短編集;章節無き小説

水野沫あきら

痛し痒し致し方無し

「我が社の携帯のバッテリーはどの競合他社よりも断然長持ちすると大変評判だ。フルに充電した状態からならば、実に百時間は持続する。いやぁ、素晴らしいね。これも君たち技術部の努力あってのことだと思っている。感謝しているよ」

「身に余るお言葉ありがとうございます、社長」

「だがね、君。バッテリーに関して一つだけ問題があるのだ」

「と、仰いますと?」

「ゼロパーセントから百パーセントまで充電するのに百分もかかってしまうことだ」

「それはバッテリーの容量が大きいので、仕方の無いことだと思うのですが」

「何を言っているのかね。仕方無い、だと?」

「ええ、何故なら……」

「ええい、ぐだぐだと変な御託を並べるな。そんなものは全部言い訳だ。君は知っているのかね? 急速充電が売りの黄金社のバッテリーは、空っぽの状態から満タンになるまでものの二十分で済むんだぞ。五倍だ。我が社のバッテリーの実に五倍の速さではないか! それでは駄目だ。それでは黄金社に分があることになってしまう。そこをセールスポイントにされては、売り上げもいつかは追い越されてしまうことだろう」

「しかし……」

「しかしと言うな、しかしと! やる前からできないなどと思うんじゃない。やれ。そして作れ。お前たちにできないことなど無いのだからな」

「はぁ」

「目標は十分だ。十分で充電が完了するようなバッテリーを作れ! さあ、やるんだ!」

 そして半年後。

「社長、十分で充電できるバッテリーが完成しました」

「おお、やればできるではないか! つい先日までは間に合わない間に合わないと愚痴を漏らしていたようだが、やはり追い詰められれば人間なんでもできるものだな。どれ、どんなものか見せてくれ」

「はい、こちらになります。……ただ、完成したことにはしたのですが、一つだけ問題があるのです」

「何だね」

「今度のバッテリーは、十時間しか持ちません」

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