水色のハブラシ

カズキ

水色のハブラシ

夏の終わりの、雨の夜だった。

泣きだしそうな声で電話をかけてきた、彼女を駅まで迎えに行った。

家に招く途中、立ち寄ったドラッグストアの駐車場に彼女を待たせ、戸惑いながらの早足で、僕はハブラシをひとつ買った。


「とりあえず、これ」

「あー。水色がよかったなぁ」

ようやく少し、彼女が笑顔を見せた。



彼女と僕の暮らしはそうして始まり、僕はいつしか仕事の終わり、帰るコールをするようになった。


「なにか買って帰るものは、ある?」

「洗濯洗剤が、もうあまり無いみたい。…ねぇ?」

「ん?」

「新婚さんみたい」



夜通し、彼女といろんな話をしたけれど、何があったのかは聞くことができなかった。

いや、あえて、聞きたくなかったのかもしれない。

彼女は時々、難しい顔で誰かと電話をしていた。



そんなふたりの暮らしに慣れてきた頃。

彼女は、一度戻るね、と出て行ってしまったまま、二度と帰ってくることはなかった。

それから数年が経ち、風の便りで、新しい街で暮らしていると知った。


彼女からの電話は、もうかかってくることもない。

水色のハブラシを買ってくれる人に、出会えたのかもしれない。


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水色のハブラシ カズキ @RaM-kazuki

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