ある男の夢日記
χおそばχ
夢と男
青い空を見上げ、空に落ちる感覚を楽しみながら歩くのもまた一興。
そんなことを思いながら人気のない道をトボトボと歩く。
行く先など考えず、ただただ歩く。
歩いて歩いて・・・っとふと「俺はいったいなにをしているんだ」
と我に返る。
「そうだ・・・」俺は思い出した。
桜が舞う季節。
一面はピンクに染まり、それはとても綺麗な景色だった。
その反面人の波が絶えない某市某駅。
人ごみがごった返し、とても見るに耐えない場所だった。
男はそんな人ごみの中、会社に向かっていた。眠気を堪え、やっとの思いで歩く。
まるで足枷をつけたように重く、沼を這いずるような感覚だった。
高校時代はスポーツに励み、その為体力にも自信があったが、年というのは残酷でその体力すらも失いつつあった。
そんな男の日課は会社に向かう途中、コンビ二に寄り朝食を買い、苦いコーヒーと怪しいエナジードリンクの一気飲みをするのが習慣だった。
こうしなければ目が覚めないのである。そんな体が出来上がりつつあった。
会社に着きデスクへ向かい、いつものようにパソコンとにらめっこをする。
パソコンは文句を言わず、指示した通りに動いてくれる。
しかし会社の連中は指示をしてもその通りに動いてくれない使えない連中ばかりだ。
いつも仕事が終わるのは日付が変わる頃だった。
ゴールの見えない仕事の量を黙々とこなし、仕事が終わると足早に家に帰る。
帰宅途中の街灯がまるで俺を嘲笑うかのようにチカチカと光っており、電車の中は人が少なく闇が静寂を生むような雰囲気だった。
風がヒューと吹くとどこか虚しさを感じた。
家に着くと布団にすぐ潜る。そして睡眠に着く。
そんな楽しみの無い鬱々とした毎日を俺は過ごしていた。
ある朝いつものように会社へ向かう途中不思議な感覚に陥った。
住宅街を歩いていると視界がぼやける感覚に陥った。
例えるなら目の前の景色がぐねりと捻じ曲がるように見えた。
「昨日は仕事が忙しかったからかな・・・」そんなこと思いながらも会社へ向かう。
会社に着くなり、上司の怒号が俺に飛んでくる。仕事のミスではなく気に入らないことがあったらしい。
しかしそんな怒号も無視して苦痛から逃げるように仕事に向かった。午後には朝の不思議な感覚も消えて、なんだやっぱり疲れじゃないかと思いながら仕事をした。
翌日の朝、会社は休みである。
俺は布団に潜り二度寝をした時こんな夢を見た。
寝ている自分を上から見下ろしている。まるで死んだ自分をじっと見下ろすような夢だった。
はっと目が覚めて夢であったことを確認する。
「まるで幽体離脱でもした気分だったなぁ」と笑みになる。
不思議な夢は嫌いじゃない。
あくまで夢なのだから自分が死んだところで死ぬわけではないと思っていた。
例え俺が死のうが、人を殺そうが言わば自分の創り出す世界なのだから何をしようが勝手なのである。
だから小さい頃から夢には不思議な魅力があるとずっと思ってきた。
夢とは記憶の断片を一時的な整理をすることで生み出される映像だと何かの本で見たことがある。
しかし俺はそうとは思っていなかった。夢で見た映像はきっと別の次元の俺の記憶に違いないと強く思っていた。今でもそう思うこと度々ある。
仮に別の次元の俺の記憶をもっと見られるのであれば見たいし、できるなら日記にしてして読みたいとも思った。
俺はその日から夢日記をつけることにした。
これでいつでも好きなだけ夢を見返すことができるからかわくわくが止まらなかった。
夏の暑い時期。汗水垂らして毎日働いた。ベトベトに溶けてしまいそうな夏だった。
苦痛な仕事をこなし、鬱々とした毎日を過ごす。でも男には夢を見ることが楽しみで仕方がなかった。
その日の夢は俺が誰かに質問をしている夢だった。
「俺のやることはすべて誰かがそう操ってるからなのでは?」
根拠のない質問をする夢だった。
面白い夢だったので早速夢日記に書いた。
つらつらと書いていくと夢への沸き上がる執着が高まっているのが凄くわかった。その興奮を抑えることを俺はできなかった。
気づいたらそう思う自分がいた。
興奮している時は仕事の苦しみを忘れることが出来る。苦しみから逃げられるのがとても心地よくまるで時間を忘れて遊んだ昔の自分のようだった。
いつだって人間は苦しみから解放されたいと願う生き物だと小さい頃から思っていた。
それが全員が全員そうでなくとも俺は今の苦しみから解放されたいと心から願う人生を送っている。
そんなこと思いながら夜は更けていった。
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