魔術師と7つの大罪

志乃 夜華

憤怒の魔術師

プロローグ

プロローグ


人類の先祖、古代人達は魔術と言う、魔法を作り上げた。

魔法の発展と、進化により、人類は急速に繁栄した。


反映した中で、魔法を攻撃の為に使う物が現れた。

急速に発展と進化をしていた魔術は、争う為だけに作られた魔法を魔導と呼んだ。

人類の繁栄を促す、魔法。


人類の争いを促す、魔導。

この2つが衝突するのに時間はかからなかった。



魔法を使う、魔法師。

魔導を使う、魔導師。

長年に渡り、血を流し、お互いに大切な物を奪い合った。


その中で、魔法と魔導の2つを使う、魔術師が現れた。

守りに特化した魔法、攻撃に特化した魔導、この2つを扱う魔術師達により、争いは大きく変わった。


しかし、長年に渡り血を流して来た争いを止めるには、魔法師、魔導師のどちらかを殲滅するしか方法がなかった。


魔術歴328年、1人の魔術師が己の全てをかけて、7つの悪魔と契約をした。

7つの悪魔により、全ての魔導師、魔法師は魔法世界からいなくなった。


人類はこの事を、7つの大罪と呼び、恐れ蔑んでいた。

7つの大罪から、もう二度と悪魔との契約をしないように、魔術師達はこの事を内密に処理をして、誰もがこの事を忘れてしまった。



悪魔との契約をした魔術師は、1つの石碑を残した。

傲慢になるな、憤怒になるな、嫉妬になるな、怠惰になるな、強欲になるな、暴食になるな、色欲になるな、

悪魔との契約を結ぶ事をするな。

契約をした物がいたならば、この世界は再び闇に包まれるだろう。


その石碑には深く刻み込まれていた。



魔術歴628年、7つの大罪から、300年ぐらいが経過した。

この世界に魔導師、魔法師は存在せず魔術師だけが存在していた。



7つの大罪後に、7人の魔術師により、2つに別れていた大陸が7つに分けられた。

7つに分けられた大陸は、国を作った。

国を作るとき、争いをしないように、全知全能の神々に誓いを立てた。

もし、誓いを破ったものがいたならば、その国民を全て抹消すると。

誰も誓いを破らないまま、300年が経過して、平和のまま今に至る。



静かな森にポツリと家が建っていた。

辺りには、地面を這い回る蛇の姿や、仲睦まじく鳴き合っている鳥の姿がある。



コンコン

静かな森に、気を叩く音がこだましていた。

「すいません! アルスさん! 」


若い青年の声が、響き渡りながら、家のドアを叩いていた。


「アレおかしいな? アルスさん! アルス レイブンさん!」


「レイブンと呼ぶな!」

20代前半で、黒髪を良い具合に短くもなく、長くもなく切っている男性が、ドアを思いっきり開けながら、青年に叫んでいた。


「俺はアルス・レイストフィールって何回も言ってるだろ?」


「いや、レイブンの称号を持っているアルスさんに失礼じゃありませんか!」


青年は、アルスの服についている金色のバッチを指差していた。


「失礼でもなんでもない! むしろ、アルスだけにしてくれ」


「えぇ!? 最速で魔術が使える、レイブンの称号を持つ人にそんな呼び方したら、殺されますよ!」


「こんな事なら、レイブン何て取るんじゃなかった」

アルスは大きくため息をつきながら、青年を家の中に招き入れた。


アルスの家には、無数に落ちている酒瓶とタバコの吸殻、棚には高級そうな酒がいっぱい並べてあり、落ちているのを除いては、さながら高級な宿のようだ。


「うぇぇ!」

青年は口を押さえて、嫌そうな表情を見せていた。


「うぇぇは無いだろう! そんなに汚い?」


「汚いです! ものすごく汚いです! 」

青年は直ぐに断言していた。


アルスは相当ショックを受けたのか、肩を下ろしていた。

「それで、何しに来たの? 俺をいじめに来たの?」


「あぁ! それが………」

そう言いながら、青年は肩から掛けていた鞄から、何やら一通の手紙を取り出していた。


「コレですよ、コレ」

鞄から取り出した、手紙をアルスに渡すと、アルスは送り主の名前を見るなり、酷い顔になっていた。


「どうしたんですか?」


「イディ=エピストゥラ=イグニース」

アルスはそれを口ずさみと、手に持っている手紙から物凄い炎が立ち上がった。


「ちょ、ちょとアルスさん!?」

青年は焦りながら、アルスの腕を掴んでいた。


「や、やめろ! この手紙があると俺は死んでしまう!」


「僕が死んでしまいますよ!」

青年は物凄く焦りながら、アルスの腕を左右に揺らしていた。


「ちょ、詠唱した後だから揺らすなって!」


「ダメです! 消してください早く!」

青年はさらに力を増して、アルスを揺らしていた。


誰もが思っている事が起きた。

青年がアルスの腕を揺らすもんだから、アルスの持っている手紙が、炎を纏いながら地面に落ちようとしていた。

「「あーー!!」」


「ゲイル!」

