第11話 符合。
「へ? あの、どういう事?」今度目を丸くしたのは優の方であった。意味が分からず香に聞き返した。
「だ、だから、わ、私の本当に付き合いたい人は、下平さんなんです~。」そう、もう一度言うと香は、今度は目を潤ませ泣き出してしまった。
それから暫く香は涙で言葉が言葉にならなかった。嗚咽で何を話したいのか、全く分からなかった。マスターも近づいてきて、大丈夫かい?と心配そうに背中を擦ってあげていた。
30分程した位だろうか、やっと少し落ち着きを取り戻した香が少しずつ話出した。
「私、ずっと、下平さんのファンだったんです。入学した時から…。見てるだけで、幸せだった。でも私、再来月、県外に引っ越す事になって…。それで勇気を出して、私、自分の気持ちだけでも伝えたくなって。…友達の友達の先輩の仁藤さんに、下平さんの事、相談したんです。…」
そこ迄話した所で香は一息付いた。先程マスターが出してくれた2杯目の珈琲に口をつけた。そのタイミングで、マスターと目があった。優しい目で続きを聞いてあげようと言っている様な気がした。僕も香の言っている事が嘘とは思えなかった。
「それで?どうなったの?」僕が続きを促した。
「そしたら、そしたら、仁藤さんが、下平さんはずっと好きな人が居るから駄目だって。俺と付き合おうって…。わ、わたし、OKしたのは結果的に私だけど、やっぱりイメージと違ったっていうか、付き合うってもっと大切にしてくれる事だと思っていたのに…私、馬鹿だった、付き合うの初めてだったから。仁藤さん、全然優しくなくて…仁藤さん、きっと私の事、全然すきじゃない。私、付き合うの、やっぱり辞めたいんです。」
香が全部話終わって、僕は頭の中が混乱していた。香の言っている事が本当なら、バイト先迄来て彼女のが出来たって自慢話していった要は一体なんだったのだろう。あんなに傷ついた僕は。二人の話が符合しない。僕が複雑な顔をしていると、マスターもそれを察したらしく、小声で「彼女もとても辛かったと思うよ」と優しく僕を嗜めた。マスターの言いたい事は何となくわかった気がしたので、僕は口を開いた。
「要がごめんね。きっと酷い事をしたんだね。僕が謝るのは筋違いかも知れないけど、アイツにもきつく言って必ず謝罪させるから。」
香は首を横に振って「もういいんです、私も悪かったから。人を介して何か言わないで、安直に付き合ったりしないで、ちゃんと最初から下平さんに話せば良かったから。」と静かな声で言った。
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