第25話 パフェとプリクラと
僕たちの前にはひとつの巨大なパフェが鎮座している。
アイスクリームの丸い塊が六個ほど積み上げられ、中央にはソフトクリームが聳え立っている。
その周囲にはイチゴがこれでもかと散りばめられており、その隙間には細長いプレッツェルが突き刺さっている。
「……ナニコレ」
そして、そこには長いスプーンが三本突き刺さっている。
一つのパフェを三人で食べることに何も思わないのだろうか。女性陣で相談して注文したデザートではあるのだが……。
僕はちょっとドキドキしながら、向かいに座り目をキラキラと輝かせる秋田さんと野花さんを眺めていた。
秋田さんと野花さんが選んだのは、三人前と表示されていたイチゴパフェである。
メニューには十人前と書かれたパフェもあった気がしたけれど、そちらは気のせいだろう。
それかメニューの誤植に違いない。
「「いただきます!!」」
僕の呟きを無視するように、二人はスプーンをそれぞれ装備すると、一斉にパフェへと襲い掛かった。
「「ん~、おいし~!」」
幸せそうに頬を緩める秋田さんと野花さん。
そんな二人を目の前にした僕も幸せです。ありがとうございます。
気を取り直して、僕もパフェに突き刺さったスプーンを手に取り、ソフトクリームを口へと運ぶ。
濃厚なミルクの味がふわりと広がり溶けて消える。
「……おいしいね、コレ」
「……そういえば、黒塚くんに確認もせずにこのお店に来ちゃったけど、甘いものって大丈夫だった?」
今更申し訳なさそうな表情でそう言う秋田さんだけれど、すでに手遅れだと思う。
「大丈夫ですよ。甘いものは僕もそれなりに好きなので」
とは言えそこは女性陣にかなうはずもなく。
結局僕の手は途中で止まってしまうのだが、パフェは綺麗に完食されたのであった。
その後はぶらぶらとモールを三人で徘徊した。
夕方近かったので、どうせなら三人とも一人暮らしだし、晩ご飯を食べてから帰ろうということになったのだ。
それまでの暇つぶしをどうするのか、三人であれこれ他愛のない話をしながら、気になったお店を冷やかしながら巡った。
楽器屋さんにも寄ったけれど、なんとなく下手な演奏を披露するわけにもいかないので、ふざけてねこふんじゃったを弾いてみただけだ。
「あー、それわたしも弾けるー」
と言って秋田さんがところどころ間違えながら弾いていたけど。
そしてゲームセンターへとやってきた。
ここにはあれがあるのだ。
「ふっふっふ。ゲームセンターとくればもちろん!」
「黒塚くん。一緒に撮りましょうか」
そう。プリクラである。
若干の抵抗はあるものの、そもそも僕に拒否権などあるわけもない。
返事をしないでいると、野花さんがいつの間にか硬貨をプリクラへと投入しているところだった。
どうやら僕に聞いたわけではなく、すでに決定事項だったようだ。
半ば押し込められるようにしてプリクラの中へと入る。
ポーズをとるように言われるが、僕はどうしていいかわからずに固まったままだ。
「ほらほら、黒塚くん笑って」
いつの間にか僕の位置が二人の真ん中になっていて、両方から頬をツンツンとつつかれる。
「ええ……いきなりそんなこと言われても……」
困惑しながらつつかれたことに顔を赤くしていると、プリクラ機から次のポーズと告げられる。
それからはもう僕は二人のなすがままにされていた。
いくつか写真を撮ったあと次で最後と告げられると、二人が僕の前に向かい合わせで近い位置に立って、カメラの位置を確認しながら中腰になっている。
ふと僕も気になってカメラが映し出す画面に目をやると、そこには僕の両頬にキスをするように見える画像が映し出されていた。
「あっ」
と言った瞬間にフラッシュが光った。
画面にはちょうど撮影された画像が表示されているが、まさに二人が狙った通りの画像になっている。
「「いえーい」」
なぜか女性陣の二人が嬉しそうにハイタッチをしているけれど、僕はその写真を見ていられなくなって視線を逸らした。
その後は二人が落書きをしてしばらくすると写真の出来上がりだ。
「……誰これ」
出来上がった写真を見せてもらったけれど、なんというか別人だった。
目が大きくなっていて美白効果もすごい。
「あっはっはっは!」
秋田さんは写真を見て大爆笑である。
「しばらく待ち受けにしよーっと」
何か恐ろしいセリフを口にしているけれど、正直言うとそれを待ち受けにするのはやめていただきたい。
とは言え自分のスマホではないので何とも言えずに渋面を作っていると、野花さんからラインが飛んできた。
目の前にいるのになんだろうと開いてみると、そこには撮ったプリクラの画像が張り付けてあった。
最近では撮った写真をスマホに送れるようになっているらしい。
「うーん……」
「どうしたの?」
「いや……、正直、写真をもらっても使いどころがないというか……」
野花さんからの疑問に正直に答えるが、特に不快には思われなかっただろうか。
「ふふっ、三人で撮ったんだから送っただけよ。死蔵させておいてもいいんじゃない」
「それもそうですね……」
もらったからって何かに使わないといけないこともないよね。
「さーて、今日はいっぱい遊んだわねー」
秋田さんが両腕を目いっぱい天井に向けて伸びをしながら、満足そうにつぶやく。
「そろそろご飯食べて帰りましょうか」
「異議なし」
こうして僕たち三人のデート?は終わりを告げるのだった。
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