第3話 ログインした子供たち

 行動履歴をトレースした荒井さんが、かばんちゃんとサーバルの元へと辿り着く。

「どうも初めまして、ケースワーカーの荒井です」

 荒井さんはことの次第を説明し、逆にかばんちゃんからこれまでの経緯を聞いた。

「なるほど、セルリアンを異常終了させていたのはフレンズのせいだったのですね。

 ユーザとフレンズがここまで絆を深めるとは……。

 つまり、ログアウトできなくなったのではなく、ログアウトしたくなくなったというのが正解のようですね。

 そういうケースならば対策は簡単です」

 荒井さんはどこにしまっていたのか分からないライフルをいつの間にか持っていた。それをかばんちゃんに手渡す。

「これでサーバルを撃ってください。自分の手で関係を断ち切ることで、ログアウトできるようになりますよ」

「えー、そんなことできないですよー」

「大丈夫ですよ。午前0時にはリセットされて生き返りますから。もっとも、そのときは前の記憶もリセットされて残っていないわけですが」

「なおさらできないですよー」

「ねー、そんなことり楽しいことして遊ばない?」

 サーバルが二人の会話を遮った。

「じゃあさぁ、〝狩り〟をやろうよ!」

「〝狩り〟? 〝狩りゴッコ〟じゃなく? ま、まさかボクを食べるんじゃ……」

「食べないよー」

「猫科ノ動物ハ、食ベル目的以外ニモ、他ノ動物ヲモテアソンデ、殺スコトモ、アルンダヨ」

 低く身をかがめたサーバルの瞳孔が肉食獣のそれのように縦に細くなる。

「うにゃにゃにゃにゃー」

 飛び掛かるサーバルに思わず銃口を向け引き金を引くかばんちゃん。

 一発の銃声がじゃパリパークとの別れの始まりを告げる。

 かばんちゃんから鈍色の毒を受け取ったサーバルが横たわる。

「かばんちゃんは……道具の扱いが得意な……フレンズなんだね」

「こんなときになに言ってるんですかー」

「 ……これで、パパやママのところへ帰れるね」

 すべてを察したかばんちゃんだったが、赤い覆水は盆には返らない。

「あぁ……楽しかっ……た。

 また……遊ぼう……ね」

 セルリアンブルーの光に包まれ、かばんちゃんのジャパリパークの冒険はここで終了した。



 ジャパリパークでの出来事から30年が過ぎた。

 不具合が修正され、安全宣言がなされたジャパリパークはサービスを再開し、往年の人気を取り戻した。

 その後も拡張を続け、今でも人気の高い家族で楽しめるネットテーマパークとなった。

 ボクはあれ以来ジャパリパークへはログインしていない。

 しかし、息子がジャパリパークへ行ってみたいというので重い腰を上げ、再びジャパリパークへとログインをした。

 息子のアバターは入園証がわり青い鳥の羽飾りの付いた帽子と大きなカバンの女の子。昔のボクにソックリだ。

 しばらく歩いていると、後ろからフレンズが近づく気配がする。

 振り返ると、あの頃のままの姿のサーバルちゃんがいた。

「ねぇ、きみ名前は? 名前がないなら私が付けてあげよっか?」

 サーバルちゃんは息子のアバターに話しかける。

「付けてもらいなさい」

 息子はコクンとうなづいた。

「じゃあ、君は帽子が似合うから、ぼうしちゃん」

 息子のアバターの名前が登録された。

 今度はボクのアバターだ。

「ボクにも名前を付けてくれるかな?」

「えー、かばんちゃんはかばんちゃんだよ」

 30年ぶりのジャパリパークの青空は、なんだか滲んで見えていた。


(了)

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けものフレンズ被害者に救済を! 楠樹 暖 @kusunokidan

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