⑤怪人チョコ女
事前に見た資料によれば、コードネームは「キモ」。
年齢は二四歳で、出身地は西アジアの小国だったはずだ。
東洋人とも西洋人とも異なる顔立ちは、独特の美を感じさせる。
長い
反面、目付きは無機質で、整った顔に冷たい印象を与えている。
「君に勝てる確率は……」
キモは絞り出し、ポケットの電卓を出した。
「0」のボタンを連打する指は、老人のように
シャツは冷や汗でべとつき、真っ青になった肌を透かしていた。
かなり怯えているようだが、安心は出来ない。
一切の感情を否定し、実利のみを追求する彼等のことだ。
目的を果たすためなら、どんなに惨めな真似でもして見せるだろう。
〈シュネヴィ〉はキモの動きに注意を払いつつ、モニター左下に目を向けた。
遺影のマークに視点を合わせると、デスクトップのようにアイコンが並ぶ。
その中から板チョコのそれを選ぶと、仮面の中に呼び出し音が鳴り始めた。
「終わったかね?」
受話器を取る音に続いたのは、少女の声だった。
「……はい」
答えた瞬間、階下から屋上に十数人の男性が駆け込む。
彼等は
原色の多用された制服は、子供向け番組の防衛チームそのもの。
ハエを模したヘルメットには、三つの「Z」が誇らしげに描かれている。
「ご苦労さま」
屋上に少女の声が響き、電話とハモる。
「相変わらず見事な手際だ。これは最短記録を更新したかもな」
ディゲル・クーパーはスマホをしまい、足下のコンクリ片を踏み付けた。
真紅のワンピースに黒いトレンチコートと言う装いは、吸血鬼を彷彿とさせる。事実、若作りの
月光に照らされた顔は、端整な以上に知性的だ。
薄く細い眉に、淡い色をした唇。
赤茶の髪は真ん中で分けられ、トレードーマークのおでこを
西洋人にしては小柄だが、一六〇㌢足らずの身体はしなやかに引き締まっている。弓なりに反らした背筋は、周囲の男性以上に頼もしい。
「しかし、これまた相変わらず凄いギャップだな」
ディゲルは瓦礫だらけの屋上を眺め回し、続けてビルの下を覗き込む。
残り火に照らされた通りでは、原色の制服を着た人々が駆け回っている。
塀の周りには工作班が集まり、補修を始めていた。
「その仮面で顔を隠した瞬間、爆発させているようだよ。普段は人目を
ディゲルは口付けするように顔を寄せ、〈シュネヴィ〉の頬を撫でる。
「こんな有様では、〈
「……気になりますね」
ボソッと呟き、〈シュネヴィ〉は連行されていくキモを見る。
〈シュネヴィ〉のバイザーは、中の人の瞳と重なる位置にカメラを内蔵している。
捉えられた映像は、即コンタクト型モニターに表示される。
解像度は人間の目と同程度で、視野も一八〇度前後。
中の人は普段と何ら変わらない感覚で、外の様子を見ることが出来る。
「やっこさんの目的だろう?」
ディゲルは賛同し、ポケットから板チョコを出した。
「〈
そこまで言い、ディゲルはがさつにチョコを
「まあ、いい。その辺りは〈
「簡単にお話ししてくれるでしょうか?」
「お話ししてくれんだろうな。あなたに私が講釈するのも
「〈
「ああ、ならば忠誠を尽くすさ。自分が命を落とすことになろうともな」
断言した途端、ディゲルは左右の口角を吊り上げる。
たちまち邪悪な笑みが完成し、周囲の男性たちが一斉に背筋を伸ばした。
「だが、世の中には死より辛い仕打ちが幾らでもある。よからぬ企みがあるなら暴くまでさ、話したくなるようにしてな」
「あんまり手荒な真似はしないで下さいね」
「安心したまえ。少なくとも、あなたよりは穏便さ」
心外だとばかりに言い返し、ディゲルは足下のコンクリ片を蹴飛ばした。
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