隣のお姉さんは大学生
m-kawa
第一章
第1話 プロローグ
「はあ~、やっと落ち着いたかな……」
僕の名前は
これから住むことになるリビングの床に座り込んで、ため息をついているところだ。
まだ開封していない段ボールは多くあるけれど、とりあえず今夜だけでも過ごすことができる程度に荷物は解いたはずだ。
今日から一人暮らしが始まるのだ。
来週から高校三年としての初登校になるけれど、転校というわけではない。
もちろん今までは実家から学校に電車で通っていた。
片道一時間強と遠かったけれど、なんとか通えたのはそこが実家だったからだろう。
父さんの海外転勤が決まって、家事のまったくできない父さんに母さんもついていくようになってしまったのだ。
一人っ子でずっと実家にいた僕としては、一人暮らしはある意味夢ではあったのだが、往復二時間以上かけて学校に通いながらはちょっと自信がなかった。
実際に両親もそれには反対だったのだ。
実家も賃貸マンションだったので、どうせなら学校に近い場所に僕だけ引っ越すことに決まったのは春休み直前だった。
しかし時期が時期だけに、いい物件が空いているわけでもなく。
学校まで徒歩二十分という距離の、エレベーターのついていない五階建てマンションの最上階という、なんとも古い部屋しか空いていなかった。
でも幸いだったのは、数年前にリフォームしたばかりで内装に問題はないというところだろうか。
「どうせ一年は日本に帰ってこれないんだ。高校卒業したらもうちょっとマシな物件にでも引っ越せばいい。父さんにはエレベーターのないマンションの最上階とか無理だからな」
などと笑っていたがちょっと意味が分からなかった。
高校卒業後に、実家を息子の僕が決めろとでも言うのか。
――まあそれはいい。一年は先なので今は置いておこう。
それよりもだ。
お隣さんに挨拶をしないといけない。
母さんに耳にタコができるくらいにきつく言いつけられていたのだ。
「母さんが直接挨拶できればよかったんだけど……」
とは母の談である。
僕の一人暮らしする家なのにそれはアリなのかと今では思う。
何にしろ、挨拶すべき隣人は同じ五階にある我が家以外の三部屋だろうか。いや、一軒は確か空き部屋だったはずなので二軒か。
さすが不便なマンションである。我が家は502号室だが、隣の503号室が空き部屋であった。
それでも角部屋が埋まっているのはさすがと言ったところか。
面倒だが行かないわけにもいかない。しばらく荷解きでバタバタするのだ。隣人に迷惑がかかることを事前に知らせる意味でも引っ越しの挨拶は早めにしておいたほうがいいだろう。
幸いにして現在時刻は昼を回ったところである。隣人をアポなし訪問するにはちょうどいい時間帯かもしれない。
用意しておいたお菓子を持って、まずは隣の501号室へと向かう。
ただインターホンを押すだけなのに緊張する……。何をためらっているのだ僕は。このちっちゃいボタンを押すだけだろう。
どんな人が住んでいるのかもわからないお宅を訪ねるというのは、こうも緊張するものだったのか……。
新しい発見である。
とは言え、こうして他人の家の前でじっとしていてもただの不審者だ。
「おりゃ」
掛け声とともにインターホンを押す。
ピンポーンと家の中からくぐもった音が響いてくる。
……が、いつまで経っても返事がない。
留守なのだろうか。
「……なんだよ。無駄に緊張して損した」
しばらく経っても出てこないので、反対側の504号室へと向かうことにする。
一度緊張したので次は躊躇いなくインターホンを押した。
「……はーい」
ピンポーンという室内からのくぐもった音と、住人のかわいらしい声が聞こえたかと思うと、玄関の扉が開く。
「……どちら様でしょうか?」
警戒心いっぱいで恐る恐る尋ねてきたのは、ボサボサの髪を胸元まで垂らして丸眼鏡をかけた細身の女性だった。
ただしその体形は出ているところはしっかりと出ていて、なかなかにスタイルは抜群だ。
思わず向いてしまう視線を無理やりねじ伏せながらなんとか言葉を絞り出す。
「あ……、えーっと、今日から二つ隣に引っ越してきた黒塚と言います」
ひとまず怖そうなオッサンとかが出てこなくてよかったと胸をなでおろしながら、引っ越しの挨拶と共に持参したお菓子を渡す。
「これはご丁寧に。504号室の
幾分か雰囲気を和らげて丁寧にあいさつを返してくれたのは、僕の訪問目的がわかったからだろうか。
ひとまず目的を果たした僕は、自宅へとそそくさと帰った。
もう一軒残ってるが、帰ってきたら訪ねてみよう。お隣さんだし気づくだろう。
二時間ほど荷解きを続けていると、バタンと扉の閉まる音が隣の家方向から聞こえてきたので、僕はもう一度501号室に突撃することにする。
思ったより玄関扉の音が響くのはやはり築年数のせいだろうか。ただまぁ帰ってきたことが分かりやすいので今はよしとしよう。
もう三度目となるインターホンを押す作業なんて、僕にとっては容易いものだ。
躊躇なくお隣さんのインターホンを押すと、ピンポーンと軽快な音が訪問宅から聞こえてきた。
「はーい!」
元気な女性の声と共に扉の奥からパタパタとスリッパのまま走る音が近づいてくる。
ガチャリと玄関の扉を開けて出てきたのは、腰までのストレート髪を輝かせた超美人なお姉さんだった。
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