第35話警戒
ステイゴールドの拠点にカイトが戻って来た。
「ッカイト!?」
タツヤがカイトを見て、驚く。
「団長は?」
「いや…お前…」
「いいから、団長はドコだよ!?」
「…ああ……副団長と部屋にいると思うが…」
「わかった。
他の隊長はいるか?」
「ニーナ隊長はいるが、他はステイゴールドの人達の
物資調達を手伝いに行った」
「じゃあ、ニーナも団長の部屋に来るように伝えてくれ」
「そりゃいいが…」
「至急だ、頼んだぞ」
カイトは足早に団長の部屋に向かった。
カイトがドアを開ける。
二人はカイトを見て、目を見開いた。
カイトは頭から足元まで、血で染まっている。
カイトはドアを閉め、置いてあった椅子に腰掛ける。
二人とも、何も言わずにカイトを見ている。
カイトは、大きなため息を一つだけついて、話し始めた。
「…しくじった」
八雲が一呼吸置いて尋ねる。
「何を?」
「それは、ニーナが来てから話す。
もう呼んだから、すぐ来るよ」
「…」
二人はカイトを無言で見つめる。
「心配しないでくれ。
見た目は悪いが、軽傷だよ」
数分後、部屋にドアをノックする音が響く。
「入ってまーす」
カイトが答えた。
ドアを開けたニーナは、不機嫌な顔をしている。
そして、ドアに背を向けて座っているカイトに、
「お前が来ないで、私を呼びつけるとはいい度胸…」
カイトが振り向くと、ニーナの目が見開かれた。
カイトの姿に言葉がすぐには出て来なかったが、
なんとか口を開いた。
「……ほ…ほう……すいぶん男前になったじゃないか…
…なんだ?…死ぬ前に私の顔を見たかったのか?」
「……ハッ…褒めてくれてありがとよ!
…あいにく、このくらいじゃ死ねなくてね!
ニーナを呼んだのは、ただちょっと貧血ぎみだからさ!
お前なら捨てるほど血が余ってるだろ!
ちょっと吸わせろ!」
カイトがニーナに飛びつく。
それをニーナが蹴り倒すと、
「カイト…そろそろ話を始めないか?」
八雲がつぶやいた。
二人は離れてカイトは椅子に座り直した。
「まず、俺が…」
カイトの言葉を片桐がさえぎる。
「カイトは話す前に、ニーナにはまだ何も説明をしていなかったから、私からまずニーナに、よろしいですか?」
「?」
ニーナは怪訝そうな顔で、片桐を見る。
「説明が遅くなったのは申し訳ないです。
ちょっと、お客様がきて色々たてこんでたもので」
「いいよ」
「まず今朝、私と団長はステイゴールドの戦闘報告会議に出席させてもらったのですが、
その時に、メイジ団長と幹部の確執を知りましてね…
それで、メイジ団長の知り合いという事で、幹部たちは私達の事もよく思ってないだろうと…
しかしそれでは、協力もしにくいですから、幹部の点数を少々稼ごうかと思ったんです」
「…いいんじゃないか」
「ええ。
ここまでは、問題ないのですが…
その点数稼ぎをカイトに頼んだ所、
現在のお姿…という事ですね。
以上です」
「なるほど」
ニーナはカイトに視線を送る。
カイトは、頭の後ろで手を組んで、椅子を揺らしながら話し始める。
「…んで片桐からは…できるだけ、目立ち過ぎないように…って話だったから、
まぁ、敵を百人くらい片付けるか、副長クラスを一人やればいいか…と思って、
片桐は内容は言わなかったからな?」
カイトは片桐に話をふる。
「ええ、おまかせしました」
「ただ、俺は何の情報も持ってなかったから、
とりあえず近くにいたステイゴールドの一番隊隊長のマーカスに聞いたんだ。
…手っ取り早く、敵にダメージを与えたいんだが、何か情報を持ってないかってな。
そしたら、偶然にも少し離れた所に、敵の三番隊の副長 根津が調達の為に、
少数で出てるって教えてくれたんだ。
んで、場所をメモしてもらって向かったんだ、これが証拠のメモな…」
カイトは血だらけになった紙キレを、八雲に渡し、
話を続ける。
「んで、そこに書かれてる場所に行くと、確かに奴らがいたから、
突入したんだ。
ただ、ターゲットの根津はいなくて、敵の二番隊の隊長ビエイラがいたんだよ」
「何!?」
ニーナが思わず呟いた。
八雲も目を細める。
「俺も驚いたよ…
しかも、俺が来る事を知ってる感じだったんだ。
俺が槍を振れない場所をわざわざ選んで待ち構えてたんだからな。
なんとか、勝ちはしたけど…こんな姿にされちゃったよ。
でさぁ、片桐から目立ち過ぎないように……ってのは、
目立つ相手をやっちまったから、守れなくて……大丈夫かな…?
って事なんだけど……」
部屋に少しの沈黙が流れた。
はじめに口を開いたのは、片桐だった。
「カイト…敵が違った事を誰かに言いましたか?」
「いいや、ここが初めてだ。
一緒にいた隊員も知らない」
「わかりました。
少し、これからの状況を整理しましょう。
まず、どうやら我々ロデオソウルズは、外にも中にも敵がいるという事になりましたね。
そして、カイトの死闘による影響ですが…
ブラッドベリーは、
幹部の二番手を殺られたのですから、これから、だまってはいません。
戦闘は激化するでしょう。
我々もステイゴールドも、悠長に構えて作戦を考える時間はなくなりました。
次に、ステイゴールドでは、
我々が大きな手柄を立てた事になり、幹部連中を嫉妬させてしまいます。
その上、二倍以上の団員数の敵を本気にさせたのですから、迷惑な話です。
ただ、
敵に大きなダメージを与えた事、
深く考えない団員達には、良い刺激となり、士気が上がる事。
これは、評価に値します。
こういう状況の中ですが、すぐに片付けたい問題は…
カイトにメモを渡したステイゴールド一番隊隊長マーカスですね」
ニーナが呟く。
「マーカスが裏切り者か?」
「いいえ、それはまだわかりません。
マーカスは、その情報をどうやって手に入れたのか、わかりませんから。
単独犯かどうかも…
さて……団長………いかがなさいますか?」
全員が八雲に目を向ける。
八雲は目をつぶって一呼吸置き、話し出した。
「……そうだな。
片桐の言ったように、状況は良くない。
これは、私が先手を打たれたという事が原因だ。
反省している。
しかし、おかげで目が覚めた。
皆は、少し忙しくなるが許してくれ。
まず、マーカスの件だが…
事を荒立てても仕方ない、しかし、内容は詳細に知らなければ対処できない。
この件は、片桐が調べてくれ。
ニーナはすぐに、この話をバニラと鳴子に話すんだ。
カイトは、すぐに治療をしろ。
いいな?」
皆はうなずく。
「今後の動きについては、明日の朝に話す。
6時に幹部会を開く。
以上だ」
三人が部屋を出て行こうとすると、八雲が一言つぶやいた。
「私達は狙われてるかもしれない、警戒しておけ」
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