ドアの方から声が聞こえると思った瞬間に突風がアルスと手紙だけを襲った。


「いてぇぇ!」

突風により、アルスは棚に思いっきり頭をぶつけていた。


「何しやがるんだよ!」

突風が吹いて来た方を見ると、そこには金色の髪に身を包んだ少女が立ってた。


「何しやがるじゃ無い! やっぱり手紙を燃やしていたな!」


「る、ルイス・サードルス!」


「ルイスさんだろ!」

少女はアルスの髪を引っ張りながら、頬を叩いていた。


それを凄い形相で見ていた青年が、興奮気味にルイスに言い寄っていた。

「る、ルルスルイス様ですか!?」


「誰だよ、ルルスルイスって」

ルイスは苦笑した後に、青年に眩しすぎる笑顔で微笑み掛けていた。


「いえ、失礼しました! ルイス様ですか?」

青年は間違いを正して、ルイスにお辞儀をしながら話しかけた。


「あぁ、ルイス・サードルスだ!」


君は? とルイスが尋ねるので、又しても青年は興奮気味に自分の名前を叫んでいた。

「ぼ、僕はアルフェンス・ハーバートです!」


「アルフェンス君か、アルって呼んでもいいかな?」

その時に、アルスは何故か嫌な感覚がしたが、気のせいだと思い、ルイスに迫っていた。


「おい! アルフェンスはただ手紙を運びに来ただけだぞ?」


「なんだ? 嫉妬かアルス?」


「違う! アルフェンスを巻き込むかもしれないだろ?」

青年のアルフェンスは何もわからず、ぽかんとしていた。


「大丈夫だって! 何かあれば、この私がどうにかするからね!」

そう言いながら、服についている、プラチナのバッチを指差していた。


それを見たアルフェンスが、興奮してルイスに話しかけていた。

「やっぱり! あのレクスの称号を受けている、この国で最強の魔術師ですよね!?」


「おお!」

ルイスが着ていたコートを、ガバッと脱ぎ捨てカッコつけていた。


「でも、こんな小さい子だとは思いませんでした!」

アルフェンスは悪意は一切なく、笑顔でルイスに微笑んでいた。


「おい! バカ!」

黙っていたアルスがアルフェンスの耳元で叫んでいた。


「あぁ見えても、結構な歳なんだぞ!」


「えぇ!?」

アルスからそう聞かされて、アルフェンスはルイスをまじまじと見つめていた。


アルスの耳元で、驚いた表情をしながら、

「本当に結構な歳なんですか?」


「あぁ! 俺よりも歳をとっているはず………」

アルスに聞こえないように、背を向けてアルフェンスと密かに話していた。


「詐欺ってますよね?」


「詐欺ってるな!」


「聞こえてるぞ? ………2人とも?」

先程まで立っていた、位置にルイスはいなく、俺たちの前に立っていた。


「「うわっー!?」」

アルフェンスと同じ事を叫びながら、後ろに倒れ込んでいた。


ルイスは顔を真っ赤にして、

「歳がとっているだの、小さいだの、詐欺だの好きに言いやがって!」


ルイスは指を天井に向けて、一言叫んでだ。

「バースト!」


「シィ=テゴー=ベエントゥス」

即時にアルスが何かを口ずさみと、アルスを中心に、アルフェンスも覆う風が出ていた。


アルス達を覆っている風が、何度も爆発したが、破れることは無く、そのまま爆発が収まった。


「死んだかな〜」

ルイスが目をキラキラさせながら、砂煙の中からスキップで出て来た。


「あぶねぇだろ!?」

埃まみれになったアルスとアルフェンスがいた。


「ゴメンね! ついやっちゃたんだ!」

てヘェ と舌を出しながら、不気味な笑みを浮かべながら言ってきた。


「ついじゃねぇよ! バーストって言ってたよなお前! 完璧に殺す気満々だっただろ!」


「そんなアル君がいる中で殺すなんてしないよ!…………アニマ!」

ルイスがアルフェンスに向かって叫ぶと、アルフェンスの身体が綺麗さっぱり元に戻ってた。


「時間は大丈夫なのかアルフェンス?」

ポカンとしている、アルフェンスに言うと、驚いた表情をして、部屋に飾ってある時計を見て、焦っていた。


「や、やばいです! では」

そう言い残し、アルフェンスはドアから思いっきり駆け出していった。


「行ったな」


「行って行ったな」

俺とルイスは静かに見つめ合った後に、部屋を綺麗にした。


「それで、話があったんだよな?」

先程まで座っていた椅子に、座り込んでルイスを見ていた。


「錬成! 」

ルイスは床ににそう叫ぶと、床から椅子がゆっくりと生えてきた。


「おい、錬金術を使うなよ」


「魔術たがら別にいいだろ?」

錬成した椅子に、ルイスは乱暴に座り込んでいた。


「まぁ、それより話は何だよ?」


「えっとな、お前に教師をしてもらう」


「………………?」


俺が訳もわからず戸惑っていると、ルイスは丁寧に説明してきた。

「教師! 学校の先生って意味だ」


「それぐらいわかるわ!」


「なら、教師になってくれよ」


「いや、さっぱりわからん!」

何で俺が教師なんだよ!

