餌 ~ちいさき花々

いすみ 静江

『餌』柚子

「いただきます」

 柚子ゆずは、一汁一菜の食卓に一人で唱えた。

 これは、『餌』。

 毎日の柚子の仕事への報酬であった。

 “おかかさま”を休む訳にはいかなかった。

 柚子が『餌』の時間だけ、神に許された、九分五十九秒。

 この間に“お抱え様”に戻らないと、地球が無くなってもおかしくない。

 柚子は、急がないが早く飲み込んだ。

 八分八秒。

 末広がりで神々に喜ばれた。

「ごちそうさまでした」

 何も無かったかの様な膳に手を合わせた。

 後ろの襖を引いて、畳に頭を擦り付けた。

「お待たせ致しまして、申し訳ございません」

 すっと立ち上がると、危うく組紐で支えていた“お抱え様”にゆるりとまとわりつき、しっかりと抱きしめた。

 柚子の身の丈程の“核”。

 なりわいが、“お抱え様”の巫女なのであった。

 次の『餌』は、二十三時間五十分後。

 それ迄、邪念なくお守り致さねばならない。



 ――終わりのない物語

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