06:悲劇の誕生 / Die Geburt der Tragödie.

 翌朝。ロンディニウム空襲の報せは帝国中を席巻した。誰がいつ、どうやってそれを仕出かしたのか。何一つ分からぬまま独り歩きするのは、フランソワで、モスコーで、首都直撃を果した「ラインの悪魔」の伝説。されど素知らぬ顔で詰め所に顔を出すターニャに、大隊隊員たちも一様に驚きの表情を隠し得ない。


「中佐! 昨晩の出来事はご存知ですか? ロンディニウムが!」

 半ば顔面蒼白のヴァイス少佐。喜び半分といった所なのだろうが、現状は驚愕のほうが大きいのだろう。


「分かっている。これで西部戦線は暫く膠着が続くだろう。諸君、武器を構えたまえ、我らは我らの、戦争を始めようではないか」

 ターニャは大仰に辺りを見回し、これから何事かが起きるのだと暗に示す。


「はっ! 目標はどちらで」

 しかして眼前の隊員たちは、その目標が西である事を疑ってはいない。実態は、内憂を取り除く為の外科的措置であるというのに。


「――東だ。東部よりは西の、ここよりは東」

「は?」


 やはりと言うべきか、歴戦の勇士とて推し量り得ぬゼートゥーア閣下のご意向。ならば直前まで伏せるべしとターニャは頷き、踵を返し歩き出す。参謀本部でこの作戦を知っているのは、他にルーデルドルフ中将と、レルゲン大佐だけ。とまれ、この混乱に乗じれば、存外に容易く事は運ぶだろう。ツァラトゥストラに心底から謝意を表しつつ、ターニャの向かう先はとうに決まっていた。


「付いてこい。これより任務を遂行する。作戦名は、黄金のライヒ!」

 幾重にも響く軍歌の音が去り、新たなる戦火の訪れを告げていく。目標はベルン。ライヒが首都――、帝都ベルン。

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