■エンディングフェイズ〈二人の冒険者の旅立ち〉

 竜が息絶えるころには、解毒の魔法でレナーデは回復していたが、ため息を吐いて、少しばかり消沈した様子だ。

「あたしもまだまだだね、こんなやつにしてやられるとは。まあ結果的にぴったりな仕事だったってとこかね」

「まあ、何にしても仕事は終わりだ。ここまで楽に来れたのも姉さんのお陰だしな」

 ゲオルグがそう言うと、「まあね」とレナーデは笑った。


 討伐の証として竜の角を切り取るのは、毒液を浴びないようにするため手間がかかったが、昼過ぎには二人はギルドへ戻ることができた。

 竜の遺体はギルドが回収して解体を行うとのことだ。毒液に変異した血液を含め、竜の素材は結構な掘り出し物になるとのことで、ヴァネッサは報酬に色をつけてくれた。


 その夜、〈島〉の酒場で祝杯を上げながら二人はこれからのことを話し合った。

 ゲオルグはシチューを飲みながら言う。「一つ思い出したことがあるんだ。俺には師匠がいた。〈南風の卓〉の王城の剣術指南役だ。その人は、今はもう引退してしまったけど、何かあれば〈台閣の卓〉の首都に来るようにと言っていたんだ」

「〈台閣の卓〉って言やあ、ここの西隣じゃあないかい。お誂え向きなことに、そこまでは橋が架かってる。もっとも天板の西端まで行かなきゃいけないし、通行料も安くない。もうしばらく、稼ぐ必要はあるね」

「姉さんはどうする?」

「あたしも探してるやつがいるのさ。あたしの耳を切り取ったやつだ。そいつを探し出すために、色んな所へ行かなきゃな」

「そうかい、じゃあ次はどこへ行くんだ?」

「決まってるさ」笑いながらエールを飲んで、レナーデは言った。「あんたの行くところだよ、ゲオルグ。自慢じゃないが、人を見る目はあるのさ。一目見たときから、あんたは大した冒険者になるって分かってた。いいかい、あんたはあたしの相棒だからな、この先も頼りにしてるさ」

 ゲオルグは頷いて、差し出されたレナーデの手を取り、冒険者として生きていく決意を固めた。今や過去もなく、主君もなく、何者でもない自分だが、冒険がこの先待っている。

 冒険者として二人は、確かに一歩を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る