第122話 結果発表

 十二月に入った。今日が公募推薦の合格発表の日だ。きっと家に帰ったら結果通知の封筒が届いているはず……。このホームルームが終わったらまっすぐ家に帰って確認だ。


「そろそろいくつか公募推薦の合格発表通知が届いている頃だと思います。ホームルームが始まったら先生に報告に来るように」


 内心ドキドキしていると、担任の久留米先生からの連絡があった。まさに今考えていたことなので、一瞬だけドキッとなるけれど、報告するのは今日じゃない。


「では解散」


 先生の号令と共に生徒たちも動き出す。

 僕も今日はまっすぐに帰るために、筆記用具などを鞄に詰め込むとすぐに立ち上がった。


「おーい、黒塚」


「もしかして今日合格発表だっけ?」


 ちょうどそこに、早霧と黒川がやってくる。


「うん。たぶん家に届いてると思う」


「じゃあ今からみんなで黒塚っちの家に押し掛けようか」


「ええっ!? ……みんなそんなにヒマなの?」


 結局いつもの四人が僕の周りに集まってきた。

 もうすぐセンター試験だよね? 僕だって公募推薦の試験が終わった後、センター試験の勉強してるのに……。

 さすがにちょっと勘弁してほしいところだ。それに結果はすずと二人で見ようと思っていたのに。


「おいおい、もし不合格だったらどうすんだよ」


「そうだよ。さすがに落っこちた黒塚くんを慰めるなんてできないよ」


「それに彼女と二人の時間は邪魔できないしね」


「それもそうだね」


 四人揃って好き勝手言ってる気がするけれど、なんだか僕の扱いひどくない? ……いやいつものことか?


「それはそれで酷くない?」


「あっはっは」


「まぁまぁ。じゃあ健闘を祈ってるよ」


「あー、うん。ありがとう」


「じゃあまたねー」


「ばいばい」


 四人と別れてそそくさと教室を出ると、自宅へと一直線に帰るのだった。




「ただいま」


 カギを開けて家に入ると誰もいない。今日はすずも学校に行っており、まだ帰ってきていないみたいだ。

 恐る恐る玄関の郵便受けを覗き込むと、白い封筒が入っているのが見える。


「……」


 手を突っ込んで封筒を取り出すと、ひとまずリビングへと向かった。

 部屋の明かりをつけて封筒を確認する。サイズは一般的な封筒だろうか。A4サイズの紙を三つ折りにすると入るサイズだ。表には藤堂学院大学の文字があり、下の方には『結果通知書在中』と記載がある。すずと一緒に確認すると決めているけれど、今からすごく緊張してきた。心臓がどくどくいっているのがわかる。


「うーん……」


 でもなんだろう。よく見ると一センチくらいの厚みがあるよね……、この封筒。もしかして……。

 いやいや、変な期待はしない方がいいんじゃないかな。とりあえずすずが帰ってくるのを待とう。


 自室で制服から着替えていると、スマホにラインの着信があった。


『ごめん! 今授業が終わったからすぐ帰るね!』


 もちろん相手はすずだ。僕は苦笑しながらも『急がなくていいから、気を付けてね』と返事を返すと、『わかった』という意味のくまさんスタンプが送られてきた。

 リビングに戻って冷蔵庫のお茶をコップに注ぎ、ダイニングテーブルで一息つく。お茶を一口だけ飲んで喉を潤すと、天井を見上げてボケーっとする。さすがにこのタイミングではセンター試験の勉強をする気にはなれない。ちょっとくらいのんびりしてていいよね。封筒がぶ厚かったせいか、何か余裕ができている気がする。


 すずが帰ってくるのを待っている間にお菓子を食べながらテレビを見ていると、玄関から慌ただしい音が聞こえてきた。


「ただいま!」


 同時にすずが息を切らせながらリビングへと入ってくる。


「おかえり。……大丈夫?」


 学校帰りそのままなのか、肩から鞄を掛けたままだ。一回家に寄らなかったんだろうか。


「だい、じょうぶ」


 鞄を床に下ろして息を整えるすず。そのままダイニングテーブルに腰を下ろすと、テーブルの上に置かれている封筒に気がついた。


「誠ちゃん! もしかして……、これ?」


「あ、うん」


 僕もソファから移動してダイニングテーブルに着く……前に、キッチンに寄ってすずにお茶を入れて上げる。


「ありがと」


 一気に半分くらいのお茶を飲み干すと、コップを脇に置いてテーブルに頬をくっつけるようにして封筒を横から眺めるすず。……いや、手に取って見ればいいのに。


「……分厚いね」


「開けるよ」


 封筒を手に取ると、すずの顔も一緒に付いてくる。右へ左へと揺らすと面白い。猫じゃらしを前にした猫みたいだ。


「もう! 読めないじゃない」


 あ、封筒の文字読んでたのね。


「ごめんごめん。……見る?」


 苦笑しながら封筒を手渡そうとするけれど、すずは首を振って否定する。


「もう読んだから大丈夫」


 僕は頷くと、封筒に手を掛ける。ビリビリと開封すると、中身を一式取り出した。

 重なった書類たちを広げると。


「……あ」


 一番上にあった用紙に記載されていたのは、合格の文字だ。


「おお!」


 思わず頬が緩むのが自分でもわかる。……わかるんだけれども、自分では止められない。一緒に同封されているのは他にもあるけれど、同封書類一覧に記載されている内容に間違いがないかだけは確認しておく。入学の手引きの冊子や、入学金の振込用紙などが入っているようだ。

 ふと手元から視線を上げると、すずが口元に手を当ててうっすらと涙を浮かべている。

「よかった……。誠ちゃん。おめでとう! ……ほんとによかった」


「ありがとう、すず」


 満面の笑みで応えると、ポロポロと堤防が決壊したかのように瞳から涙がこぼれ落ちてくる。


「ホントによかった……。ふえぇ……」


「えっ? ちょっ、すず!?」


 思わず立ち上がってすずの側へ行くと、耐えきれなかったのか僕にしがみついて泣き続けるのだった。

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