㉒Victory
「はぁぁぁ……!」
〈マスタード〉は竿状の部分を握り締め、頭の後ろまで振りかぶる。そしてルアーを投げ込むように振り下ろし、
「どりゃぁぁ!」
ほげぇぇ!?
悲痛な断末魔を残し、怪獣が熔融した道路に飛び込む。
地球の中心に杭を打ったような
どっしり構えていた大地に激震が走り、地平線が笹舟のように浮き沈みする。
半壊していた建物は
地面にぶち当たり、真っ平らになった顔面。
くの字に折れ曲がった尾。
怪獣の各部から閃光が突き出し、巨体を震わせる。
刹那、爆炎が怪獣を包み込み、紫紺の空を茜色に塗り潰した。
巨体が
「へへ、やりぃ……」
〈マスタード〉は両腕を広げ、風の流れに身を任せる。
もう抵抗する余力も、気力もない。
高波に揉まれるような感覚と共に、身体が空中へ
自分の身体に構うのが精一杯で、〈
〝
力なく
すかさずモニターのナマズさんが胸ビレを振り、目頭を押さえた。
半平の身体を覆っていた装甲が、焼きすぎた遺骨のように崩れ落ちていく。
遺灰そっくりの粒子は上昇気流に乗り、火の粉と共に雲の先へ去っていった。
「……あち」
久しぶりに外気に触れた肌を、炎から差す光が
刺激臭のする空気も、なかなか強烈だ。
強風と共に口へ流れ込み、喉の粘膜をヒリヒリと
ただ、不思議と不快感はない。
むしろ、吸えば吸うだけ気分がすっきりして、脳内に晴れやかな声が響く。
ああ、やっと窮屈な仮面から解放されたんだ、と。
リラックスした拍子に意識が遠のき、睡魔以上に逆らいがたい力が
あと三秒もあれば、完全に気を失っていただろう。
だが二秒が
……
半平は重い
瞬間、視界に飛び込んできたのは、空中を漂う〈アンテラ〉だった。
やにわに彼女の輪郭が
すぐさま彼女の背中に光が走り、後頭部から尻までを縦断する。
同時に消しカスの背中が着ぐるみのように開き、中から女性が飛び出した。
無論、キモだ。
「やった……」
半平は笑みを浮かべ、小さくガッツポーズを取る。
ヒトの姿に戻ったと言うことは、彼女の〈
〈アンテラ〉が
いても立ってもいられなくなった半平は、薄く漂う灰を掻き分け、キモの手を取る。彼女の体温をはっきり感じ取ると、胸のつかえが抜けていった。
誰も死なせずに済んだことが嬉しかったのか。
それとも、人を殺さなかったことに安堵しているのか。
衰弱した半平に、判断する余力はない。
ただ、不思議と充実しているのだけは確かだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます