第19話傭兵団 VS ノクターン
司令室から出た三人は、ノクターン戦への順番決めをしている。
マシオが切り出す。
「キュウコ、順番はどうする?」
キュウコは、笑いながら並んで歩くミツイの肩を組む。
「さすがに、新人のミツイは、最後にしてもらうぜ?」
「えぇ?…俺も戦ってみたいです…」
「それはわかってるさ。
でもお前はまだ百人隊長になって間がないし、シノノメ期待のホープだ。
これからもチャンスは回ってくるさ。
それに比べ俺達は、百人隊長になって、もう何年も経ってる。
ここらで良い加減、大きな成果を出して、上に登りたいんだ。
わかってくれるだろ?
こんな出世の絶好の機会は滅多に来ないんだから。
悪いが、ここは先輩達に花をもたせてくれよ?頼む」
「…そうですね、わかりました。
納得はしませんけど先輩方に譲り、サポートに回りますよ」
キュウコは、ミツイの頭をポンと叩く。
「いいやつだなぁ、ミッチーは。
んじゃ、隊員は副長に守らせて…
20名ずつを連れてターゲットの建物に集合だ、
二人とも、いいな?」
マシオとミツイは頷き、それぞれの隊に戻る。
三人は、5分後にターゲットの建物の前で集合し、
キュウコが、集まった全隊員に指示を出す。
「揃ったな、いいか!今回は隊長の三人で、ノクターンを叩く。
お前ら隊員は、サポートに徹しろ。
もし万が一、三人が倒れるような事があれば、迷わず隊へ戻れ。
わかったか!」
キュウコの号令の後、マシオが戦闘のシフトを組む。
「まずは、キュウコが大剣で接近戦を仕掛けて、動きを封じてくれ。
奴の動きが止まったら、隙をついて俺の槍で攻撃する。
もし、キュウコと俺のどちらかが倒れた時は、ミツイが代われ、いいな?」
それぞれ、動きの確認をして、建物に入ろうとしたその時だった。
大きな爆発音とともに、9階の窓ガラスが粉々に弾け飛ぶ。
上を見上げると、ガラス片と共に十数人の人間が降ってきている。
皆、巻き添えを食わないように、走って避けていく。
その時、ミツイは、落ちてくる幾人もの人の中に、奇妙なモノを目にする。
それは、空中で落ちてくる人間を次々に足場にして、飛び跳ねている人間の姿だった。
その光景を見ていた誰かが、悲鳴に似た声で叫ぶ。
「ノクターンだ!」
地面に激突して、潰れる兵士。
その身体は水風船のように弾けて、真っ赤な血の噴水を吹き上げる。
その血は、重力に逆らい、地獄から逆さに降る血の雨だ。
赤黒い血の逆さ雨の中、それはフワリと音も立てずに舞い降りた。
ミツイは、生まれて初めて悪魔を目にした。
赤と黒の衣装、頭にはツノが生えたような不気味な帽子をかぶり、顔には白い仮面をつけている。
目元には星と涙の模様、口は笑っているようでもあり、泣いているようでもあった。
そして、その手には、巨大な大鎌が握られていた。
その異様としか表現できない光景を前に、数秒の間、誰一人として、動けるものはいなかった。
ノクターンは、動けないでいる周りの傭兵たちを見回して一言呟く。
「派手にやりすぎたかナ?」
そう言うと、ぼうぜんと立ち尽くす傭兵たちを尻目に、弾かれたように東に向かって走り出す。
キュウコは、すぐに声を取り戻した。
「奴めっ、逃げる気だ!追うぞ!」
その言葉に、傭兵たちも気を取り戻し、ノクターンを追いかける。
東の道路には、40名ほどの兵が封鎖しており、マシオ隊の180名も待機をしていた。
道路の先で見張りをしていたマシオ隊の兵が、走ってくるノクターンに気づく。
「スドウ副長!ノクターンがこちらに向かってきています!」
マシオ隊の女副長スドウは、マシオの安否が気になりながらも、急いで兵達に指示を出す。
「ひとまず奴を足止めする!
10名づつで一組になり、壁を作って動きを封じろ!
無理に仕掛けるな!
必ず援護の兵が来るだろうから、それまで耐えるんだ!
決して逃がすな!」
スドウの指示により、マシオ隊がノクターンの進行方向を塞いでいく。
その光景を目にして、ノクターンは壁の前で止まった。
「ナニ?
まだ遊び足りないのか?
もう…欲しがりさんだナ?」
そう言った瞬間に、閃光が走り一列目の兵は、全員首が弾け飛んだ。
その惨劇を見た二列目の兵士たちは、戦意を削がれ瞬時に逃げることを判断したが、
そう判断した頭も、すでに体から切り離されてしまっていた。
あまりの出来事に、200名近い兵士たちの壁は、一気に崩れ出した。
スドウは、逃げる兵士をなんとか食い止めようとする。
「引くな!堪えろ!
……くそっ
射撃隊、奴を撃て!
威嚇でもいい、少しでも奴の足を止めるんだ!」
後方に備えていた弓兵から、一斉に矢がノクターンめがけて放たれた。
ノクターンは、倒れている首なしの死体を掴むと、闘牛士のように人間をひるがえし、矢をかわす。
「ヒャッハー!ッオーレイッ!」
射撃隊がどれだけ矢を放っても、味方の遺体が無残な姿になっていくだけだった。
ノクターンは、狂った笑い声を上げている。
「あー面白いヨ!死んだ兵士たちが、仲間の矢で生まれ変わって、ハリネズミになっていクッ!
