リスタート

弓月キリ

第1章 失恋と趣味友達

1章第1話 失恋



 いつものように大学に行き、いつものようにサークルの活動場所に行こうとサークル練に向かっている途中で、私が密かに恋をしている同じサークルの岡崎先輩を見つけた。


「お……」


 一緒にサークルの活動場所に行こうと思って、岡崎先輩に声をかけようとしたんだけど、私の声は彼に届くことはなかった。


 だって。

 声をかけることができるわけがないじゃない。



 彼女、恋人と思われる人とキスをしているんだもの。



『サークル練に向かう人は確かに少なかったけど!

だからって【人が通るかもしれない】ってことを少しは考えたらどうなのよ!?』


 もちろん、そんなことを言う度胸は私にはなくて。

 私はそのまま自宅に逃げ帰ってしまった。



 * * *



 少しだけ大きく閉じるドアの音が部屋に響く。


 はぁ……。


 今日は厄日としか言い様がない。

 まさか、告白する前にフラれてしまうなんて。


 私はベッドの上まで何とか辿り着くと、そのままベッドの上に倒れ込んだ。



 体が重い。


 力が出ない。


 何もしたくない……。



 こんなに、失恋って辛いものだったんだ……。

 でも、どうして涙が出てこないんだろう?

 

 恋ってそもそもどういうものなの?


 生まれて初めての恋だからよくわからない。

 嫉妬したり、彼の言動で一喜一憂してみたり。

 彼のためにキレイになろうとしてみたり。


 そういうものが恋愛って思ってたけど。

 

 なんか、私が言う『恋愛』って薄っぺらい?


 だからなのかな……涙が出てこないの。



 * * *



 あれから寝るわけでもなく、ただ黙ってベッドの上で過ごす。

 少しでも動きたくなかった。


 でも、起きていると、岡崎先輩と過ごした大学のサークル活動の思い出や、岡崎先輩のことを好きになったと思った日のことを思い出して、気が滅入ってきてしまいそう。



 岡崎先輩は優しくてカッコよくて。

 田舎から出てきたばかりで戸惑っていた私にも親しくしてくれて。

 カメラと写真が好きなことを知ると、サークル活動に勧誘してくれた。


 友達も沢山できた。

 岡崎先輩を独占したくなって。

 誰にでも優しい岡崎先輩が眩しくて。

 周りの人達に嫉妬してしまって。


 それが嫌だったから。

 振り向いてほしかったから、オシャレも一生懸命勉強した。


 岡崎先輩は、いつから彼女と付き合っていたんだろう。

 私が岡崎先輩のことを好きになった日には既に彼女がいたのかな。



 なんか、悔しい。

 なんか、空しいな。



 時計を見る。

 晩御飯を食べるには少し早くおやつを食べるのには少し遅い時間。


 何気なくスマートフォンを確認すると、いつも利用しているメッセンジャーアプリに岡崎先輩からメッセージが届いていた。


『愛ちゃん、サークルの活動場所にいないけど、どうしたの?』



 人の気も知らないで。



「具合悪かったから帰っちゃいました。

連絡が遅くなってしまってごめんなさい」


 それだけを返して、その後は既読無視を決め込むことにした。


 今日は誰とも会いたくない。

 メッセージアプリ越しでも誰かと話したくなかった。

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