこい!」

「はーい」ほがらかにシビレフグから顔を出す玲羅。「私も乱交パーティーに参加させていただきたいのですけど」

「ああ、そうか。では身分証明書を見せなさい」

「は?」

「身分証明書だ。乱交パーティー催すアホな王家でも、とりあえず身分を詐称するようなやつだけは城に入れてはいかんことになっているのだ」

「あ。はい……」

 玲羅は去年取得した自動二輪免許証を提示した。

「進藤玲羅か。それで職業は?」

「言わなきゃらならいですか?」

「ああ。テロリストだとかいうやつは城には入れられんからな」

 自分からテロリストだと答えるテロリストはいないと思うが。まあ、せめて「俺はテロリストだ!」と宣言するようなアブナイやつは除外できる。

「風俗関係です」

「風俗? 売春か?」

「いやですねぇ、フリーのソープ嬢です」

 ものは言いようだ。


 というわけで、無事王城に入ることのできた進藤玲羅は、パーティーの案内係に連れられてダンスホールへ入った。王宮のダンスホールは基本的にはダンスをするためのスペースだったが、ライブスタジオにもなるし、寄席にもできた。そして今回は乱交パーティーの舞台となっているのだ。

 ダンスホールのドアを開けると、もう中は酒池肉林、むんむんする熱気と特有の匂い、ヨガり声に叫び声。

「コンドームこっちこっち!」

といって給仕を呼ぶ声。

「えーっ? 縛りダメなの?」

というSMマニア。

「そうそうそこそこ……」

とかいってずっと膝の裏をくすぐらせる女。

 まあ、異様な世界であった。

 そして、ダンスホールの上座には今年十六歳になった王子がいた。王子は今回のパーティーで結婚相手を探すはずだというちまたの噂である。

 十六歳では日本の現行の法律では結婚や生殖はできないが、この国では十六歳で成人で法的な問題はない。

 王子の周辺には王家のタネ欲しさに何人もの女が殺到するが、それで王子とできるわけではなかった。

 どういう形にせよ、王子のほうからやりたいと思わなければならない。それだけがルールだった。

 とりあえず乱交パーティーするような王家の王子だけに、かなりの数をこなすことはできるのだが、このパーティーの参加者は約六千人。そのうち半分が女性としても、全員とやっていたら、一発3ミリリットルとしても9リットル。そんなに出したら死んでしまう、というよりそんなに出る前に死ぬ。


 玲羅は王子にみそめてもらおうと頑張った。屈強そうな男を相手に、はめたままその股の上で高速回転してみせたり、両手・両足・口・股を駆使して同時六人抜きしてみせたりと超人的な活躍を見せつけた。

(いちかばちかよ。これで王子は、私に目をつけるか、あまりのゲスさにひくかだわ)

