第25話釣り

食料節約の為、調理班長のエリーに頼まれ、

マキオとカイトは、川で釣りをしている。

大きな岩の上から、二人並んで竿を立てている。


「ぜんぜん釣れないなぁ」


カイトはぼやく。


「そうだね」


マキオは、針を上げて餌がついているか、確かめている。


「マッキーはさぁ…釣れなかったら、何してくれんの?」


「は?何してくれるって…どういう事?」


「罰ゲームだよ、決まってんじゃん」


「そんなの聞いてないよ…何もしないし…」


「え〜…ノリ悪いなぁ」


「じゃあ、カイトは釣れなかったら何してくれるんだよ?」


「好きなヤツ教えるよ」


「マジで!?」


マキオは、ビックリして川に落ちそうになった。


「カカカッ、何してんだよ、もう…

 落ちたら魚が逃げちゃうじゃん」


「いや…カイトがビックリさせるから…」


「別にビックリさせてないし。

 マキオが勝手に驚いただけだろ?」


「マジで教えてくれんの?カイト?」


「ああ、いいよ」


「そっかぁ…じゃあ俺も恥ずかしいけど、負けたら言うよ」


「マキオは言わなくていいよ」


「は?なんで?」


「だって、マキオはバニラが好きなんだろ?」


「え〜!ど…どうして?…なんで?」


「カッカカカ…いや、知ってるし」


「誰に聞いたんだよ!」


「別に誰にも聞いてねぇよ。

 聞かなくても、みんな知ってんじゃないの?

 見てりゃわかるじゃん」


「マジかよ……」


「え?みんなにアピってたんじゃないの?」


「違うよ!

 もう…やだなぁ…」


「へぇ…天然だなぁ…マッキーは」


「誰が天然なんだよ!

 っていうか、カイトはマジで負けたら教えろよ!」


「いいよ〜別に〜」


「なんでそんな余裕なんだよ…

 カイトみたいな騒がしいタイプは、魚釣れないと思うけどなぁ…」


「じゃあ、今からスタートして、先に釣った方が勝ちな。

 よーいスタート!」


スタートと同時にカイトは、マキオの竿の先に石を投げた。

大きな水しぶきが上がるのを見て、カイトは笑っている。


「もう!やめろよ!まったく……

 でも、カイトも好きな人なんて、いるんだなぁ…

 誰なんだろう?」


「いるし。

 普通だろ」


「いや、ぜんぜんそんな話しないから、恋愛とか興味ないと思ってたよ」


「そんな男同士で、あんまりそういう話しないっしょ?

 ガキじゃないんだから…」


「そんな事ないよ…お酒飲んでる時とか、

 みんな、よくそんな話してるよ?」


「みんなって?」


「タイジも、コータローも、タツヤなんか彼女いるのに、

 誰が可愛いとか、しょっちゅう言ってるじゃん」


「だから、ガキなんだろ?あいつらは…」


「カイトもあんま歳は変わらないだろ?」


「精神的な話をしてんだよ。

 あいつらは、頭ん中がガキなの」


「…ガキねぇ…よくわかんないけどさ」


「マキオは、何でバニラがいいんだよ?」


「…それは……い…色々だよ…」


「あいつ、オッパイ小っせぇーじゃん」


「はぁ〜!何言ってんだよもう…

 そういう問題じゃないんだよ…

 まったく…ガキなのは、カイトの方だな…」


「だって、顔が可愛いヤツなら、他にもいるだろ?

 ミミミとか…ニーナとか…」


「なんで、そんな極端な人を例に出すんだよ…

 可愛いとか言っちゃ問題がありそうな二人を出すんじゃないよ」


「バニラか……う〜ん…

 守ってもらえそうだからとか?

 あいつ強いからなぁ…」


「違うよ……

 そうならないように、今頑張ってんだよ」


「ん?どういう意味?」


「だから…何かあった時には、

 俺がバニラを守ってやれるように、苦手な戦闘の稽古をしてるんだからさぁ…

 守ってもらえるとか、言わないでくれないかなぁ?」


「……ふ〜ん……そんな動機で、

 稽古してたのかぁ…」


「そんな動機って!…そ…そういうワケじゃないけど……片桐さんにも、

 好きな人がヤバい時に、弱いままでいいのかって、言われたし…

 やっぱ、男なら好きになった人を守りたいってのは、本音だよ。

 だから、頑張ってんの」


「…………」


「……ん?なんで何も言わないんだよ?」


「……別に」


「………なんだよ…無理だって思ってんのか…?」


「………思ってねぇよ…」


「……嘘だ!

 俺なんて、強くなれないって言いたいんだろ!

 自分で………死のうとしてたくせに……

 それさえ…まともに出来なかった俺なんて……

 カイトが助けてくれなきゃ、何も出来ないって思ってんだろ!?」


「………」


「……俺だってなぁ…カイトみたいに強くなれるなんて思ってないよ…

 たださぁ……皆んなの、足手まといにはなりたくないんだ…

 みんな………こんな俺と……仲良くしてくれるから……

 だから……迷惑は掛けたくないだけなんだよ…

 こんな俺だって…」


「足手まといなんかじゃねぇよ!

 そんな風に……誰も思ってねぇよ!!」


「………何…怒ってんだよ…?」


「………怒って…ねぇよ」


「…………」


「……なぁ……足手まといなんて………言うな…

 マキオがいてくれて、俺もすごく助かってるよ…

 お前みたいに、いいヤツは…このシュラにはあんまいねぇから…

 だから…マキオがいてくれるだけで、俺は救われてるんだよ…

 だからさぁ……そんな事……寂しい事、言わないでくれよ…」


「………ああ、わかったよ…

 …ごめん…」


「………」


「………」


「………」


「……なんだよカイト、まだ怒ってんのか?」


「………」


「…………誤っただろ?

 カイト…許せよな?」


「…………黙ってろよ」


「なんだよそれ!」


「うるせぇって!」


「お前!」


マキオが怒って立ち上がると、カイトも立ち上がる……が、竿を持ち上げながらだった。


カイトの竿の先には、キラキラと輝くニジマスが引っ掛かっていた。


「……は?」


「へへへっ…俺の勝ちだ」


「…………なんだよ…それ…」


「この勝負、俺の勝ちだー!

 

 おらーー!約束だーー!

 マキオーー!


 チンコ見せろーー!!!」


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