金ならあるのに、働くなんてめんどくさい。

それに魔術の事だったら尚更無理だ。


「何でだよ!」


「はぁ、エリシアと言ったらわかるな?」

それを聞いたアルスは、驚いた表情をした後に、苦い物を口にした時の顔になっていた。


「何で今更エリシアの事なんか………」


「3年前みたいに、今度はエリシアの子供が狙われているんだ」


「えっ!?」


驚きながら、椅子を蹴り飛ばしてルイスに駆け寄っていた。

「エリシアは3年前に殺された。その犯人も死んでいるのに何でだ!?」


「私も詳しくは知らない。ただ、あの時と同じ様な事が起きるかもしれない」


ルイスの前で、無様に倒れこみながら。

「無理だ。俺には到底無理だ。エリシアすら、守れなかった俺に………」


「まだ言っているのか! アレは貴方だけの問題じゃ無い!」


「俺の責任だ! あの時、俺を庇おうとしてエリシアは死んだ! 俺が不注意だったせいで」


「それは………私の責任でもある」

ルイスははどこか、責任感を背負っている表情を見せていた。



アレは10年前のこと………

俺はまだ、駆け出しの魔術師だった。

自分の力を信じて、何でもこなして来た。

反逆者の殺害。密売組織の壊滅。大臣の警護。

色々の仕事をこなして来た。


そんなある日、俺に1つの依頼が来た。

その時の俺はどんな依頼でもこなすしか、役目が見つからず遠方くれていた。


その1つの依頼は魔物の討伐だった。

この世界でも、魔物はいるが、圧倒的の差があり、魔術で倒されているが、偶に出現する。


いつも通りに俺はその依頼を遂行中だった。

何でもできると思っていた俺は、1人でどんな依頼もこなしていたから、この依頼も、もちろん1人だった。


魔術を詠唱して魔物を殺す。

その簡単の作業中、俺は不覚にも辺りを見ていなく、森林に追い込まれていた。


「クソ! 何でこうなった!」

身体からは魔物に切られた跡があり、大量に血が流れていた。


バキバキと木を無理に折り曲げる音がだんだん近くなっていた。

俺は身体から出ている血を止めながら、その音から遠ざかっていたが、急に音がなくなり、安心したのもつかの間、目の前には魔物の目が俺を睨んでいた。


「イディ=イグニース=バースト」

魔術を構成するが、身体にはもう魔力が残っておらず、魔術が放たれることはなかった。


「ははは! ここで死ぬのか」

もう諦めて俺は、静かに目を閉じた。

案外早い人生だったな。

生まれて来て20年も生きられないなんてな。


「目を開けて!」

全てを諦めていた俺に、優しくもどこか強い声が耳を通った。


「イディ=エクレール=バースト!」

その声が聞こえて来た所から、魔術詠唱らしき物が聞こえて来た。


目を開けると、目の前にいた魔物は体中から煙を出し、ビリビリっと音を立てながら倒れていた。


「何が起きたんだ?」


驚いている俺に向かって、優しい声が届いて来た。

「大丈夫だった?」

森の中から1人の少女が出て来た。

その少女は、銀色の髪をして、目は何もかもを見通す様な青く輝いていた。


「あぁ。大丈夫だ」

木を掴んで立とうとするが、足に上手く力が入らず倒れ込んでしまった。


「大丈夫じゃ無いでしょ!?」

すぐさま、その少女は俺に手を貸して、支えとなってくれながら森を出た。


森から出た直ぐ近くに、座れるくらいの切り株があったので、少女はそこに俺を座らせた。


「で、何があったの?」

その少女は少し、頬を膨らませ俺を睨んでいた。


「魔物退治中にちょとな」


「魔物退治なら他に仲間は? まさか死んでしまったとか!?」


「いや、俺1人で依頼を受けた」


「1人!? バカなの貴方!」


「1人の方がやりやすい」


「そのせいでこうなってるじゃ無い!」

何も言えずに少女を見つめていた。


「エリシアお嬢様!」

俺の後ろから、ものすごい形相の男がやって来た。


「先程、バーストの跡がありまして、急いで来てみると!」


来た男は俺を見るなり、睨みながら指を指していた。

「何ですかこと男は!?」


「彼は私が助けたんですよ」


「俺は助けられては………」

そう言おうとすると、少女は俺の脇に肘を入れて来た。

少女は先程来た男にイライラしながら、叫んでいた。

「マグノリア! 彼を城に連れて行くから手伝いなさい!」


「お嬢様! それは!?」


「いいから早く!」


「チッ、このガキが」

男はそう言って、馬車を引きながら戻って来た。


「さぁ! 早く行くよ!」

少女に手を差し出されたが、手を取らなかったから、俺の手を思いっきり握りしめて馬車に乗らせて来た。


馬車に揺られていると、少女は眠そうに俺の方を見つめていた。

「君の名前は?」


「私の名前? 私の名前はエリシア・フォーランス」


「フォーランス!?」

驚きのあまり、俺はついつい声が大きくなってしまった。


フォーランス家はこの国の一番の権力者、魔術師の誰もが知っていることだ。

「王家の血族………」


「別に堅くならなくていいからね?」

俺はそんな少女の言うことを無視して、胸に手を当てて、頭を下げて膝まずいた。


「ちょ、ちょと! 堅くならなくていいって言ったのに!」

手をブンブンしながら頬を赤くして膨らませていた。


「お嬢様! 先程は無礼を!」


「もう! 辞めてよ!」


「助けてもらえた恩を一生、忘れません」


「……………っぅ!」

俺は忠誠を誓うかっこをしていた。


「そう言うのは無し! 私の事はエリシアと言いなさい! これは命令ね」


「エリシア様」


「様もなし!」


「え、………エリシア」

エリシアは大きく頷いて、膨らませていた頬を緩めていたが、余計に真っ赤になっていた。


それから、エリシアと話していると俺の意識がだんだん遠のいていた。

「……エリシア………」


「ふふ、寝ていいんだよ。あんな事あっからね」

ゆっくりと意識が消えて行く中で、エリシアが俺の頭を撫でていた感じがしたが気のせいだろう。



俺が目を開けると、知らない場所に寝ていた。

辺りを見渡すと、綺麗に並べられた本棚や食器棚が並んでいた。

「寝てしまったのか?」


ドンドン

俺のいる部屋にノックの音が2回ほどした後、優しいエリシアの声が聞こえて来た。

「起きてますか?」


「起きているよ」

そう言うと、すごい速さで扉が開いた。


扉が開くと、エリシアが可愛らしい服装で俺の部屋に飛び込んで来た。

「エリシア! 危ないだろ?」


「そんなに心配しなくても」


「いや、心配はするだろう?」


「ふふふ。貴方、急に変わりましたね」

エリシアは口に手を当てて、微笑んでいた。


変わったのか俺は?

いつも通りだと思うが。

悩んでいると、エリシアが俺の座っているベッドに隣に座り込んで来た。

「貴方って面白いですね」


「そうか?」


「そう思ったら貴方の名前を聞いてなかったですね!」

エリシアはそう言って、ベッドから立ち上がり、腕を後ろに組んで俺の目を見つめて来た。


「俺の名前はアルス・レイストフィール」


「アルス、いい名前ね!」

エリシアはそう言って俺の前で、可愛らしい笑顔を見せていた。

夜の月光が差し込み、エリシアの笑顔が眩しいくらいに輝いていた。


今まで何も考えず、夢も無く生きて来た俺が、その笑顔を見た瞬間に1つの望みが出来た。

俺はこの笑顔を守る為に人生を使おうと。


それから7年が経ち、俺はエリシアを守る為に作られた秘密の組織、7つの大罪に入った。

組織内で俺はコードネームをイラと名乗っていた。

その組織内でルイスに出会った。

ルイスはその時はスペルビアと名乗っていた。


「おい! イラ」


「どうしたんだよアケディア?」

息を切らしながら、アケディアが走って来た。


「エリシア様の子供が魔術師としての才能を見せたらしいぞ!」


「それはそうだ、あのエリシアの子供なんだから」


「それならお前もエリシアに会ってこいよ! 待ってると思うぞ?」

アケディアは嫌味を言うように、不気味に微笑んでいた。


「わかったよ」

俺は扉を開けて、エリシアのいる、王室まで歩いて行った。

何回も螺旋状の床を歩き、10分ぐらいでついた。


コンコン

俺は静かに王室のドアをノックした。

少しした後に、懐かしいエリシアの声が聞こえて来た。

「どうぞ〜」


「久しぶりだな、エリシア」


「あぁ! アルス! やっと来てくれた」

座って何か書類を書いていたエリシアは俺を見るなり、子供の頃の様に喜んで何度も跳んでいた。


「お母様!」

隣の部屋から、魔術師のローブに身を包んだ少女がエリシアに抱きついていた。


「まるで小さい頃のエリシアみたいだな」


「もう! そんな事言って!」

その少女はエリシアにそっくりで、髪は銀髪で、目も青かった。


「誰なの?」

エリシアに抱きついたまま、少女は俺を指差していた。


「お嬢様! 私はアルス・レイストフィールと申します」

エリシアと出会った時の様に膝まずいた。


「アルス?」


「そう、アルスよ。エミリアも彼みたいな人に出会いなさいよ」

そう言ってエリシアは俺を、少女に近づけていた。


何度かエミリアは俺を見つめて、大きく頷いた後に、俺に抱きついて来た。

「アルス!」


「ちょ、エミリア様!?」


「ふふふ、大変ねアルス」


「いや、笑てないで助けてくれよ、エリシア!」

エリシアは大きく笑い、エミリアはそれを無視して俺に抱きついていた。


「何歳になったんですか?」


「12歳になったのよ、アルス」


「あの人が死んでからそんなに立つのか………」


「そうね。彼を無くしてから1人で育てて来たけど、もう12年も経ってるのね」


エリシアは12年も前に、1人の男の人と結婚し子供を授かっていた。

それがちょうど俺が来た時あたりのことだ。

俺が来る時には既に男の人は治らない死の病にかかっていた。

彼は俺を見ると、何故か安心した様に俺に伝え来た。


「エリシアと子供のエミリアを守ってくれ」

男の人にそう言われたが、俺は即座にもう決めていると答えると、安心して息を閉じた。



「それはそうと、何で来たのアルス?」


「えっと、おめでとうを言いに………」


「また、アルスぽくない事をして! 誰かに言われたんでしょ?」

エリシアは俺に指を向けながら、言い寄って来た。

流石にエリシアは気づくらしい。

エリシアに秘密がバレなかったことは無いからな。


その後は久しぶりにエリシアと話し込んだ。

7年もまともに喋ってはいなかったから。

俺もアレから身長はすごい伸びていた。

エリシアは少し子供っぽいとこもあるが、大人らしい雰囲気を醸し出していた。



着々と時間は進み、その時は来てしまった。


「イラ!」

休んでいた、俺の所にアケディアが叫んでやって来た。


「どうしたんだよアケディア? 今日は俺に対するいじめか?」


「そんな事言ってる場合じゃ無い! 城の周りに魔物が大量に現れたんだ!」


「魔物が!?」

俺は立ち上がり、魔術師のローブを身に纏った。


俺たちは城を駆け下りながら、

「それで、他の奴らは?」


「他の皆んなは、直ぐに魔物を狩りに行った」


「なら、俺たちだけか………」

クソ、休んでいなかったら、今直ぐに魔物を葬れたのに。


城の前門から出ようとした時、城の王室あたりから爆発音がした後に壁が粉々になっているのが見えた。

「シィ=ゲイル=グラビタシオン」


「イラ!?」

そう叫ぶと、俺は空中を浮かび、高速で王室に向かって行った。

何が起きてるんだ!?

……………エリシア、無事でいてくれ。



王室に着くと、そこは先程までとは何もかもが変わっていた。

綺麗に並べて当たった、本棚は倒れて、食器が地面にバラバラに散らかっていた。


誰がこんな事を…………

それよりエリシアは無事なのか!?

