やつあたり 1:ユーリリオン内乱

第1話 下山

 まぁいにち! まぁいにち! ぼくらは山奥でっ!


 鍛錬! 訓練! ヤになっちまうよ!!


 ある朝! ぼぉくは! 剣のお師匠さんとっ!


 喧嘩して!! ボコられて!! 逃げ出したのさ(涙。




 はっ、溜息しか出んわ。

 山ん中でひたすら同じことの繰り返し。

 だから童貞なんだよ、あのおっさんは。

 ・・・・・・それを言ったらマジギレされて、殺しにかかってきやがった。どんだけ大人気ないんだ、あの人は。

 もう戻らんぞ、俺は。

 好きに生きるんだ、遊んで暮らすんだ。



 というわけで、無一文の俺は金を稼ぐ必要があります。

 ちょうど、見た目が良い馬車が通りますので一稼ぎといきますか。

 労働、これ大事。働くって素晴らしいことです。


 むっ、なにやら揉めている様子。

 うん、関係ないね。貰うもの貰いましょうか。





(視点変更)


「お姉様の信任が厚いあなたが、どうして」

「あなたの姉君が女だからですよ。あの方は我々を導く器ではありません」


 1対15、ただし倒れているのが5。

 そして1の合図で周囲の木々に隠れていた30が姿をあらわす。


「あなたには利用価値があります。ともに来ていただきましょう」

「このような小娘に何の価値があると? それにお姉様の枷となるならこの場で、」

「すんませ〜ん。有り金全部下さい」


 いきなり人の輪の中に出現した黒い男。

 そう、見たことがない漆黒の髪と眼。

 若者とは言えない風貌に反して、非常に軽い雰囲気。

 低い背なのに、妙な存在感。

 細長くやや湾曲したサーベル?の鞘を腰につけているので、恐らくは剣士であろうことはわかるが、チグハグでアンバランスな印象に、娘は困惑を隠せない。


「おい」

「は」


 1の声で30のうちの一人が男に斬りかかる。

 しかし転がったのは斬りかかった方だった。


「おいおい、いきなり暴力は良くないよ。

 うん、まあ良いや。ちょうどあのおっさんのせいでムカムカしてたしね」



「やつあたり、させて貰いしょか」

 軽い調子で黒い男は楽しそうに笑った。





 一方的な、戦いとも呼べない、戦い。

 しかし、蹂躙や虐殺とも言えない静かな展開。


 娘には黒い男がゆっくりと歩いているようにしか見えなかった。

 すり足で、体の軸をブラさず、緩急をつけてゆったりとした動きは舞踏のようにも見える。

 しかし、黒い男の動作の結果は優雅とは程遠い。

 30の者たちが次々に転がっていく。


 娘には黒い男の剣が抜かれいるのが見えない。

 光ったと思うと次が転がっていく。


 実際の時間は1分もなかったであろう。

 しかし、最後の1が転がるまでに、娘は一曲が演奏し終わる位の長さを感じた。



(視点変更)


 うん、まぁスッとしたかな。

 やっぱりストレス解消には運動が良いね。


 というわけで獲物さんはと。


 何やってんだ? 逃げりゃ良いのにぼーっとして。


 ・・・・・・こりゃ、また。結構なかわいこちゃんで。

 サラサラの金髪に大きなお目目がパッチリ。

 しかも、大きいのは目だけじゃない。お胸の方もこりゃまた。

 背は同じくらいかね。やだねぇ、ここは俺より背ぇ高い奴ばっかりで。

 さて、どうするか?


 ・他の奴らを皆殺しにしてじっくり楽しむ。

 ・さらってじっくり楽しむ。


 と、まぁ先ずは。

「有り金全部出してもらおうか」

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