 結果、玲羅のカケは成功した。王子に呼び出されたのだ。


「ありがとうございますっ!」

 裸のまま、多種多様の分泌液にまみれたままの姿で玲羅は王子の前に元気に鎮座した。

「あ、とりあえずシャワーは浴びてね」

 王子の側近が言った。

「あ、わかりましたっ」

 小走りにシャワールームに向かう玲羅。

 その後ろ姿を王子は熱い眼差しで見つめていた。


 そして戻ってきた玲羅と王子はやりまくり、王子はすっかり玲羅に惚れこんでいた。

 玲羅の超人的なセックステクニックにも王子は惹かれたが、玲羅のオ○コの美しさにも惚れこんでいた。

 そして、第7ラウンドに突入しようとしたその時、午前零時の鐘が鳴る──。

「しまったぁ! ごめんなさい急用があってあのそのとにかく帰りますすいません!」

 玲羅は王子のちんこを引っこ抜いてあわててドレスを小脇に抱えてダッシュして去っていった。

「あ! ……まだ名前も聞いていなかったのに……」

 王子は残念そうに自分の半勃ちのちんこを見下ろした。


 翌日。

「そうか。それほどその女性を気に入ったとな」

 王は王子の話しを聞いた。

「はい。できれば探し出し、妃にしたいと思います」

「しかし、ガラスの靴でも忘れていけば探し出せようが、名前も顔も……。王子よ。顔ぐらい覚えているだろう。モンタージュでも作成して、指名手配すればよかろう」

「それが、あまりに強烈なセックステクニックとオ○コばかりが印象的で首から上をまったく覚えていません」

「はっはっはっは。このスケベが」

 王はほがらかに笑った。

「いいえ父上ほどでは……」

「とにかくそれではなんの手立てもないわけだ」

「いいえ、私のこの瞼には、しっかりとあの美しいオ○コが焼きついています。そして、あのセックステクニックの感触がこのちんこにも鮮明に残っています。国の女性をひとりずつ股実検またじっけん(※)していけば、いずれめぐりあえます」

「時間がかかるぞ」

「覚悟の上……」

 こうして王子の妃探しが始まった・・。


※またじっけん【股実検】①討ちとった敵のちんこが本物かどうかを大将自ら検査すること。②実際にヤッてみて本人かどうか見きわめること。(馬並書店・刊 睾辞苑こうじえん 第三版より)


 それから毎日、王子は国じゅうを股実検して回った。一日に百五十人ものオ○コに入れて炎症を起こしそうになったこともあった。

 そうして国の片っ端から、回っていくうち、やがて進藤玲羅の家にもやってきた。

「まーまー、王子様、よくぞこんなところまでまーまーまー」

 母は王子を寝室に招いた。王子は花嫁探しに忙しいので、応接間をすっとばしていきなり寝室に上がるというルールがいつかできていた。

 玲羅の姉ふたりがベッドの上で股を広げて見せる。

「どうですか?」

 オ○コさらしてドキドキしながら王子にきくふたり。

「違う」

 ろくにオ○コを見もせずに王子は断言した。

「ええーっ? ちゃんと見てくださいよぉ」

 上の姉が口をとがらせる。

「そうですよぉ。それでわかるんですかぁ」

 下の姉も憤慨している。

「……君たち相手にちんこ勃てるほど私はおちぶれていない」

「ぶーぶーぶー!」

 ふたりの姉のブーイングをあとに、王子は寝室を後にしようとしてドアを開けた瞬間、茶を運んできた玲羅とはちあわせた。

「きみは?」

「あ、はい……。このうちで一番立場の弱い者です」

 普通こんな答えはしない。

「きみも、妃さがしの股実検に協力してくれないか?」

 王子はぶさいくな姉ふたりと比べると相当に美しいルックスの玲羅のオ○コが見たい衝動にかられて言った。まずいものを食べたあとはおいしいもので口直ししたいのだ。

「はい」

 玲羅は湯飲みを乗せた盆をベッドサイドテーブルに置くと、慣れた動きで脱いだ。

 股を広げて見せる。

「な……、なんと使いこまれたオ○コ……」

 メラニンが沈着し、陰唇の発達したオ○コに王子は感動さえ覚えた。

(ああ、王子とやったオ○コはこれとは似ても似つかないきれいなピンクの陰核包茎……)