俺は冷や汗をかきながら、叫んでいた。

「エリシア! どこにいる!」


「ここですよ?」

エリシアとは場違いに低い声が俺の後ろから聞こえて来た。


後ろを向くと、そこには魔術師のローブを深く被っている、謎の男が立っていた。

「誰だお前は!」


「私はイラと申します」

謎の男はそう言って、俺にお辞儀をして来た。


「イラだと?」


「おお! 貴方もご存知ですか? イラの事を!」

イラと名乗る男は、両手を真上に上げて気味が悪いぐらい笑っていた。


「それよりエリシアはどこだ!」


「はて? エリシアと言う人は知りませんが〜」


馬鹿みたいな感じをしたので、俺は怒りを露わにして叫んだ。

「どこだと言っている!」


「憤怒ですね! 怒りました。怒りましたね! 貴方は猛烈に憤怒している!」


「憤怒だと?」


「はい! 怒りは全てを支えます。泣くときや、笑うとき、喜び合うとき、全てに怒りはある!」

興奮しながら、男は狂気的に叫んでいた。


男は空中に手を掲げると、そこにはエリシアの姿があった。

「エリシア!?」


「ほう、この方がエリシアと言うのですね〜」


「この方にはこうですよ〜」

男は右手を掲げながら、左でて側にあったガラスをエリシア向けて、投げ込んでいた。


「貴様! イディ=ゲイル=バースト」

そう叫ぶと、エリシアに向かっていたガラスは粉々になっていた。


瞬時に俺は飛び上がり、エリシアを抱き抱えて後ろに下がった。

「おっと、取られてしまいましたね〜」


「貴様は何が目的だ!」


「憤怒、憤怒。 いい怒りですね! 私は悪魔を契約させたいのですよ! 憤怒の悪魔を!」


「憤怒の悪魔だと!? それは7つの大罪の!?」


男は不気味に微笑んで

「そうです! 憤怒の悪魔に契約をして、この世界に怒りを! 誰かを失う怒り、殺したいと願う怒り、魔術に対する怒り、全ての怒りを感じたい!」


「貴様は生かしてはいけないな!」

俺が魔術を詠唱しょうとした時に、男は高速で移動してた。


「クソ! ちまちまうざいな!」

男はさらに早くなり、魔術がターゲッティングできず、撃てなかった。


「憤怒を! 憤怒を! 憤怒を! 我に憤怒を!」

男はそう叫ぶと、俺の周りから紅い結晶が出て来て、俺目掛けて飛んで来た。


「シィ=テゴー=ベエントゥス」

結晶よりも近くに風の壁が出て来て、俺を守った。


「これはどうかな? 憤怒よ! 憤怒! 我に誓い、憤怒の悪魔に誓い、この怒りを網羅せよ!」


男の手元から、俺に向かって紅く輝く十字の槍が飛んで来た。

空中に思いっきり飛び上がり、身体を回転させて槍を避けた。


すかさず、詠唱をしょうとすると、倒れていたはずのエリシアが叫んでいた。

「ダメ! アルス!」


「えっ?」

俺は後ろを見た瞬間に、俺の目の前には大量に血が飛んで来た。

顔についている、血を見て前を見ると、そこにはエリシアの姿があった。


「エリシア?」


「ご、ゴホッ! ………あ…るす」

エリシアは大きく血を吐き出した。


俺は急いでエリシアを見ると、背中に先ほど奴が撃った槍が刺さっていた。