これが、輪廻転成ってヤツだナ!」
スドウは、ノクターンの非道な行いに憤慨し、剣を抜いた。
「くそっ、外道が!あたしが相手をしてやる」
崩れた人の壁の間を抜け、スドウがノクターンに立ち向かう。
スドウの武器は剣のため、大カマを持つノクターンとは、リーチの差がある。
(奴の間合いに入る前に、剣を突き刺すのは、無理だろう…
あの大鎌を先に振らせて…スキを作れば…)
スドウは、ノクターンの死角に入り、間合いを詰めながら携帯していた投げナイフを一気に二本放つ。
それと同時に全力で踏み込み、一気に剣が届く間合いにつめた。
……入った!
スドウは、剣を切り上げ仕留めたと思ったが……
ノクターンの大鎌は振られていなかった。
スドウが、剣を切り上げたと思ったのは、
ノクターンが、上半身を下に向け、回し蹴りでナイフを蹴り落とし、
その反動を利用しながら、スドウの首を刈り取った後だった。
「ノ〜ン……却下。
そんな発想じゃ、観客は喜ばないヨ?」
その瞬間、ノクターンは殺気を感じ、身体をねじるように回転させて、飛び退いた。
その数センチ横で、マシオの槍が唸っていた。
「オオッ!良かったよ今のワ!」
「貴様っ!よくもスドウを!」
なんとか追いついた三人だったが、副長のスドウが首だけになる場面を目撃してしまった。
その哀れな副長の姿を見たマシオは、冷静さを忘れ、感情が身体を動かしていた。
ノクターンは、追いつかれてしまった事に、落胆の溜息をつく。
「もう追いついたノ?足早いネ。
こんな所で鬼ごっこなんてやってないで、
日本に帰って(逃走中)にでも出てた方が楽しいんじゃなイ?」
「ふざけるな!許さんぞ、スドウを殺した事、後悔させてやる!」」
「おや、ずいぶん怒ってるようだネ?、短気は損気だョ……ン?……損気って何だっケ?」
「っ貴様!」
突っ込もうとするマシオを、キュウコが手で制する。
「落ち着けマシオ!奴の口車に乗るな!」
「うるさい!」
マシオは、キュウコの手を払いのけ、槍を一気に打ち込む。
ノクターンは、上半身をクネクネと動かし槍をかわす。
マシオは、間髪入れずに、槍撃を繰り出した。
「すごいネ、フゥッ、こんなに、ツォッ、速く、ヌェッ、槍を、リィッ、
突ける、ケェッ、なんテ!」
しかし、槍は全て、ギリギリの所でかわされていた。
だが、最後の一発を打ち込まれた時、ノクターンは大きく飛び退いた。
ノクターンの背後を、キュウコの剣先がかすめていた。
「……コンビネーションアタック?」
「クッ、かわされた!?」
キュウコは、完全に自分の間合いに入ったと確信していた為、驚きを隠せない。
「手を出すな!キュウコ!」
マシオが、キュウコの前をさえぎる。
「マシオ!待て、二人でやるぞ!」
キュウコの声は、マシオの耳には届かない。
「貴様のふざけた首を、スドウの墓前に飾ってやる!」
マシオは、槍を高速回転させながら、ノクターンを追撃する。
その刃円に触れた者は、一瞬で切り刻まれてしまうため、キュウコは近づけない。
「死ねぇ!」
槍がノクターンに触れる刹那
・・ツィン・・・
と、空気の切れる音がして、ノクターンの身体は前のめりになった。
次の瞬間、刃円は二つに別れ飛んでいく。
そして、マシオの首がずれ地面に滑り落ちた。
「扇風機のようだったネ。
宇宙人の声をしたかったナ」
キュウコは、あぜんとした。
が、急にノクターンは大カマを初めて、防御に使った。
ミツイが、一瞬で踏み込み、一撃を食らわせたのだ。
ノクターンは、その一撃を大鎌で受けると、当て身をしてミツイを後ろに弾き飛ばした。
そして、大鎌を振る間合いをとり、構える。
しかし、ミツイは着地の瞬間に再び踏み込んでおり、ノクターンを強襲した。
今度は、受け切れずに、ノクターンが弾き飛ばされる。
「………フフッ」
ノクターンは、それでも笑っていた。
だがキュウコは、ノクターンが怯んだ事を見逃さなかった。
全力を込めて、大剣を斬り下ろす。
ノクターンは、バク転でかろうじてかわした。
「面白いョ…君……でもチョット…おなかが痛くなってきたから…演技は中止、早退するョ」
そう言うとノクターンは、マシオの身体と頭を抱えて、逃げていく。
キュウコは、駆け出しミツイに声をかける。
「追うぞ、ミツイ!」
しかし、ミツイ走ってこない。
「ミツイ!?」
キュウコが振り向くと、ミツイが、手で押さえている腹部から、血が滴り落ちていた。
「どうした!?」
「・・すみません、ちょっと腹を・・」
ノクターンは、弾き飛ばされながらミツイの腹を切り裂いていた。
ミツイは、片膝をついて崩れ落ちた。
「ミツイ…しっかりしろ!!救護班を連れてこい!急げ!」
ノクターンは走りながら、右肩に違和感を感じ手を当てた。
「……ブラッド…」
どうやら、ミツイの一撃目を受け切れずに、食らっていたようだ。
「ミツイ…とか叫んでたなァ…覚えておくョ」
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