看板

あるところに自分の診療所を開業することになった医者がいた。

その医院は大通りから外れて少し奥まったところにあるため、その医者は大通り沿いに大きな看板を立てることにした。

「デザインはいかがいたしましょうか?」

「車の運転手にもすぐに伝わるように、できるだけわかりやすい方が良い。病院の外観の写真をメインにして、余白にできるだけ大きな文字でHostpitalのHと、それから心臓のマークをひとつ、描いておいてくれ」

「病院名、電話番号、診察時間はどうしましょう?」

「そういうのは全部、省いてくれて構わない。ごたごた情報が書いてあっても誰も読まんだろうしな」

かくして看板の製作が業者に発注されることとなり、二週間後、無事に大通りに立て看板が掲げられた。

──しかし、路地を抜けてやってくる客は、患者ではなくカップルばかりだった。

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