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 食堂に着くと席はかなり埋まっていた。空いている席はあと僅かしかない。

間違いなく奴等の相手をしていたせいだ。



「あ、ここ空いてるよ?」

「そうね。良かった、空いていて」

「うん!じゃあ、私が買ってくるね」

「あぁ。いいのよ」



 千鶴が立ち上がりかけたのを手で制し、もう片方の手を軽くあげた。


 すると中を回っていたボーイが優雅な足取りでかつ素早くやってきた。さすがです。あぁ、前世の私だったら確実に惚れてたわ。対人関係は病院の中しかほとんど知らない人生だったけどね。



「メニューはお決まりですか?神宮寺様」

「えぇ。私にはいつもので。彼女には…」

「…………」



 千鶴?


 …あぁ、やっぱりそうよね?学校の食堂にボーイ!?って感じよね。


 絵に書いたようなポッカーンとした顔をありがとう。



「彼女にはシェフお勧めの料理を」

「かしこまりました」



 ボーイは深く一礼するとまた同じように去っていった。



 千鶴はまだぽけーっとしている。目の前で手をヒラヒラしてようやく気がつく有り様だ。そこまでカルチャーショックが強かったか。


 でも千鶴さん。こんなものはまだまだ序の口なんですよ?



 間もなく私に運ばれてきた料理は毎回ここに来る度同じ。



「おいしー!!」

「そう。良かったわ。……ここ、ついてる」

「えっ!うわっ!!」



 私にはオムライス、千鶴にはカルボナーラ。

有名シェフが作るここの料理はどんな有名店にも勝る。

なにせ帝国ホテルでも指折りの人物を引き抜いているのだから。


 さらに言えば、この食堂だけじゃなく、学園の敷地内にある店舗はどこも有名なものばかりだ。


 なかにはコンビニもあるにはあるけど…ね?客はかなり少ない、いや、私以外見たことがない。でも千鶴が来るまでの間、癒しの空間であったのは間違いなくコンビニだ。



 ここだけの話、ハッキングの師匠がそこの店長さんだったりなんかする。

…何者なんだ、あの人は。



「あ、な、奈緒ちゃん」

「ん?」

「あ、あれ……」



 千鶴の視線を追いかけ後ろを振り向くと


 ヤツラがいた。



「あ、奈緒ちゃんはっけーん!」



 なんなんだよ。ほんと勘弁してくださいよ。

 どうしてこうなるのかな?



 そこには今日も今日とて…というかさっきも見た生徒達の群れに囲まれた生徒会の姿だった。



 どうしてこの大量の生徒の中から見つけられる?しかも囲まれてれば見えないでしょ、普通。マサイ族並みの視力ですか、このやろー。



 ピョコピョコと跳び跳ねるように駆けてきた西條呉羽。

周りからはきゃーかわいー!っという声が四方八方から聞こえてきている。



 おーい。騙されてますよー?この人の中身は真っ黒ですよー?

ブラックホール並みにどす黒いんですよー?


 ていうか、何でここに来たの?いっつも生徒会室に運ばせてるのに。

だから食堂は安全だと完っ壁に油断してたわ。


 …くっ、不覚!



「おい」

「はい、朝霞様。御用はどのような」



 朝霞恵斗が近くにいたボーイを呼びつけ、私達が食べていた料理を指差した。


 

 …………な、なによ。やらないからね。



「これを生徒会役員専用テーブルへ」

「…何故ですの?私達はここでもう食事していますわ。それに生徒会役員専用テーブルは皆様だけしかご使用になれないはずでは?」

「俺がいいと言っている」



 なんつー俺様。誰か止めなよと思って他の面子を見たけど無駄だった。


 私の両脇を既に固めている西條呉羽に神園瑠偉。

いつもなら唯一の良心の滝川由岐も私に例の件で話があるせいか止めようとしない。


 この際だ。はっきりさせておこう。



「私もこの子も平穏な毎日を望んでいるんですの。あなた方の側にいれば不都合なことばかり。私、女生徒達の嫉妬をさばき続けるほど寛容ではありませんわ」

「確かにな」



 これだから幼馴染みという立場にいる奴は嫌いなんだ。

しっかりと私の性格を把握しちゃってくれてる。



 そもそも誰のせいでこんな面倒な事態になってると?

あんたらが後々手に負えないほど暴走し始めるからじゃっ!



「だがもう遅い」

「は?」

「お前はすでに生徒会庶務だ」

「…は?…………はぁっ!?」



 なんでそんなことなってるの!?承諾なんかしてないし!!天地がひっくり返ったってそんなことありえんわ!!


 ゲームではこんなことなかったのに!!まさかの状況悪化!?冗談じゃない!!



 私の事を知っている人達、この食堂のほぼ全員が私のあげた奇声に驚いているのが見てとれる。


 それは当然だ。

この国において神宮寺家を知らない金持ちはモグリだと言わしめるほどの大家。

そこの令嬢である私が普段なら出さないような言葉を発したのだからそれも無理はない。



 ひとまず猫をかぶりなおそう。勝手にいなくなっちゃ駄目でしょう、猫ちゃんや。



「何の騒ぎー?」



 こんな時に限って面倒事は増えるのだ。


 新たな騒ぎを伴ってやってきたのは今日もお綺麗な風紀副委員長サマだった。



「あら、なーちゃんじゃない!」



 横にいた西條達を押し退け、かつ何もいなかったかのように振る舞うオネェマン。

別に偏見を持っているわけではない。

 ただし、彼の場合は逆に似合いすぎている。神様はどうやら生まれさせる性別を間違えてしまったらしい。



「………おい」

「…あら、いたの?邪魔よ、邪魔邪魔」



 シッシッとまるで家畜に対するような扱いにプライドの高い朝霞恵斗が黙っているわけがない。滝川由岐もムッとしているし、西條呉羽は黒さ増しで笑っている。

神園瑠偉だけはいつもと変わらないから分からないけど。



 私からしてみれば両方邪魔だ。散れ。それか共倒れしろ。



 こうなると可哀想になるのはボーイさんだ。

自分に言いつけられた仕事を全うするべきか内心グルングルンに考えているはずだ。


 普通なら家柄が高い方の指示に従っておけば基本的には全て片付くが、神宮寺家と朝霞家はほぼ互角。

 しかも、生徒会と仲の悪い風紀委員の登場とあってさらに食堂内が混乱に陥るのは間違いない。



「………ごちそうさま。千鶴、外で食事を取り直ししようか」

「うん…あの、ごめんなさい。とっても美味しかったです」

「また次はゆっくり食べられるようにしますわ」



 給仕をしてくれていたボーイに頭を下げた。



「そんな、頭をおあげください!」

「神宮寺の令嬢がそんな事するな」



 はい、カッチーン



「ここのシェフ達が心をこめて作ってくれたものを残してしまう。それがどのようなことだか分かって?」

「食べられないならしかたない」



 はい、またまたカッチーン



「そうですわね。食べたくても食べられないのが今ですわ。……これ以上話しても無駄のよう。私、早退いたします。さぁ千鶴、行きましょ」

「あ、うん」



 追ってこようとする西條達は周囲に任せ、私は千鶴と野次馬と化した人混みをぬけた。



 私のオムライス…ごめんね、食べてあげられなくて。

また絶対に食べに来るからっ!!



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