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次の日、学園内では私と千鶴の生徒会入りを知らせる張り紙が早速至る所の掲示板に貼られ、全校生徒の知るところとなった。掲示板の前にはたくさんの人だかりができていて皆の生徒会への関心の高さがうかがえる。
やけに早い対応に、近くにいた滝川由岐の方をチラリと見たら目を
やっぱり承諾をする前から準備を進めていたでしょ?
私にはやるべき事が山積みになるほどあるっていうのに。
「神宮寺様、生徒会入りおめでとうございます」
「ありがとうございます。精一杯やらせていただきますわね」
「応援していますわ」
「そうそう。あの高橋さんも一緒だとか」
「西條様達のご迷惑にならないかしら?」
「大丈夫よ。神宮寺様がついてらっしゃるもの」
「それもそうね」
「ごめんなさい。私、この後先生に呼ばれていますの」
「あら、ごめんなさい」
「いいえ。ご機嫌よう」
あぁ、ホントこのお嬢様言葉……疲れる!なんでこんな面倒くさいの!
こんなの現実に話す人がいるならどこの二次元の人ですかって言いたく……そうだ、ここが二次元の舞台だったわ。そりゃあ、いてもおかしくないわな。
私は校舎を出て師匠の所へ向かった。
ちなみに千鶴は今レッスン中。
とりあえずダンスパーティーまではうちだけで鍛え上げるという約束を取りつけてある。
まぁ、この間みたいに乱入するかもしれないけど。
その時はまた連絡がくるようになってる。そう何度も忙しい仕事の合間に行ったりはしない……はず。
自動ドアを開けて中に入ると、誰もいない。
不用心にもほどがあるけど、相手はあの師匠だ。万が一なことがあっても必ずその日中に犯人を見つけるだろう。つくづく敵には回したくないタイプだ。
いわゆるバックヤードと言われる奥に顔を出すと、そこには見たくない光景が広がっていた。
これぞまさしく二重苦だ。三重苦になる日も近いような気がする。
……誰か、この人止めて。
「あ、奈緒奈緒。いらっしゃーい」
「……なに、してるんですか?」
「ん?見てわからない?新作お菓子を作ってるんだよ」
いや、語尾でハートを飛ばされても。
それにごめんなさい、分かりたくないんです。なんでよりにもよってヒラヒラのエプロン?
……まさか、師匠は七瀬礼司みたいに
「あ、安心して。そういう趣味は全くないから」
「人の心の中を覗かないでください」
「奈緒奈緒が分かりやすいだけだよー。僕、一応人間だし」
一応ってなんですか、一応って。
やめてくださいよ。実は悪魔とかでしたーってオチは。ただでさえ師匠はゲームに存在してなくて謎な人なのに。
そして今すぐそのお菓子とは到底思えないモノをどうにかして欲しい。視界の暴力だ。
ゆっくりと気づかれない程度にお菓子をテーブルの上からゴミ箱の中へさようならしていく。
うわっ!今、ネバッてした!!なに!?なんなの?これ!!
涙出そう。
「ふぅー。ちづちづはレッスン中みたいだね」
「えぇ、もう日にちが迫ってきているので。そうだ。エスコート役も決めなきゃ」
「大変だねぇ」
「最初の分岐点ですからね。ちゃんと注意しないと。……師匠は出席しないつもりなんですか?」
「うん」
即答だよねー。
洸蘭の行事ごとはその敷地内にある店舗の従業員もできるだけ参加することになっている。跡取り子息の多い洸蘭で、さまざまな知識を各業種の専門家から聞き出せるようにとの学園側の配慮だ。
つまり師匠も会場内に入れ、なおかつエスコート権を持っているわけで……
私ははたと動きを止めて師匠を見た。
「……師匠。神宮寺がこの春開発したばかりの最新式のパソコン、欲しくないですか?まだ試作品段階ですが、かなり良い線いってると聞いていますよ?」
師匠の耳がもし犬や猫みたいだったら必ず今耳をピクピクさせている気がする。
ふっ、釣れたな。
ハッカーとしての血が騒ぐんだろう。ここでコンビニの店員なんかしているが、本職はそちらだ。気にならないわけが、欲しくならないわけがない。
使えるものはなんでも使う。宝の持ち腐れなんて言葉、私の辞書には二重線がひいて消されている。手札は最も有効な時に有効な出し方をしてこそ真価が発揮されるんだから。
だから師匠、可愛い弟子と甘い物好き仲間のために必ず参加していただきましょうとも。
しばらく師匠は何かを天秤で測るかのように宙を見据えて考え込んだ後、首を縦に振った。
よし、これで千鶴のエスコート役も決まった。師匠が相手なら千鶴も緊張などはせずにすむだろう。
問題は奴等か。
今のところヤンデレ化はまだしない。あくまでもゲームの中の彼らはだけど。そこのところ要注意だ。
だけど今回のダンスパーティーでどう振る舞うかでまず誰のルートに行くか決まる。
前世の私はダンスを失敗するを選んだような。……別に他意はなかったと思う。庶民出なんだからダンスなんて踊れるわけない、的な考えだったろう。
そして見事に滝川由岐と西條呉羽に捕まった。
……暗い過去、前世を思い出すのはやめよう。悲しすぎて柱にガンガン頭をぶつけたくなる。
絶対に避けなければいけないといけないのは全員まとめてヤンデレ化なんてふざけたルートだ。冗談じゃない。どうやってさばけと?
ただでさえ一人でも手に負えないのに攻略対象六人まとめてなんてもはや悲劇通り越して喜劇になる。おかしくて目から涙が滝のように出そうだ。
ここはそう、千鶴には目立たないように何事もなく平穏にダンスパーティーを終えてもらおう。
何が悲しくて高校生活始まってすぐにヤンデレから逃げ回らなくちゃいけないんだ。後三年は確実にあるっていうのに。
「師匠、ダンスの方は可もなく不可もなくでお願いします」
「やれやれ。僕の弟子は人使いが荒いなぁ」
口では呆れているように言うけど、口角が上がっているのを私は見逃さなかった。
作り終えたらしいモノを冷蔵庫に入れ、師匠は地下に続く扉を開けた。地下には師匠が運び込んだパソコンなどの機材が所狭しと並んでいる。
師匠の後ろに続いて地下に下りると師匠はいそいそと片付けを始め、あっという間にパソコン一台が入るようなスペースができた。
そして師匠は私を見てにっこりと笑った。
その笑みの意味するところは……。
「大至急、例のパソコンを洸蘭のコンビニまで運んできて」
上に戻り、私は直通で開発部に電話をかけたのだった。
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