勇者がリセマラなんてするんじゃねぇ!
因幡ノ真兎
第1話
真っ赤な月が昇り、二人の人物を怪しく照らす。
一人は、魔王と呼ばれ民に慕われているオウル。もう一人は家臣でありオウルの右腕と言っても過言ではない人物であった。二人の信頼関係は魔王領に暮らすものなら誰でも知っているほどだ。
だが、今この瞬間二人の周りの空気は重いものとなっていた。
オウルが魔王と呼ばれるようになって早二千年、彼は自身の夢を果たすため今の地位を捨てようとしていた。
「本当に、本当に行ってしまわれるのですか魔王様」
「もう、この世界に我は要るまい」
「そんなことはありません……」
オウルの言葉に悔しさを堪えるように呟く家臣。彼は知っている、オウルは一度決めたことは決して曲げない者だということを。
「悪いな」
「いつでもお帰りをお待ちしております、オウル様!」
オウルはその言葉を最後に聞きこの世界を後にした。彼は、夢を実現するために新世界に行くのである。
そう、勇者との熱いラストバトルをするために。
◆ ◆ ◆
世界は枝分かれした木のようなもので、すぐ隣には別の世界が存在する。普通は世界を渡るには、多大な犠牲を払ったり、偶然や奇跡が重なった状態でやっと行けるのだが、オウルは自身の力で、次元の扉を開き新天地となる世界にやってきた。
「どうやら孤島のようだな」
オウルは辺りを見渡す。
澄み渡る青い空、所々にその空を彩るように白い雲や、オウルの知らない鳥や魔物が飛んでいた。
右を見れば断崖絶壁。その向こうには光を反射しキラキラと輝く青い海が見えた。
海を我が物顔で泳ぐ海竜やクラーケンであろう巨大なイカの魔物、そしてもう少し向こうには、うっすらと城のようなものが見えた。
左側は、草原に木――そして急に現れたオウルを外敵とみなし、今にも襲い掛かろうとする魔物達で溢れていた。
「肩慣らしにこの世界の魔物がどれほどのレベルなのかを見極めるか」
オウルの言葉を皮切りに、魔物達が襲い掛かってきた。
オウルは襲い掛かってきた魔物達の間をスッと攻撃の一つも受けずに通り抜け、最後尾にいた熊型の魔物の頭を掴み、そのまま地面へと叩き付ける。熊型の魔物はその一撃で気を失ったのか、動かなくなった。
「この程度か」
オウルはどの程度の強さなのか理解したのか、手についた毛をパンパンとはたき落とし、残りの魔物を見る。すると次の瞬間には全ての魔物が地面に倒れ、ピクピクと痙攣していた。
「さて、魔王らしくこの世界を支配し、勇者の到着を待つとするか」
オウルの言葉を聞けるものはこの場には居なかった。
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