俺が避けた後に、槍が後ろで急転回して、俺の方目掛けて飛んで来たのをエリシアが背中で受けて、俺を庇った。


抱き抱えているエリシアに向かって。

「何でだエリシア……」


「ふふ、アルスを守るって誓ってたもの」


「それは俺だってエリシアを………」

エリシアの髪を横に流しながら、エリシアを抱き抱えていた。


「そんな顔しないでアルス、私はもうダメみたい」


「何言ってるんだよ!」

俺の頬から、涙が流れ落ちていた。


「エミリアを頼むね………」

そう言い残し、エリシアは俺の頬に付けていた手を地面に落とし、静かに目を閉じた。


「エリシア? おい! エリシア!」

何度もエリシアを揺らすが、エリシアは反応をしない。


「憤怒ですね〜 憤怒です! 怒りましたか?」


「ごめんエリシア、少し待っててね」

静かにエリシアをその場に起き、俺は拳を握り締めながら立ち上がった。


「イディ=イグニース=コンゲラート=アクア=エクレール=ベエントゥス=テラ=バースト」

そう唱え終えると、男の周りから、炎、雪、水、雷、風、地、全ての属性の爆発が襲い、耳をつんざくような爆裂音が響き合っていた。


爆発が終わると、男の姿はなくローブだけがそこには落ちていた。


俺は直ぐにエリシアに駆け寄り、いつまでも抱きしめていた。



俺は伏せたまま、ルイスに話しかけた。

「それで、俺にエミリアを守れと?」


「そう、エミリアを守るの」

ルイスははっきりと断言した。


「無理だよ、俺にはエリシアも守れないのに………」


ルイスはいきなり立ち上がり、俺の首を掴んで来た。

「お前はエリシアの前でそう言う気か!?」


「無理なんだ! こんな俺に……」


バシィ

ルイスは俺の頬を思いっきり、殴りかけて来た。

「誓ったんだろ! エリシアに! エミリアを守るって」


「あぁ! 俺だって守りたいよ! だけどそんな事をする資格が俺にあると思うか?」


「守るなら守れ! エリシアなら、そう言ってくるぞ?」


俺は膝まずき、涙を流しながら。

「そんな事を俺にできるのか?」


「あぁ! 今度は私も手伝う!」

ルイスは俺をゆっくりと抱きしめていた。


エリシア、俺にはそんな資格があるか?

俺にエミリアを守って欲しいのか?

そう考えていると、エリシアとエリシアの旦那だった人の言葉を思い出した。


「エミリアを守ってくれ」

2人は俺に真っ直ぐにそう言っていた。


…………ははは、俺は何を考えている!

エリシアと彼からの誓いを守れなかったら、今度こそ俺は裏切り者になるな。


俺はまっすぐとルイスを見つめて、

「エミリアを守る。教師になってやるよ!」


「そうじゃなくちゃ!」

ルイスは俺の腕を握りながら、一つの紙を渡して来た。


そこには教師の氏名と、歳、全てを書く場所があった。

俺は着実に全部を書いた。


「これで明日から貴方は教師ね!」

ルイスは俺に微笑んで来た。



『アルス・レイストフィール』

職業 教師 歳23

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