第28話 校外で
「あれ? 黒塚くん、今日はどこか出かけるの?」
来週の土曜日に体育祭を控えた日曜日。
学校としては禁止されている学外での練習のため、ちょっと学校からは遠い公園へと向かうところにマンションを出たところで秋田さんに声を掛けられた。
「あ、秋田さん。こんにちは。……いやちょっと体育祭の練習に」
「お、そういえばそんな時期だっけ? ケンコーの体育祭って結構有名だもんね」
僕自身はあまり実感がないんだけれど、地元ではわが校の体育祭はそこそこ有名らしい。
秋田さんもやっぱり体育祭は知っていたようである。
「黒塚くんは体育祭で何やるの?」
「あー、えっと……、不本意ながらダンス班になってしまいました……」
なんとなく気恥ずかしくて目線を逸らしながら秋田さんに返事をするが、ちょっと最後は声が小さかったかもしれない。
「へー、じゃあ今からその練習なんだ?」
「はい」
「ふーん……、黒塚くん踊るんだ」
秋田さんが楽しそうに僕を眺めているけれど、ふと考え込むように眉を寄せると。
「……体育祭っていつだっけ?」
と尋ねてきた。
「来週の土曜日ですけど……?」
なんだろう。どうして体育祭の日にちが気になったんだろうか。
……あー、もしかして近々おすそ分けにでも来ようと思ってたのかな。
ライン交換したはずだけど、たまに連絡なしにインターホンが鳴るときがあるし。
実は何回も僕が留守のときに来てたりして。
「そうなんだ。ありがと」
秋田さんはそう言うと、「じゃあね」と笑顔で手を振ってマンションに入って行った。
「おー、思ったより人集まってるね」
電車で目的の公園へと来ると、結構な人数が集まっていた。
班長に指定された公園だけれど、集まった人数に対してちょっと狭い公園だと思う。
いつものメンバーからは霧島だけが来ていないが、この間の後輩二年生女の子三人組は揃っているようだ。
僕が教えているグループではないけれど、どうもあれから三人組からは話しかけられることが増えた気がする。
「あ……、あの、黒塚先輩って普段そういう服を着てるんですか?」
今回も僕を見つけて真っ先に話しかけてきてくれた。
左から順番に
みんな僕より五センチくらい背が高くて羨ましい限りだ。
……いや後輩の女の子に背が高くて羨ましいとか、僕は何を考えているんだろう。
なんとなく自己嫌悪に陥りながらも、自分の今の服装を確認してみる。
狙ったわけではないけれど、ちょうど『サフラン』のお店で買った服だった。
「あー、最近買った服なんだ……。自分で選んだわけじゃないけど」
「えっ!?」
「誰に選んでもらったんですか!?」
「もしかして噂のお隣さんですか?」
ちょっと、グイグイくるね、……特に真ん中の水沢さん。
できればもうちょっと離れてもらえると……、僕の方が背が低いとわかりづらくなるのでありがたいんだけれど。
だけど残念だったね。
「あー、この服は店長さんおススメだよ」
というよりも、思い返してみると服を自分で選ぶということは最近していない気がする。
「へぇ……、さすが店長さん……、ですね」
「それってどこのお店ですか?」
お、もしかしてお店に興味があるのかな。僕も今度バイトするし、ぜひお店に来てもらいたいものだ。
……僕は倉庫らしいから顔を合わせることもないだろうしね。
「モールに入ってる『サフラン』ってお店だよ」
「あっ、知ってます! 雑誌にも掲載されてるの見たことあります」
「あたしそれ毎月買ってますよ!」
「えっ? えっ? 二人ともそのお店知ってるの?」
両脇にいる沢渡さんと保澄さんは知っていたようだけど、水沢さんは『サフラン』を知らなかったようだ。
「えー、むしろなんで知らないのー!?」
「そうだよー、モデルの菜緒ちゃんすっごくかわいいんだから」
そう言えば黒川も雑誌買ってたな……。やっぱりモデルがいいと服も売れるのかなぁ。
いつの間にか僕の話からモデルの菜緒ちゃんの話に移っている三人組を眺める。真ん中の水沢さんがオロオロしているようだ。
何気なく公園の真ん中にある時計を見てみると、そろそろ集合時間になろうとしていた。
「はーい! みんな集まったかな。そろそろ練習はじめるよー!」
ちょうどその時に班長の
その名前が表す通り、小柄でちょこまかと動き回る女の子だ。とは言え身長は言わずもがなであるが。
なぜに小鳥より誠一郎のほうが小さいのかと。名前だけなら負けていないはずだ。
――と、そこで体育祭のダンスを披露する際に流れる音楽が聞こえてくる。
当日に流す音楽を流しながらの全体練習だ。
小鳥ちゃんはそんなものまで用意してきていたらしい。
なんとなく近所迷惑になっていないかと思いながら、僕も練習を開始するのだった。
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