第27話 後輩に

 ゴールデンウィークが明けた平日の放課後である。

 そう、つまり体育祭の準備である。ダンス部門の班になってしまった僕は、同じ班の人たちと練習中だ。

 なのでもちろん一年生と二年生もいるわけなのだが……。


「解せぬ」


 僕より背が低い人がいない。

 なぜだ……。

 まぁ、たった今判明したことではないので、そこまで憤慨することはなくなったけれど。


 体育祭は全校生徒を五つのチームに分けて競い合う形式となっている。

 その内訳は各学年の一組と六組、二組と七組という具合に最後は五組から十組までの構成だ。

 僕は三年九組なので、一年から三年までの四組と九組が集まるチームになる。

 ……そういえば、体育祭は体育の日に合わせて十月に行われるのが通例だけれど、進学校では受験勉強に差し支えるからと五月末になっていると誰かが言っていた。


「先輩、ここってどうなってるんですか……?」


 三年生は基本的に一年生二年生に振り付けを教える立場だ。

 ダンスそのものの振り付けも三年生が考えるのだが、そこは四組の班長と副班長が中心となっており、九組の僕はあまり関わっていない。

 体育祭の準備期間が始まる前から三年は活動をしていて、そこである程度の振り付けを考えるのだ。

 ただし、準備期間に入るまでに最後までは完成しないので、できているところから後輩へと教えることになるけれど。


 ちなみにダンスの班には僕以外のいつものメンバーも入っている。

 三年生一人に付き、後輩が数人ついてそれぞれ教えているが、みんな試行錯誤しながらといったところだ。

 僕は振り付けを確認してきた女子生徒を若干見上げ・・・ながら、リズムをつけて動きを教えていく。


「えーっと……、こうやって……、こう……かな?」


「そうそう。……じゃあ始めからやってみようか」


 そしてまた振り付けを最初から練習していく。

 しばらく練習したあとにみんなで休憩に入った。


「黒塚くんのところは順調みたいだね」


 霧島が僕のところにやってきて向かいに座る。

 ……と、僕の周りに他のメンバーが集まってきたけれど、なぜか一部の二年生の女の子も集まってきた。


「うん。みんながんばってくれてるよ」


「ほうほう」


 黒川がなぜかニヤニヤした顔で腕を組んで頷いている。


「ところで黒塚っち」


「……なに?」


 なんだか嫌な予感がしつつも返事をする。

 黒川がこの顔をするときはいつもロクなことが起こらない。


「後輩君が黒塚っちに聞きたいことがあるんだって」


 そう言うと、青いジャージを着た二年生の女の子が三人、僕の前まで出てきた。

 学年は色でわかるようになっていて、青が二年生だ。余談ではあるが、赤が三年生、緑が一年生になる。

 赤いジャージは通称で『赤ジャー』と呼ばれている。


「な、……なにかな?」


 少し身構えてから三人に向き直る。


「あの……、黒塚先輩……」


「先輩って……」


「付き合ってる人がいるんですか……?」


 なぜか三人から順番に声を掛けられた。


「――はい?」


 なんでそうなるの?

 わけもわからずに一瞬思考が止まるけれど、もしかしてこの間のゴールデンウィーク初日の僕を見られたのかな……。

 最近お隣さん絡みで突っ込まれることが多い気がする……。


「まさか……、お隣さんなのかっ!?」


「どっちのお隣さん?」


「……進展したの?」


「黒塚くん……」


「「「お……、お隣さん……?」」」


 いつものメンバーのいつもの反応に、二年生三人組は戸惑い交じりに顔を見合わせる。

 そこに冴島が余計なことに、二年生に僕の隣に住む人たちのことを説明する。


「黒塚くんの家の両隣にはそれぞれ女子大生が一人暮らししてるんだよ」


「そ、そうなんですかっ!?」


「じゃあやっぱりあの時見たのはそのお隣さんなんでしょうか」


「……あの時って?」


「ゴールデンウィークの初日ですね。モールで見たんです」


 青いジャージを着た二年生三人組がうんうんと頷きあっている。

 やっぱり見られていたのか……。まぁ近場にあるだけあってあのモールにはケンコーの生徒がかなりの数入り浸っている。


「えっと、たぶんあれは黒塚先輩だったと思うんですけど、髪の長い女の人とセミロングくらいの女の人と一緒に歩いてたところを見ました」


「ほー」


「二人とも超美人さんだったんですけど、そんな人を二人も連れている男の人ってどんな人だろうって思ったんですけど……」


「へー」


 早霧と冴島が抑揚のない返事をしているが、なにか感情がこもっているように感じられなくてコワイ。


「それで……、真相のほどはどうなんですか?」


 最後を締めくくるように霧島が僕に最終確認を取ってきた。


「あーっと、まぁ確かにお隣さん二人とモールに行ったよ。……行ったけど、別に付き合ってるとかそういうんじゃないから」


「じゃあどういう理由だったのかね?」


 だから早霧コワイって。


「いや……、ただの荷物持ちだけど……」


 僕の意見が聞きたいというのが本当とのことだったけれど、ちゃんとした意見を言えた記憶もないし、自分ごときがおこがましいというか、そんな思いもあった。


「そうなんですか……?」


 だけれども、疑惑の表情で後輩が僕を見つめてくる。

 なんてことのない回答だったと思うけれど、本当の理由ではなかったため思わず視線を逸らしてしまう。


「……それでも、荷物持ちとして一緒に買い物に行くくらいには仲がいいんですね……」


「まぁ……、お隣さんだし……」


「たまにおかずのおすそ分けとかもする仲だよね?」


「――えっ?」


 冴島の言葉に一瞬固まる後輩たち。みんな僕に視線を向けているけど、なぜか増えている気がする。


「黒塚先輩って、料理するんですか!?」


 って驚くところはそこなのか。


「いやー、黒塚っちモテモテだねー」


 なぜか注目を集めてしまっている僕に向かって、黒川が楽しそうに笑っている。


「何言ってるんだよ。僕何もしてないし……」


 お隣さんが美人だからしょうがない。そんな美人さんが身近にいるから、僕がこんな状況になっているんだ。

 とりあえず今はそう思い込むことにしたのだった。

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