 思わずため息をもらす玲羅。

「これはどう考えても違うな……」

 王子はそう言い切ったが、ここまで使いこまれたオ○コがどういったものか興味があった。

「しかし、とりあえず一回入れておこうと思う。これほど別の意味で見事なオ○コも珍しい。後学のためにも一発……」

「精一杯がんばらせていただきますっ」

 玲羅は張り切った。とりあえず魔法の力を借りていない自分と一発やろうと王子が言ってくれたのだから。


 そして、四十五分後。

「いやぁー、堪能したした」

 満足した様子の王子。汗をふきふきにこやかである。

「喜んでいただけましたか」

 玲羅の問いにうなずく王子。

「しかし、きみのテクニックは私の探している女性にそっくりだった」

「え?」

「ひょっとして同じ師匠のもとに学んだのではないのか?」

「え、いや……その……」

 言葉に窮する玲羅。魔法使いのおばあさんに変身させてもらったのもお約束なら、それを口外してはならないのもお約束だった。

「師匠を教えてもらえないか」

 玲羅を目をじっと見入る王子。

「あ、その……これは、私が独学で学んだものでして……」

 この言葉に嘘はなかった。

「そうか。師匠も姉妹弟子もいないのか……」

 さみしげにパンツをはく王子。


 王子は進藤家をあとにする。

「おじゃました。また次の乱交パーティーででも会おう」

「まーまーまー、うちの娘じゃなくて残念ですわぁ」

 にこやかに母は送り出す。

 ふたりの姉は不機嫌だ。

 姉と母の後ろから、その肩越しに王子の後ろ姿を見つめる玲羅であった。


 王子は一軒あけて、次の家に入った。

 ところで王子は連れの者のふたりや三人くらい連れていてよさそうなものだが、ひとりでうろついていた。それはこの国がボケなまでに平和なせいと国民が王家を愛しているがゆえにできることであった。

 とにかく、次の家の娘の股実検しながらも、王子の脳裏には、玲羅のテクニックが思い返されていた。

(あのテクニックが独学だと。それじゃあ、彼女が私の求める妃だというのか。いや、あんなメラニンが沈着した黒々としたオ○コが彼女のはずはない。感触もまるで違ったではないか。しかし、この国にあれほどのセックステクニシャンがふたりといようか。私がやった無数の女性の中でも極めつけだ。そうだ。ふたりといない。だが、そうなると、あの美しい陰核包茎のピンクのオ○コはなんだったんだ。あれから一ヵ月たらずで、あれほどメラニンが沈着するものか。陰唇があんなに発達するものか。どうなんだ……)

 王子は苦しんでいた。


 王子は玲羅のテクニックのことが脳裏に焼き付いていた。あれから三日たっていた。

 その日おとずれたある家の娘は、幼い顔にグラマラスな肢体で、しかもほとんど使っていない生娘同然の美しいピンクのオ○コをしていた。

(そっくりだ。……あのときの彼女も、こんな美しいオ○コをしていた)

 股をじっくり観察している王子の脳裏に、ふとある考えがよぎった。

(だが、彼女は生娘じゃなかった。生娘のオ○コを持つセックステクニシャン。まるで幻想の産物じゃないか。私は本当に彼女と交わったのだろうか? あれは私の幻想にすぎなかったのではないのか?)

 確かにあの乱交パーティーの日、王子は無数の女性とまぐわいを繰り返していた。誰とどうやったかなんてほとんど憶えていない。しかし、魔法で変身した玲羅との記憶は鮮明だ。確かだ。だが、冷静に考えてみると、彼女が実在すると考えるには、『きれいなオ○コ』と『テクニシャン』という矛盾があった。


 こうして王子は毎日のように股実検を繰り返しながらも、その矛盾にさいなまれていた。そして、オ○コが黒いがテクニシャンの玲羅と、生娘同然ゆえに美しいオ○コの娘が、脳裏に焼きつく妃と求める女性の姿とオーバーラップする。

 やがて、王子は国じゅうのほぼすべての適齢期女性の股実験を終了した。それは間違いなく歴史に残る偉業であり、また愚行であった。

 そののち、王子は結婚しない宣言をおこなった。もちろん国じゅうに大々的に発表したのではなく、王と王妃に対して宣言しただけなのだが。

 そう、王子は幻想と結婚したのだ。今やどこにもいない、魔法の産物の幻想と──。


 進藤玲羅は今日も客を取って腰を振るっていた。

 彼女にはひとり息子ができていた。王子のタネだった。だから、彼女は王家と縁故関係になっていた。いろいろ特典があったが、彼女は国で初めての風俗営業の国家公務員になった。ボーナスが潤沢に出たので、息子とふたり、派手ではないが、不自由しない生活をしていた。息子は王家の血をひくので、ちゃんとした教育係や待女もついたので、母は風俗営業に専念することができた。


 今日も玲羅は客の腰の上で回転する。

「とりぷるあくせるぅぅぅ!」

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