ゴブリンなめんなよっ?!

@bibi5800

第1話 侍死す

 このご時勢で馬鹿なのかもしれない、と思う。


 だけど、やめることなどできるはずもない。


 夜の帳が落ちた世界は俺たちのものだ。


 指定された場所は山奥深くの遊歩道。


 人が通らなくなって久しいのか、草が生い茂り、落ち葉のせいで地面が見えない。

 ざり、と葉を踏みしめる


 時代錯誤。


 そんな言葉が浮かぶ。


 現代世界でいるはずのない侍装束を着た青年が目の前にいるのだから。

 腰には刀を差して、俺を睨んでいる。


「よいな?」


 刀には手をつけず、俺にそう問うてくる。


 あぁ、準備はできている。覚悟はできている。

 剣を極めると決めたその日、俺は修羅道を突き進む覚悟を決めている。

 だから、答えるべき言葉は一つ。


「応よッッ!」


 時代錯誤と言った。

 俺も羽織と袴という衣装だ。

 バッ、と羽織を広げて片袖になる。


(たまんねぇ、何度やってもこの緊張感はヤミツキだ)


 ピンと張り詰めた空気。


 風の音しか聞こえない。


 それすら消えて――無音。


 ざわめきすら消えて、全ての音が俺の耳からは消えてなくなる。

 睨み合う。

 俺も隙を見せず、敵も見せない。

 見せたら終わる。一瞬で勝負がつく。


 ――ザァァァァ


 一陣の風が吹く。

 視界を遮るほどの葉の群れ。


「――いざ」

「――尋常にッてか!」


 視界を覆う葉を無視して覚悟を決めて前へ出る。。

 敵は刀を抜かず、迎撃の構え。居合い。

 面白い。

 俺は刀を抜いて青眼に構える。

 居合いが来ても受けきる――ッ!


「ぬんっ!」


 互いに踏み込む。

 右から襲ってくる神速の居合い。

 光としか思えぬほどの視認すら許さない神速。

 だが、予測していた。

 鮮烈な火花が散り、それこそが刃を受け取った証明となる。

 だが、それとは違う音が聞こえる。

 パシュッ、という間抜けな音


「――あれ?」


 どういうことか。

 俺の刃は受けきったはずなのに俺は今、背中を穿たれている。

 背中に触れる。

 血だ。


「間抜けめ」


 うつ伏せに倒れている俺の頭を蹴り飛ばす敵。

 その顔は醜かった。


「お前みたいな化け物と正々堂々と戦うわけないだろう?」


 木陰から新たに人が出てくる。

 そいつらは俺を見下し、笑っている。手には小さな銃――あぁ、そうか。俺はハメられたのか。


「剣神と呼ばれたお前も銃の不意打ちには耐えられなんだな」


 時代錯誤。

 こんなご時勢に剣に生きた末路。

 案外死ぬときは呆気ないものなのかもしれない。こんな風に。

 死ぬのはいい。別に未練もない。

 だが、興味もある。


「――ならば、お前は何故剣を持つ?」


 答えは返らず、意識は闇に落ちていく。 

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