水色のハブラシ
カズキ
水色のハブラシ
夏の終わりの、雨の夜だった。
泣きだしそうな声で電話をかけてきた、彼女を駅まで迎えに行った。
家に招く途中、立ち寄ったドラッグストアの駐車場に彼女を待たせ、戸惑いながらの早足で、僕はハブラシをひとつ買った。
「とりあえず、これ」
「あー。水色がよかったなぁ」
ようやく少し、彼女が笑顔を見せた。
彼女と僕の暮らしはそうして始まり、僕はいつしか仕事の終わり、帰るコールをするようになった。
「なにか買って帰るものは、ある?」
「洗濯洗剤が、もうあまり無いみたい。…ねぇ?」
「ん?」
「新婚さんみたい」
夜通し、彼女といろんな話をしたけれど、何があったのかは聞くことができなかった。
いや、あえて、聞きたくなかったのかもしれない。
彼女は時々、難しい顔で誰かと電話をしていた。
そんなふたりの暮らしに慣れてきた頃。
彼女は、一度戻るね、と出て行ってしまったまま、二度と帰ってくることはなかった。
それから数年が経ち、風の便りで、新しい街で暮らしていると知った。
彼女からの電話は、もうかかってくることもない。
水色のハブラシを買ってくれる人に、出会えたのかもしれない。
水色のハブラシ カズキ @RaM-kazuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
起きろよ。/カズキ
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ウェディング・ドレス/カズキ
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
夜更け/カズキ
★1 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
「質問」/カズキ
★4 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
24時8分/カズキ
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます