四人目のメンバー

 朋や光とは、中学生の頃まで同じ学び舎で勉学に励んだ仲だった。高校は別々の場所に進学したこともあり、互いに会う機会を中々持てなかった。そんな関係が変わったのは高校卒業後の春休み。大学入学を控えていた剛司の元に光から連絡が来た。この連絡をきっかけに剛司は光と朋、そしてもう一人のメンバーを含めた四人で遊びに行くようになった。年に四、五回。こうして大学二年生になった今でも、時間をつくっては計画を立て、一緒に遊びに行っている。

 中学生の頃からよく四人で一緒にいたこともあり、剛司は再び四人で集まるようになったことがとても嬉しかった。


「送信完了」


 家に帰った剛司は、もう一人のメンバーに今日の話し合いについてメッセージを送った。

 送信完了の画面を見た剛司は、スマホを手に自室のベッドに寝っ転がった。あおむけになり、白い天井を眺める。パラグライダーという未知の体験。想像してもどうなるかわからない体験に、剛司は身が竦む思いを抱いていた。

 そんな剛司の思いに重なるように、手に持っていたスマホが震えた。

 まさかと思いつつ、剛司はスマホを見ると先程メールを送った彼からの返信だった。いつもは返信が遅いのにと思いつつメッセージを開くと、合コンに行っていたとの文が一通。続けて可愛いのかブサイクなのかわからない猫が、ビール瓶を持って乾杯するスタンプが送られてきた。

 二〇歳になり、お酒が解禁されてからの彼は、チャラさに磨きがかかったかのように遊びほうけている。暇さえあればこうして合コンに行く毎日。本当に楽しそうに学生生活を送っているのが、剛司にも手に取るようにわかった。

 そもそも昔の彼は合コンに行くような男ではなかった。剛司にとって彼はチャラ男じゃなくてヒーロー。

 そう思わせるくらい強烈な出来事が中学生の頃にあったから。その変貌ぶりが今でも信じられない時がある。


 ベッドから起き上がった剛司は、机にたてかけてあるコルクボードを眺める。そこには今までの思い出の写真が数枚飾られている。その中の一枚を剛司は手に取った。その写真には四人の男性が写っていた。皆笑顔でカメラに向かってピースサインをしている。

 今も変わることがない友情が目の前にある。そしてその友情が始まったと言っても過言ではないこの写真は、今でも剛司の宝物だった。光、朋、剛司、そしてもう一人。剛司にとって、皆にとって欠かせないメンバーである彼。

 一ノ瀬亮いちのせりょうの姿もそこに写っていた。


 大学生の日常はあっという間に過ぎていく。それは剛司も例外ではない。普通に出るべき講義に出席して、空いた時間に大学の仲間と世間話に花を咲かせる。どの大学生も経験しているだろうありふれたキャンパスライフを送っているだけで、時間なんて瞬時に過ぎ去ってしまう。

 大人になると時間の経過が早いと思うようになる。両親や学校の先生等、人生の先輩が言っていたことが本当なのだと、剛司は日々実感していた。


 ファミレスに集まってから一週間後の土曜日は直ぐにやってきた。

 集合場所である駅に向かう途中、剛司はスマホを手に取ると、光から送られたメッセージを確認する。


 ・集合時間は午前七時。場所は花加はなか駅東口ロータリー。

 ・各自登山に適した服装で来ること。(長袖、長ズボン推奨)

 ・金額は二~三万円くらい。

 ・景色が良いのでカメラ必須。

 ・移動中の音楽。(これは任意で)

 登山の後に温泉に行きましょう。なのでタオルや着替えを持ってきてください。


 一通りメッセージに目を通した剛司は、自分の服装を見る。速乾性のあるアンダーウェアに中間着には茶色のフリースを着こなす恰好。山の上は寒いとのことだったので、リュックサックにはアウターとして黄緑のウィンドブレーカーを持参してある。下は長ズボンなら何でもいいだろうと判断して紺色のジーンズをはいていた。

 特に問題ない服装だと剛司は自負しつつ、スマホをジーンズのポケットにしまい、駅まで続く一本道を歩いて行く。普段なら会社に向かうサラリーマンや学生を見かけるこの通りも、休日ということで普段のような喧騒に包まれていなかった。休日にしか味わえない朝の静けさに気持ちが楽になりつつも、これからするパラグライダーのことを思う剛司は、期待と不安がないまぜになっていた。


「おせーぞ。剛司」

 花加駅東口に着いた剛司は聞き覚えのある声に気づき、声のする方に視線を向けた。

「あ、一ノ瀬君」

 剛司に向かって大きく手を振っているのは亮だった。休日の朝にも関わらず剛司に向かって手を振り、何度も飛び跳ねる姿は、どうみてもチャラ男の印象しか受けない。

「久しぶりだな」

「うん。でも、先月も遊んだよね?」

「えっ……ああ、秩父にラフティングしに行ったな」

「そうそう……って、その服装どうしたの?」

 亮の服装が剛司にとってはありえなかった。光が昨日のメッセージで伝えたのは、山に登る服装だったはず。それなのに……。

「今日、午後から結構暑くなるって言うからよ。白のインナーにアロハシャツで決めてきたぜ。下は七分丈のパンツ。それに夏を先取る意味も込めて、サンダル履いてきたぜ」

 イェーイとピースサインを掲げる亮を横目に、剛司は額に手をあてるしかなかった。

「チャラ男だよな、本当に」

 横から現れた朋が剛司の肩をポンッと叩いた。

「あ、朋。おはよう」

「おはよう。剛司。今日は様になってるじゃん」

「天堂君が山の服装って言ってたから」

 朋の服装も剛司と似たような恰好だった。唯一違うのはズボンがソフトシェルという点。

「でも、ジーンズはないよ。剛司」

「えっ……どうして?」

「動きにくいし、山登ると汗かくんだからさ。蒸れると思う」

 的確な朋の発言に、適当にズボンを選んだことに剛司は少し後悔を覚えた。

「まあ、でも隣のチャラ男よりはましだよ」

「そ、そうだよね」

 朋の発言に剛司は前を向く。そこには相変わらずへらへらしている亮がいた。

「一ノ瀬君は本当にその服装で大丈夫なの?」

 念のため、剛司は亮に聞いてみた。

「大丈夫、大丈夫。流石にサンダルで山登る真似はしないって。別でトレッキングシューズ持ってきたし、アウターも持参してあるからよ」

 それにこのアロハ、もともと長袖だし。と亮は意気揚々と腕まくりを戻し、準備の良さをアピールする。

「そういう剛司はスニーカーで大丈夫なのか? 山登るんだろ?」

「「お前に言われたくないわ」」

 剛司と朋の声が重なる。一ノ瀬亮ことチャラ男は、どこまでも自由な奴だった。

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