第82話 おじいちゃん -Side秋田すず-
「姉ちゃん。……はふ、おはよう」
「ん、おはよう」
翌朝、起きてリビングへと向かうと、眠そうな弟の
お盆の実家だと思ったより寝坊してしまう。時計を見るともう九時前だ。
「おはよう、すず」
「あ、お母さん。おはよう」
お父さんは見当たらないから、もしかしてまだ寝てるのかな。
「早く朝ご飯食べちゃってね。あとはすずだけなんだから」
あれ……。どうやらわたしが最後みたい。
「はーい」
切れ目の入った焼いたバターロールに、ウインナーやスクランブルエッグやレタスなどがテーブルに一緒に並べられている。
我が家のいつもの朝食スタイルだ。自分で好きな具を挟んで作るのだ。
わたしはレタスとトマトにスクランブルエッグをパンに挟み込むと、ケチャップを垂らして齧りついた。
「ただいま」
お昼前になったところでお父さんが帰ってきた。どこかに出かけていたみたい。
「よっこらせ……、帰ったぞー」
どうやらおじいちゃんと一緒だったみたい。
二人とも朝からいないと思ってたけど……、なんだか嫌な予感がする。
そんな不安を抱いていると、帰ってきた二人が大量の荷物を抱えてリビングへと入ってきた。
「……またかよ」
その様子を見た
「おお、すず。いろいろ買って来たから持って帰るといい」
わたしを見つけたおじいちゃんが、ニコニコと笑顔でそう言ってくれるけど、相変わらずわたしの意見をまったく聞かずに物をそろえてきたみたい。
「はぁ……、うん……。ありがとうね、おじいちゃん」
一緒に買い物に行ったであろうお父さんをちらりと見るけど、苦笑を浮かべているだけだ。
止めてくれたらいいのにと思わないでもないけど、お父さんはおじいちゃんには強く出れないのだ。
婿養子のお父さんが、おじいちゃんのコネで就職できたとは聞いたけど……、詳しいことはよく知らない。
「まぁ、どうせ全部持って帰れないだろ。……気に入った物だけ選んだらいいさ」
お父さんが肩をすくめているけど、ホントこれで無駄遣いになっていないから不思議だ。
食料品から衣料品にかけていろいろ袋に詰まってるけど、わたしが選んだもの以外は、それ以外の家族が気に入るものも多く、意外と残らなかったりする。
そんなおじいちゃんが、ホントにわたしにはよくわからないのだ。
「おぉ、そうだ。すずや。……おじいちゃんがいい人も見つけてきたからの。今度会ってみるといい」
心底おじいちゃんを不思議に思っていると、さらによくわからない発言が飛び出してきた。
「……えっ?」
……いい人ってなに?
「ちょっと、じいちゃん……、ソレ本気で言ってんの?」
直哉が色めき立っておじいちゃんに詰め寄るけど、おじいちゃんは相変わらずの表情で受け流している。
「んん? おじいちゃんが冗談を言ったことがあるかい?」
……確かに、冗談のひとつも言わないおじいちゃんだけど。
「ちょっとお義父さん? ……なんですかいきなりいい人って」
「じいちゃんから男を紹介って……。もし姉ちゃんに、好きな人とかいたらどうすんだよ」
ええっと、どういうことなのかな。単なるおじいちゃんからの男の人の紹介?
わたしは……黒塚くんが大好きなんだけど……。まだ告白もしてないけど……、できれば将来は黒塚くんと――。
わたしの代わりにお父さんと、あの直哉が抗議してくれているのを見て、ちょっと涙が出そうになる。
「ほっほ、まぁまぁ、まずは会うだけでもしてみてくれんかの」
なにそれ……。えっと……、とりあえず会うだけでいいのよね?
うん……、それなら……大丈夫だよね? 決められた婚約者とかじゃ……ないよね?
おじいちゃんの考えていることはよくわからないけど、言葉を聞いた限りじゃ、大丈夫……だよね?
「うちの社長の息子さんだ。利発そうな子だったわい」
「おじいちゃんの言葉は気にしなくていいからね、すず」
「お母さん……」
結局不安を残したまま実家から帰る日になってしまった。
その社長の息子という人物と会う機会はなかったようで一安心だったけど、だからといって不安がなくなるわけでもない。
それに……、その会社そのものを設立したのがうちのおじいちゃんという話だ。
コネで入ったというお父さんも、もちろん同じ会社に勤めているのだ。
わたしが断ったところで何かあるということもないと思うけど……、やっぱり不安だ……。
「そうだ、気にすることはないぞ。……もし好きな男の子ができても、気にせずにすずの好きなようにしなさい」
「お父さん……」
「お父さんの言う通りよ。どうせ婚姻届けの両親の欄はお母さんたちが書くんだから、すずは気にしなくていいのよ」
「ええっ!? ちょっと、母さん? 話が飛びすぎじゃ……!」
お母さんの言葉に慌てたのはお父さんだ。
「そ、だからすずはおじいちゃんのことなんか気にしなくていいのよ」
「う、……うん」
お父さんと同じくわたしもびっくりしたけど、お父さんがわたしよりも焦った様子だったので、ちょっと冷静になれたと思う。
それにお母さんの話を聞くとちょっと安心できたかもしれない。
ということは、おじいちゃんに気付かれないようにこっそりと、黒塚くんとの婚姻届けを出せれば……。
……って、わたしは一体何をかんがえてるのよ!?
そこまで考えたところで、わたしは恥ずかしい妄想を振り払うように頭を振る。
「どうしたの、すず? そんなに赤くなって……。もしかして、やっぱり好きな男の子いるんじゃないの?」
「えっ!? ……あの、……うん」
……やっぱりお母さんには敵わないなぁ。それに、こんなことになっちゃったんだ。
お父さんとお母さんにも助けてもらわないと、おじいちゃんの言う通りになってしまうかもしれない。
なので、わたしは正直に好きな人ができたことを二人に告げたのだ。
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