耳かき

鐘辺完

耳かき

 耳がかゆい。

 こういうときはえてして耳かきが見付からないのだ。

 何か切りたいときにはハサミやカッターナイフが見付からない。

 いや、そんなことを考えてもしょうがない。耳がかゆい。

 いらいらする。小指をつっこんでも届かない。

 あー!

 そこいらを探し回る。

 ぼくにはきみが必要なんだ。きみがいつもそばにいるときには気づかなかったんだ。いなくなって初めてきみの存在の大きさがわかった。ぼくが悪かった。たのむ。やり直そう。

 っとか考えてたら見つかった。

 輝いて見えた。竹でできたスリムなボディ。うしろについた白くてふわふわの梵天。先端の掻く部分の……掻く部分の、……掻くとこがない~。折れてる。

 もうひとつあったはずだ。そうだ。早く見つけないと。

 早く穴につっこんでかき回したい。何回も奥に手前に出し入れしたい。ポイントを探り当ててぐちゅぐちゅにしたいぃぃ。

 はっ。なにを考えてるんだ。

 とにかく耳かきを探すんだ。

 ペン立て、引き出し、机の下。どこにもない。

 足に突然いやな感触がした。

 見下ろすと、ゴキブリ取りが足の裏に粘着していた。

 あああああ!

 まだ生きてるゴキがついてる。足の裏にもぞもぞした感触がつたわるうう。

 あわてて引き剥がす。

 風呂の洗い場で足の粘着剤を落とす。

 あー、もう、ついてない。

 粘着剤はいつまでもべたつく。

 石鹸をつけてこする。台所用洗剤をつけてこする。クレンザーをかけてこする。

 あー、やっととれた。ふう。

 さて、コーヒーでもいれて一休みしよう。

 カップに満たされた琥珀色の液体……か。琥珀色って何色なんだ。

 コーヒーを飲み、人心地ついた。

 さっきのゴキブリ取りをまだ片づけていないことに気づいた。

 あ。なんでこんなとこに。

 ゴキブリ取りの中に耳かきが入っていた。

 これじゃ使えないな。

 耳かき……。

 お、思い出してしまった。

 耳がかゆい。


  ぼくにはきみが必要なんだ。きみがいつもそばにいるときには気づかなかったんだ。いなくなって初めてきみの存在の大きさがわかった。

 早く穴につっこんでかき回したい。何回も奥に手前に出し入れしたい。ポイントを探り当ててぐちゅぐちゅにしたいぃぃ。


 耳かきぃぃぃぃぃぃ!

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耳かき 鐘辺完 @belphe506

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