第31話:星が墜ちたからなんなのさ?
1
ある日、星が墜ちてきた。
大きなジャガイモみたいのが空で燃えていた。
僕らの住む星とぶつかった星は、僕らの住む国に大穴を開けた。大人たちはもちろん大騒ぎだ。
でも大騒ぎするほどなんだろうか。
星の衝突をだいぶ前から予知していた僕らは誰一人として死んでいなかったし、怪我を負った人も数人程度で、まぁたくさんの建物や家が吹き飛んだのは大きなことだろうけど、自分の周りにしか興味が無い僕にとってはそんなこと関係ない。
そのうち星から人の形をしたナニカが現れた。
その情報は電波に乗って世界中に知れ渡り、各国の研究者や、首脳たちが僕らの国を訪れた。
彼らは僕らに歩み寄ろうとしていたけど、勝手に星を荒らして今更仲良くしよう、そんな態度が気にくわなかったのか、大人達は彼らが従順であることをいいことに異星人を奴隷のように扱うようになった。それからまた時が過ぎた。
2
ある日僕は父さんと街へ出かけた。
晴天の日、露店が奥に向かって幾つも並んでいる。買い物をしていると、遠くで悲鳴が聞こえた。
声のもとに向かって走っていくと兵士が荒い息を漏らしながら女の子の腰を何度も突いていた。男に突かれる度に女の子はカエルのような声をあげている。
後ろから追ってきた父さんが僕の名前を呼ぶ。
立ち止まる僕に近づいて父さんは目の前で起きていることに気づいた。すると僕の手を強く引っ張った。
「目を合わせるな、トール。あれは可哀想だが仕方のないことなんだよ」
「仕方ないってなにが? 」
「それは……」
父さんは目の前の光景から目を逸らした。見過ごせと父さんは無言のまま僕に意思伝える。
「彼女だって形はどうあれ、役に立てていることに喜んでいるんじゃないか?」
僕には女の子が助けを求めているようにしか見えなかった。だから僕は当然彼女を救うことを選んだ。父さんの手を振り切って、兵士のかぼちゃみたいな頭にとびかかって、そして僕は彼女の手を取って通りを全速力で駆けた。
「だいじょうぶ? 」
「あのわたし……」
「ううん、気にしないで。そんな格好でも君は十分かわいいよ。
「じゃなくて、わたし」
「今そこらへんで服を買ってくるから待ってて」
唐突だがこの時既に僕は彼女に恋をしていた。
助けようと思ったのはもちろん、間違っているからだと思ったからだけど、今思えばそういう気持ちがあったからかもしれない。
首ったけだった。露店で服を買うときも彼女が嬉しがる姿を思い浮かべて思わず顔がにやけた。しかし、戻った時、彼女はいなかった。
僕は露店を駆け回り、暗い細道をしらみつぶしに回った。
すると腰を突かれて喘ぐ彼女がそこに居た。彼女に群がる男は二人。
「お父さん」
見慣れた背中が僕の目に映る。
「トール。彼女は異星人だ。侵略者かもしれないんだぞ。そんな脅威に人間の怖さを教えてやるんだ。だからこの子はこうやって私に折檻されても仕方ないのだよ」
そう言って僕の父さんはさっき見かけた兵士に彼女の股を無理やり広げさせ、自分のベルトを外してズボンを下した。
頭の中で怒りが沸き立ち、僕はその気持ちのまま駆け、兵士の腰元に下がった小口径銃を手にとってお父さんを撃ち殺した。ついでに兵士もそのまま撃ち殺してやった。
「ねぇ、こんな世界で生きてるのはつらい? 」
緑の羽を持つ彼女に問いかける。
彼女は小さく首を振っていたが、瞼からとめどなく流れる涙が彼女の本心を語っていた。
「仕方ないんだよ」
彼女もそういった。まただ。またその言葉。衣服を剥がれて、生まれたままの姿を晒されたのに? 母親でもない他人に何度も身体を汚されていたくせに? 問うとそれでも、と彼女は言った。
「わかった。じゃあ僕がこんな世界から救ってあげる」
「え、そんなこと出来るの? 」
彼女の瞳は淡い期待に縋った時わずかに輝いた。ほら、なんだかんだ言って彼女もこの世界から抜け出したがってる。
周りがそうだから。
みんながやってるから。
そんなことにまみれた世界に僕はうんざりしていた。仕方がないという言葉に縛り続けられるのはごめんだった。
―――だから僕は、彼女の命を解放した後、自分のこめかみに銃弾を撃ち込んだ。
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